スタイルの極致  ロジャー・ゼラズニイ『伝道の書に捧げる薔薇』
伝導の
伝道の書に捧げる薔薇
ロジャー・ゼラズニイ 浅倉 久志 峯岸 久
早川書房 1976-11

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 スタイリッシュなSF作品を書く作家として、ロジャー・ゼラズニイは一般に認知されています。端的に言って、彼の作品は「かっこいい」のです。その原因は何だろうかと考えてみると、やはり文章のスタイルにあるようです。
 彼の作品の特徴として、未来の慣習やテクノロジー、他惑星などが登場する場合、その作品内では当たり前のこととして説明を加えない、というものがあります。これもやりすぎると、作品世界がなかなか理解できない、ということもあるのですが、上手くいった場合には、スピーディな印象を作品に与えることができます。コードウェイナー・スミスなども多用している手法ですね。
 さて、第一短編集である『伝道の書に捧げる薔薇』(浅倉久志、峯岸久訳 ハヤカワ文庫SF)。はっきりいってよくわからない作品もあるのですが、味わいのある佳作もいくつか含まれています。以下、いくつかご紹介しましょう。

 『悪魔の車』 近未来、車は人工知能を持つようになりますが、運転手を殺し野生化する車があらわれるようになります。車たちの首領である「悪魔の車」に兄を殺されたマードックは、悪魔の車に対抗するために、改造した愛車ジェニーとともに悪魔の車を追い続けます…。
 ストレートでわかりやすい作品。ジェニーが悪魔の車に対して同情してしまうところに哀愁を感じます。

 『この死すべき山』 登山家ジャック・サマーズは、まだだれも登攀したことのない「グレイ・シスター」と呼ばれる山に登る決心をし、仲間を集めて登山を開始します。しかし、山のところどころに異常な現象がおこり一行の邪魔をするのです。
 それでも進む彼らの前に、美しい女があらわれ、引き止めようとします。女は実体のない幻覚のようにも見えるのです。この山の頂上には一体なにがあるのだろうか? 女の正体はいったい何なのか…?
 「呪われた山」のSF的解釈とでも呼ぶべき作品です。冒険小説的要素の強い雄編。

 『超緩慢な国王たち』 動きが緩慢な国王たちが議論をしている間に、連れてきた類人猿が進化して、核戦争で絶滅してしまいます。宇宙船もさびて使えなくなってしまうのですが…。
 ロバート・シェクリイ風のユーモア短編。国王たちがなぜ緩慢なのかが最後に明かされる仕組みになっています。

 『重要美術品』 芸術に絶望した芸術家が、美術館のギリシャ彫刻の間に行き、自らが台座にのぼり彫刻となります。訓練の結果、だれも自分を人間だと思わなくなりますが、ある日若い女性がそばにやってきて、台座にのぼりはじめます。恋におちた二人は美術館を抜け出そうとしますが、まわりの彫刻に邪魔されてしまいます。まわりの彫刻も、みなもとは芸術家だったのです…。
 奇想天外なラブストーリー。ジョン・コリアかマルセル・エイメが書きそうな軽妙な作品です。

 『十二月の鍵』 極寒の惑星を開拓するために身体を改造された人間たち。しかし、惑星の消滅に伴って、生きる理由を失ってしまいます。彼らは自分たちが平安に暮らせる故郷を求めて、惑星改造に勤しみますが…。
 改造された人間たちの姿が「猫人間」というのがユニーク。とはいえ、故郷を求める彼らの姿には悲壮感さえ感じさせます。哀愁を帯びた佳作です。

 『ファイオリを愛した男』 言い伝えでは「ファイオリ」は、人間があと一月で死ぬという時にやって来て、その人間の最後の一月をいっしょに暮らし、およそ人間が知りうるありとあらゆる楽しみを与える、と言われています。「ファイオリ」に見えるのは生者だけ。死者やロボットは決して目に入らず、そして彼女達はこの全宇宙で最も美しい姿をとる、と言われているのです。死者の墓守りであるわたしは、命とひきかえにファイオリを愛するようになりますが…。
 死を引き寄せてしまう「ファイオリ」の淋しさ、彼女の涙の理由とは…? 寂寥感さえ感じさせる幻想的な名作。

 バラエティに富んだ短編集だけに、好みの別れる作品も多いと思います。よくわからないものもある一方で、もっとその世界に浸っていたいと思わせる作品もあります。とくに『十二月の鍵』『ファイオリを愛した男』あたりは、非常に名作なので、ぜひ読んでいただきたい作品ですね。
この記事に対するコメント
懐かしい
ゼラズニィ、懐かしいです。
一時期、とっても夢中になって集め・読んでました。
kazuouさん・他一般にいわれているように確かにスタイリッシュで「かっこいい」のですけれど
私は時々見え隠れする”滅びの美学”、仏教でいう”諸行無常”的な雰囲気が好きでした。
アンバーシリーズの第二期が訳されずにいるのが残念ですね。
【2008/03/04 07:03】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

>shenさん
そうですね、『光の王』なんて、もろに「諸行無常」ですし。ヒロイック・ファンタジーでも、東洋的な要素が多く含まれているところなんかが、日本人には親しく感じられるんでしょうか。
【2008/03/04 20:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


お久しぶりです。おセンチながら,「十二月の鍵」が一番素敵ですな。それにしても,タイトルナンバーと「その顔は・・・」をあえて外しておられるのは,やや意味深であります。
【2008/03/05 01:14】 URL | おおぎょるたこ #- [ 編集]

>おおぎょるたこさん
『十二月の鍵』もいいですが、おセンチ路線では『ファイオリを愛した男』の方が好きですね。
表題作と『その顔は・・・』は、世評は高いみたいですけど、個人的にはピンとこなかった…というのが正直なところです。
【2008/03/05 21:12】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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