くじを当て続ける男  埋もれた短編発掘その8
 タイムトラベルを扱ったストーリーは数あるものの、これは新機軸。エリオット・ケイポン『当たりくじは当たりくじ』(安立喜一訳 早川書房 ミステリマガジン1992年7月号所収)。しかし、このタイムトラベルには、思わぬ制限があったのです…。
 さびれたリバーズ・エッジ地区で、キャンディ・ストアを経営するリチャード・ディミトリオスは、タイム・マシンを完成します。しかしその機能にはかなりの制限がありました。

 移動できるのは未来に向かってわずかに三十六時間までで、しかも六十秒あまりしかとどまっていられない。だがそれ以上に大切でおそらく全宇宙の絶対不変の法則にのっとっていると思えるのは、未来をおとずれる時は肉体をもたない存在になることである。そこにいる一分の間、見る、聞く、動き回ることも可能だが、ものに触れたり、自分の姿や声を他人に認めてもらうことはできないのだ。

 このマシンを利用して、ディミトリオスは、宝くじを当てます。五百万ドルを手にしたディミトリオスでしたが、キャンディ・ストアは地区のために続けると明言します。一週間後、また宝くじを当てたディミトリオスは、二百二十万ドルを手に入れます。あまりの幸運に、州宝くじ事業本部長ハリスンは不審を抱き、部下の保安部長カバレッティに調査を命じます。しかし不正は全く見つかりません。その後もディミトリオスは宝くじを当て続け、それを慈善に使い、周りの地区の再生事業にとりかかるのです。
 ディミトリオスのせいで、宝くじの売れ行きはどんどん下がり、ついには販売中止という事態にいたります。
 宝くじの収益で、高速道路を作ろうという州知事の圧力もかかり、あわてたハリスンとカバレッティは、ディミトリオスを厄介払いする方法を練るのですが…。
 手に入れた大金を全て慈善事業に使ってしまうという善意の主人公がユニークです。調子に乗りすぎた主人公が痛い目を見る、というパターンに乗っ取った作品ではあるのですが、独創的な設定で読ませる作品です。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

kazuouさんの読書量ってすごいですね。わたしも頑張らねばと思います。
このレビューを読んでグリムウッドの『リプレイ』を思い出しました。
あれは輪廻を繰り返す主人公がスポーツの試合とか競馬の賭けで儲ける話でしたけど。
【2006/03/01 00:03】 URL | てん一 #- [ 編集]


いえいえ、短編ばっかですから。長編よりも短編集の方が読むのが楽ですしね。
『リプレイ』もいい小説ですよね。タイムトラベルがからむ作品って、どうも願望充足的な展開になるんですけど、あれはそういう下世話なレベルの関心と人生に対する精神的なものとが、うまく組合わさった作品だと思います。
タイムトラベルものって、僕も大好きなジャンルのひとつで、目に付いたものは一応読むようにしてます。最近では国内ものなんですけど、乾くるみの『リピート』がなかなか面白かったですよ。
【2006/03/01 00:20】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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