何が殺したか?  道尾秀介『ソロモンの犬』
4163262202ソロモンの犬
道尾 秀介
文藝春秋 2007-08

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 『向日葵の咲かない夏』『シャドウ』など、問題作を発表し続ける道尾秀介の『ソロモンの犬』(文藝春秋)は、著者初の「青春ミステリー」です。ただ、この作家が書くのが、ただの「青春ミステリー」であるはずもなく、全編に伏線と仕掛けが張り巡らされています。
 まず気になるのは「青春ミステリー」とはいいながら、青春から連想される、明るさや楽天性があまりないこと。各登場人物には、それぞれ暗い過去や悩みがあり、それが全編を覆い尽くしているのです。それを象徴するように、不安に満ちたシーンから物語は始まります。
 大学生である秋内静は、ある日天気雨に降られ、たまたま目に止まった喫茶店で雨宿りをすることにします。そこに現れたのは、友江京也、巻坂ひろ子、羽住智佳の三人。彼らは親しい仲でありながら、ある事件以来、お互い会うのを敬遠していたのです。
 その事件とは、四人の共通の知り合いである、大学の女性講師、椎崎鏡子の息子陽助が、飼い犬に手を引かれた拍子に車に轢かれ、亡くなったという事件。互いに何か隠しごとをしているのに感付きながらも、彼らは事件について再び話し合うことになります。そして秋内は、ある言葉を口にします「この中に、人殺しがいるのかいないのか」…。
 知り合いの男の子が、目の前で交通事故に遭い、死んでしまうという衝撃的な事件。飼い主を眼の前にして、なぜ飼い犬は走り出したのか?というのが、本書の中心的な謎になります。
 あらかじめ教えられたサインと勘違いして走り出したのではないか? それとも眼の悪い犬が、遠くの人物を飼い主と勘違いしたのだろうか? 事件の鍵が犬の習性にあると考えた秋内が、それを推理していく過程はなかなか論理的です。関連して、中盤から登場する動物学者の間宮助教授も、ユーモラスに描かれ、いい味を出しています。
 そして事件をめぐって軋轢を深める四人。京也を疑う秋内、クールフェイスで、追求をかわしつづける京也。事件以来、口を閉ざし続ける智佳、恋人の京也に疑惑を抱くひろ子、とそれぞれの登場人物の関係と感情の揺れ動きが、前半を中心に描かれます。ただ、このあたり、事件が本格的に動き出すまで、少々もたつき気味なので退屈してしまう方もいるかもしれません。
 驚かされるのは、真相に気づき始めた秋内を襲う、後半の怒濤の展開です。序盤のシーンで描かれる不可解な現象の原因がわかったときには、なるほど!と膝を打ちました。具体的に言うとネタを割るので書きませんが、コニー・ウィリスの某作品と似た展開と言えば、分かる人には分かるかもしれません。
 もったいないのは、その後の展開。最後に事件の真相と謎解きがなされるのですが、後半の急展開の後だと、はっきり言ってどうでもいいような気になってしまうのです。真相自体は、非常によく出来ていて、伏線の張り方にも感心するのですが、構成にもう少し工夫の余地がある気がします。
 この作家、もともとトリック、ドンデン返しなどを優先に構想していて、それに当てはめて物語を構成しているような印象があるのですが、本作は、それがもっとも露骨に出てしまった感じです。端的に言えば、登場人物に「血が通っていない」感じを受けてしまうのです。今までの作品では、登場人物のキャラクターがどうこう以前に、作品の構成や仕掛けが見事だったので、あまり気にならなかったのですが、本作品では、前半のもたつき具合もあって、青春小説的な部分での「ぎこちなさ」が目立ってしまった感が否めません。
 水準以上の作品であることは確かなのですが、もっと人物描写の部分でがんばってほしかったな、というのが正直なところですね。
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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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