夢で会いましょう  キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
4001140950マリアンヌの夢 (岩波少年文庫)
キャサリン ストー Catherine Storr 猪熊 葉子
岩波書店 2001-11

by G-Tools

 自分が望む「夢」が見たい。そんな誰もが持つ願望を実現する力を得た少女。しかし「夢」の世界はそんなに甘いものではなかったのです…。
 イギリスの作家キャサリン・ストーの『マリアンヌの夢』(猪熊葉子訳 岩波少年文庫)は、「夢」を扱ったファンタジーですが、ほのぼのとしたタイトルとは裏腹に、その味わいは恐怖小説のそれに近いほどの「怖さ」を持った作品です。
 10歳になる活発な少女マリアンヌは、長引く病気にかかってしまいます。しばらくベッドで過ごさなければならなくなったマリアンヌは、家庭教師のチェスターフィールド先生に習い事をすることになります。先生から、自分と同じような環境にいるという、病気の少年マークの話を聞いたマリアンヌは、彼に興味を抱きます。
 退屈しのぎに、古い裁縫箱の中を探っていたマリアンヌは、裁縫道具に混じって入っていた鉛筆を見つけます。ふとマリアンヌは、その鉛筆で画帳に絵を書き始めます。
 一軒の煙突のある家を描いたマリアンヌは、その夜、夢を見ます。そこに現れたのは、絵に描いた通りの家!
 しかしその家に入ることはできません。目を覚ましたマリアンヌは、自分を家の中に入れてくれる人間を描こうと、絵の中の家の窓に一人の少年の顔を描き込みます。
 そしてその夜「夢」の中の家に入ることに成功したマリアンヌは、マークという少年に出会いますが、彼は、小児まひで歩けない状態でした。「夢」の中の家が、自分が作ったものであることを力説するマリアンヌに対し、マークは信じようとせず鼻で笑います。怒ったマリアンヌは、起きるとすぐに、画帳の中の家に格子窓を作り、家の外には目のついた大岩をいくつも描き加えます。
 ふたたび「夢」の世界に現れたマリアンヌは、様子がいつもと違うのに気づきます。空は暗く、家には格子がはまっています。そして家の外には、自分達を監視する、一つ目の岩の化け物たちがいるのです。あわてて絵に描いた大岩たちを消そうとするマリアンヌですが、一度描いたものは、絶対に消えないのです…。
 画帳に描いた通りのものが「夢」の中に出現する、とはいえ、何でもありの、融通無碍な展開にはなりません。そこにはそれなりのルールがあるのです。一度描いたものは消せないし、人を増やそうと思っても「マーク」以外に人を登場させることはできないのです。そして怒りに駆られて、描き加えてしまった化け物たち。彼らは徐々に家に近付いてきます。マリアンヌとマークは、彼らから逃げられるのでしょうか…?
 「夢」の世界が、マリアンヌの思い通りになるといっても、それは画帳に絵を描き込む時点までであって、「夢」の中に入ってしまったら、超能力が使えるわけでも何でもありません。怪物たちから逃げるために、マリアンヌたちは知恵を絞るのです。
 「夢」の世界の謎、家を取り囲む怪物たちの謎、そして「夢」の中に登場するマークは、実在するマークと同一人物なのか?という謎も含めて、じつにサスペンスに富んだ展開になっています。
 現実世界では病気で臥せっているマリアンヌとマークが「夢」で出会う怪物たちは、おそらく「病」や「恐怖」の象徴なのでしょう。そして「夢」の世界全体がマリアンヌの内的世界であるという解釈もできます。「夢」の怪物たちの手を逃れることが、マリアンヌが、現実世界で病気を直し、また精神的に成長することとリンクしているのです。その意味で、成長小説としての側面が強い作品ではあります。
 怪物に囲まれた暗い家の中で、子供がたった二人、というシチュエーションからしてもうすでに「怖い」のですが、クライマックスの緊張度は半端ではありません。それまでの経過からして、マリアンヌとマーク以外の人間が助けにくることはありえず、怪物たちが消える事もありえない…ということがわかっているので、なおさらです。「夢」の中とはいえ、怪物たちに捕まったら、おそらく「死」が待っているのですから。
 著者のストーは、もと精神科医だそうで、その経験が上手く作品に反映されている感じがします。完成度の高さはもちろんですが、この「怖さ」は、大人の読者でも充分に感じ取れるものなので、児童文学だからといって、読まないでいるのは非常にもったいない作品ですね。
 ちなみにこの作品、バーナード・ローズ監督『ペーパーハウス/霊少女』として映画化されています。B級ホラーみたいな邦題ですが、作品自体は素晴らしい出来ばえ。幻想的な雰囲気と映像の美しさは必見です。こちらでは、怪物は登場せず、代わりに絵に描かれた「父親」が主人公を襲うという展開になっています。映画版の方もかなり怖いのでご注意を。
この記事に対するコメント
おもしろそうです
少年少女だけに読ませるにはもったいないようないいホラーですね(笑)
ナルニア国シリーズも収める岩波少年文庫は、ファンタジー&ホラーファンには案外穴場かも。
ジュヴナイルだからと変に気をまわさないで本気で怖さを盛り込む姿勢は嬉しいです。娘に勧めて自分も読もうかな。
【2008/01/06 11:45】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

名作です
『マリアンヌの夢』は、ほんとうにいい作品ですよ。僕のオールタイムベストに入るかも。
子供のころに読んだら、絶対忘れられなくなるような作品でしょうね。
僕は映画版を先に見ていて、原作にも興味を抱いたんですけど、これ岩波少年文庫に収録されるまで絶版で、なかなか見つからなかったんですよね。けっこうカルト的な名作だったらしくて。
中身は、やっぱり「ホラー」といっていいぐらい「怖い」です。ホラー小説ファンにこそ読んでもらいたい作品ですね。
ちなみに、映画版は、ホラー映画の名作リストにリストアップされていました(完全にホラー映画扱いです)。

岩波少年文庫は、意外な名作が入っていたりして、侮れないシリーズですね。
【2008/01/06 12:27】 URL | kazuou #- [ 編集]

気になる一冊です
ううむ、『マリアンヌの夢』、気になります。
以前に、同じく岩波少年文庫の『トムは真夜中の庭で』というのを人から教えてもらい、読んで仰天したことがありましたが、これもかなり面白そうですね。
ぜひ近々チャレンジしてみたいと思います。
【2008/01/08 01:12】 URL | sugata #8Y4d93Uo [ 編集]

名作ですよねっ
私は確か小学校の高学年の頃に初めて読みました。
それから何度となく読み返しましたが
そのたびに容赦ない「怖さ」にぞぞぞーっとしながら読んでましたよ。
愛読書… というのとはまた少し違うんですけど、特別な存在の作品です。
今でも本を持ってます♪

でもこの作品が映画になっていたとは知りませんでした。
一つ目の岩が登場しないのはちょっぴり残念ですが
絵に描かれた父親に襲われるというのも相当強烈そうです… ひー。
【2008/01/08 13:49】 URL | 四季 #Mo0CQuQg [ 編集]

>sugataさん
これはジャンルがどうという以前に、無条件でお勧めしたい作品ですね。
作品内世界が入れ子になっている、という設定上の面白さももちろんですが、何より雰囲気がすばらしいです。
『トムは真夜中の庭で』に劣らない魅力のある作品だと思いますよ。
【2008/01/08 18:37】 URL | kazuou #- [ 編集]

>四季さん
四季さんは、やっぱりご存じでしたか。
子供のころに読めたというのは、幸せな出会いですね。「愛読」するには、ちょっときつい作品ではありますが。

映画の方も、子供視点で描かれるてるんですが、かなり強烈ですね。ホラー映画は、山ほど見ていますが、その中でもインパクトでは抜きん出ています。
ストーリーは多少変更されてますが、映画に出てくる「家」も原作のイメージそのままだし、原作の良さを損なっていない良質の作品だと思います。
【2008/01/08 19:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


記事を途中まで読んだところで「あれ?この話どこかで…」と思ってたらやはり。
「ペーパーハウス/霊少女」は昔観たことがあります。あれもかなり怖かったけど原作があるとは知りませんでした。今度探してみます。
【2008/01/08 22:00】 URL | そら #- [ 編集]

映画もいいですよね
「ペーパーハウス/霊少女」も名作ですよね。あの映画を見て、まさか原作が児童文学とは思わないでしょうけど。もう一度見たいんですが、DVD化もされてないようなんですよね。
原作は岩波少年文庫に入ったので、わりとすぐ見つかると思いますよ。
【2008/01/09 06:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


「マリアンヌの夢」には続編があります。「海の休暇」(原題はマリアンヌとマーク)学研。
【2009/05/07 16:52】 URL | マガタマ #TY.N/4k. [ 編集]

>マガタマさん
マガタマさん、はじめまして。情報ありがとうございます。
続編が存在するのは知っていましたが、邦訳があるとは知りませんでした。ちょっと探してみたいと思います。
【2009/05/07 20:52】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/281-e5511dd6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

[読書] マリアンヌの夢・映画化(ずっと前だけど)

  ……ちょ。「マリアンヌの夢 (岩波少年文庫)」って映画化してたの!?  この作品は、私が小学生のころからずっと大好きな話で、たぶん中学生ぐらいのときに、ハードカバーをおこずかいで買ってしまったほど大好きな話なのです。  ストーリーとしては、病気で外に出る なまくらどもの記録【2009/04/15 09:06】

プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する