病んだ家  マーガレット・ミラー『眼の壁』
4094023518眼の壁
マーガレット ミラー Margaret Millar 船木 裕
小学館 1998-03

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 マーガレット・ミラーの作品の特徴を簡単に言うなら、人間心理を重視したサスペンス小説、といえるでしょうか。例えば、殺人や犯罪が起こり、その捜査の過程が描かれたとしても、いわゆる「本格ミステリ」のように、論理や殺人の証拠がはっきりと示されることは多くありません。あくまで、人間同士の関係から生まれる、心理的な論証が優先されます。実際、それらはミラーの筆にかかると、充分な説得力を持っているのです。
 後年の作品ほど、その重厚さが増してくる感があるのですが、初期の作品である『眼の壁』(船木裕訳 小学館文庫)においても、その特質は発揮されています。
 数年前の事故によって、盲目になってしまった女性ケルジー。彼女は、姉のアリス、兄のジョニー、そして婚約者のフィリップとともに、母親から相続した屋敷に住んでいます。資産家だった母親は、末娘のケルジーを溺愛し、遺産をケルジーだけに残したのです。
 ケルジーは、自分が盲目になったのは、事故の際、一緒に乗っていたフィリップのせいだと思い込み、結婚を遅らせ、フィリップを屋敷に閉じ込めていました。そして、他の家族もケルジーに対して愛憎半ばした気持ちを抱いているのです。そしてある日、ケルジーは自殺未遂を起こしてしまいますが…。
 障害者になってしまった若い娘が、性格を歪ませ、周りの人間を苦しめる、というのが、序盤を読みすすめて最初に抱く、作品の印象です。実際その線にしたがって殺人が起きます。ケルジーと、周りの登場人物たちの感情の軋轢がテーマなのかな、と思いきや、物語は急展開するのです。
 この急展開によって、物語の解釈がだいぶ変わってしまうのですが、それが必ずしも成功しているとはいえないところがつらいです。なにより、特異な性格のキャラクターとして登場した、ケルジーの魅力が生かしきれていないところが気になります。「急展開」が、物語の流れをそいでしまっている感があるのです。
 ところどころの心理描写、全体を通しての閉塞的な雰囲気は素晴らしく、そしてトリックもなかなかなのですが、最終的な結末にいたるまでの、クライマックスの盛り上げ方、必然性が不自然な気がするところが、非常にもったいない作品ですね。
この記事に対するコメント
こんばんは。
マーガレット・ミラーは好きな方で、創元推理から出てるのは5~6冊ほど読みました(といっても5年以上前に読んだので内容は殆ど覚えてませんが(苦笑))。描写の仕方がたまにルース・レンデルに似てるなと思った記憶があるのですが、気のせいかしら。

『眼の壁』は読んだことがないのですが、重そうなテーマですね。マーガレット・ミラー作品は読み終えたあと「すっきりしない感」があるイメージがあるのですが、この本もそうなのかな?「すっきりしない感」があっても面白く読めた本が数冊あったような・・・。どの本だっただろう?久しぶりにマーガレット・ミラーを読みたくなっちゃいました。
【2007/12/12 00:30】 URL | TKAT #- [ 編集]

すっきりしないです
『殺す風』を読んで衝撃を受けて以来、ミラーの作品は読むようにしています。たしかにどの作品も「すっきりしない」のだけれど、後味は悪くないんですよね。たいてい不幸な結末に終わるし、作品によっては、どうなったのかすらわからない、というものもありました。でも、下手なサイコスリラーより、よっぽどインパクトがあります。
たぶん、レンデルの方がミラーに影響を受けているんじゃないでしょうか。

『眼の壁』は、初期作品の中では、邦訳が遅れていた作品で、期待して読みました。
結果は、うーん、長短半ばする、といったところでしょうか。トリックを変なところで使うので、物語の流れが歪んじゃっている感じです。後期のミラーだったら、もっと自然な感じになると思うんですけど。でもミラー独特の雰囲気や心理描写は相変わらずで、その点では満足できると思います。
【2007/12/12 06:53】 URL | kazuou #- [ 編集]

ミラーすごく苦手です(その割には読んで、結果として忘れました)
こんばんは。
「殺す風」は今思うと、ミラーらしからぬ(?)他の作家であっても不思議はない(?)作品だったと思います。「鉄の門」はミステリ解説書ですごく評価されていて、読みたいと思っていました。
早川からのミラーは殆ど絶版で、創元から何かが出るという話になった時に、創元に電話して「鉄の門」出るんですか?ときいてしまった過去があります。
「鉄の門」はそこまで面白くはないですよと答えた方がいらっしゃいました。
後に「鉄の門」その他ミラーよんだんですが、ダメでした(その割に読んだんですが)

で、拒絶反応(?)なのか、スコーンと忘れてしまっているんです。「ごめんなさい。読めません」という気持ちのみ残ってます。

レンデルは昔はダメだったんですが、最近はある程度読めるようになりました。レンデル(ヴァイン名義)の怖さは基本「愛憎」に起因するものが多いような気がして、だからある意味、分かりやすいのではないか、ミラーはもっと恐ろしさを感じてしまうんです。

って、ずっと読んでいないので、印象だけなんですけど。
【2007/12/12 21:01】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ミラーも随分クセのある作家なので、かなり好き嫌いがわかれる気がします。僕は最初に『まるで天使のような』を読もうとして、途中で挫折しちゃいました。
しばらくして『殺す風』を読んだんですけど、これがすんなり読めたのも、あんまりミラーっぽいクセがなかったからなのかも。
その後読んだミラー作品はどれも面白く読めました。『鉄の門』も傑作ではないかもしれないけど、わりと好きです。
最後期の作品になると、あまりに突き抜けちゃって、ついていけない気もしますけどね。
【2007/12/12 21:17】 URL | kazuou #- [ 編集]

「ミランダ殺し」が好きです
こんにちは。
ミラーには一時はまりまして、まとめて読みました。
(「鉄の門」は入手できませんでしたが)
「ミランダ殺し」(創元推理文庫)の皮肉にあふれたユーモア、
「明日訪ねてくるがよい」(ハヤカワ・ポケミス)の鮮やかな幕切れが
特に印象に残っています。
「殺す風」もよかったなあ。
【2007/12/16 08:16】 URL | 木曽のあばら屋 #GHYvW2h6 [ 編集]

>木曽のあばら屋さん
コメントありがとうございます。
後味はともかく、ミラーにはふしぎな魅力がありますよね。
初期の重厚なサスペンスも好きですが、後期の作品にもまた魅力があります。
木曽さんのおっしゃる通り、『ミランダ殺し』なんかユーモアも感じられますし。後期になるにしたがって、「達観」しちゃったというか、「枯れたような」味が出てきたのも、また面白いところだと思います。
僕のベストは
『殺す風』、『耳をすます壁』、『これより先怪物領域』あたりでしょうか。『ミランダ殺し』もけっこう好きな作品です。
『鉄の門』も、ミラーにしてはシンプルかもしれませんが、なかなか面白かったですよ。
【2007/12/16 08:48】 URL | kazuou #- [ 編集]


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