匿名のイメージ化  コミック星新一『午後の恐竜』『空への門』
4253104606コミック☆星新一午後の恐竜
星 新一 志村 貴子 小田 ひで次
秋田書店 2003-06

by G-Tools
4253104614コミック☆星新一空への門
星 新一
秋田書店 2004-07-15

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 ショート・ショートの代名詞的存在である作家、星新一。彼の作品は、教科書にも載るほどの人気と知名度を持っています。
 そんな星作品の漫画化という、ありそうでなかった企画がこの二冊『午後の恐竜』『空への門』(ともに秋田書店刊)です。どちらも、複数の漫画家が、それぞれ短篇やショート・ショートを漫画化するという競作の形をとっています。
 まずはそれぞれの収録内容を紹介しましょう。

 『午後の恐竜』
 『ボッコちゃん』JUN
 『金色のピン』川口まどか
 『天使考』木々
 『殺し屋ですのよ』かずはしとも
 『おーい、でてこーい』鯖玉弓
 『午後の恐竜』白井裕子
 『現代の人生』有田景
 『生活維持省』志村貴子
 『夜の事件』小田ひで次
 『箱』小田ひで次

 『空への門』
 『空への門』鬼頭莫宏
 『鏡』羽央
 『患者』東山むつき
 『冬の蝶』阿部潤
 『処刑』阿部潤
 『程度の問題』人見茜
 『宿命』川口まどか
 『ゆきとどいた生活』鈴木志保

 あまたある星新一作品の中でも、人気のあるものが集められている感じですね。とくに『ボッコちゃん』『おーい、でてこーい』『午後の恐竜』『ゆきとどいた生活』などは、超のつく名作といってもいいと思います。
 有名な作品ばかりなので、あえてあらすじは紹介しませんが、印象に残ったものについて、いくつか記しましょう。
 『午後の恐竜』収録作品では、小田ひで次の2作品が出色。『夜の事件』では、地球侵略に現れるエイリアンたちが、ユーモアたっぷりに表現されていて、愉しい作品になっています。『箱』は、原作自体が余韻のある寓話なのですが、それを見事に具体化しています。この方の絵柄は、ある種、泥臭いといっていいぐらいなのですが、それが上手く原作とマッチして「暖かさ」や「懐かしさ」を出すのに成功しています。
 『空への門』収録作品では、『鏡』に登場する「悪魔」が、かなりグロテスクに造形されているのが印象に残ります。いちばんよかったのは、阿部潤の『処刑』でしょうか。画風はリアルタッチなのですが、追いつめられた主人公の感情を、非常に上手く表現しています。
 両書とも、作品のストーリーやプロットの完成度は保証されているので、原作のあらすじを知らない人が読めば、どれも面白く読めるでしょう。
 その点、原作をすでに読んでいる人にとっては、ちょっと物足りない面もあります。作品の筋を知っているだけに、漫画化の際の表現や演出などに、しぜんと意識が向かうのですが、無難にまとまってしまっている作品が多いな、という印象を受けてしまうのです。
 もともと星作品の特徴は、時代を感じさせる風俗や風景を描かない、というところにあります。作品が古びるのを防ぎ、普遍性を作品に与えようと意識的になった結果、登場人物も抽象化されているわけです。「エヌ氏」に代表される登場人物は、どれもみな年齢や容貌など、具体的なイメージが極力排されていることからも、それはわかります。
 抽象性、匿名性を強調されている星新一作品を漫画化(具体的なイメージ化といっていいかもしれません)すること自体に、かなり無理があるわけで、そういうことを考え合わせると、それなりに成功しているとはいえるでしょう。
 とりあえず、原作を読んでから漫画化作品を読むと、あらためて原作の凄さ、面白さがわかりますし、漫画化された作品の工夫も感じられると思います。原作と合わせてお読みになることをお勧めしておきます。

テーマ:オススメ本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
映像化
星新一作品の映像化といえば、DVD「きまぐれロボット」を思い出します。
これは、ネット配信したアニメをあつめたものでした。
各作品名ごとに監督がちがうのですが、とにかく尺が短くて、みなさん必死で話をつめこんだという感じでした。

【2007/11/19 23:48】 URL | タナカ #- [ 編集]

再発掘
買い控えていたものが、何年かして、
「ああ、やっぱり買っておけばよかった」
と後悔することが時折あります。
今回のコミックはそんなひとつでした。
これを機会に探してみようと思いました。
(追記:今回もトラックバックさせて頂きました。)
【2007/11/20 05:38】 URL | inmymemory #fOnhQ/A. [ 編集]

>タナカさん
DVD「きまぐれロボット」は、僕も見ました。よくできていたとは思うけど、やっぱり星新一の世界とは、ちょっと違うなあ、という感じでしたね。
やっぱり星作品の映像化は難しいんでしょうね。
【2007/11/20 19:55】 URL | kazuou #- [ 編集]

>inmymemoryさん
発売当時には、ほとんど興味がなかったものが、後から興味が出てきたりすることもあるので、なかなか難しいところですね。

このコミックは、まだ新刊書店でわりとよく見かけるので、まだ入手は易しいと思います。

あと、トラックバックもありがとうございました。
【2007/11/20 20:16】 URL | kazuou #- [ 編集]


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[blog][sf]かつてブログを続けることに疑問を感じた頃の話

11/11日にNHKで放映した「星新一 ショートショート劇場」が出来栄えが良かったとの評を見て、見逃したことを悔やんでいたのだが「奇妙な世界の片隅で」で「コミック☆星新一午後の恐竜」と「コミック☆星新一空への門」でこちらも面白そうなので購入することに。SFのコ 心揺々として戸惑ひ易く【2007/11/20 05:26】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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