私家版・世界幻想短編集十選
 寡聞にして知らなかったのですが、どうやら巷でいろいろな「十選」が流行っているそうです。「世界十大文学」を皮切りに、自分の好みの「十選」を挙げるという試み、なかなか面白そうなので、僕もちょっと考えてみました。
 自分のいちばん好きなものは、と考えると、やっぱり短篇。あとジャンル的には「幻想小説」ですね。ということで、幻想的な要素のある短編集から選んでみました。


4003241428ホフマン短篇集 (岩波文庫)
ホフマン E.T.A. Hoffmann 池内 紀
岩波書店 1984-09

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E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
 まずは、ドイツ・ロマン派の幻想作家ホフマンの作品。基本的にはどの作品でもいいんですが、訳の素晴らしさとバランスの取れたセレクションでは、この岩波文庫版が随一でしょう。
 フロイトがとり上げたことでも有名な、元祖サイコ・ホラーともいうべき『砂男』、ユーモアと切なさが同居する音楽奇譚『クレスペル顧問官』、この世ならざるヴィジョンが美しい、鉱物幻想小説『ファールンの鉱山』など、傑作揃いです。



4480420274稲垣足穂コレクション2 (ちくま文庫)
稲垣 足穂
筑摩書房 2005-02-09

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稲垣足穂『ヰタ マキニカリス』(河出文庫、ちくま文庫ほか)
 近代的な意味での「人間」を描くことを拒否して、ただただ星と月をめぐる物語をつづり続けた作家、稲垣足穂。その特質がもっとも純粋に現れた作品集です。
 おとぎ話の枠を超えて、形而上の域にまで達した感のある掌編集『一千一秒物語』、ダンセイニを換骨奪胎した月取り物語『黄漠奇聞』、カルヴィーノを思わせる月光ファンタジー『ココァ山の話』など。今読んでも全く古びていません。



B000J8IRJO失われた部屋 (1979年)
大滝 啓裕
サンリオ 1979-03

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フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『失われた部屋』(大瀧啓裕訳 サンリオSF文庫)
 19世紀半ば、珠玉のような作品を遺した、伝説の幻想作家フィッツ=ジェイムズ・オブライエンの短編集。現在のSFやファンタジーの原形であり、その純粋さが薄れていなかった時代の、みずみずしいファンタジーです。
 エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』を先取りしたかのような、小宇宙におけるラブストーリー『ダイヤモンドのレンズ』、壁から口や手の生えた奇怪な館の登場する、シュールなファンタジー『口から手へ』、優しさと切なさのあふれる人形物語『ワンダースミス』、怪奇小説のマスターピースとしても有名な『あれは何だったのか』など。



448002395Xマルタン君物語
マルセル エーメ 江口 清
筑摩書房 1990-04

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マルセル・エーメ『マルタン君物語』(江口清訳 ちくま文庫)
 奇天烈な物語設定を得意とするエーメの作品中でも、とびきり奇天烈な物語が収められた連作短編集です。
 登場人物を殺しまくる小説家が小説の世界に巻き込まれる『小説家のマルタン』、一日おきに存在しなくなるという男の奇怪な運命を描いた『死んでいる時間』など、この作家にしか描きえないファンタジーが目白押しです。
 くわしい記事はこちらにあります。



488611301X階段の悪夢―短篇集
ディーノ・ブッツァーティ 千種 堅
図書新聞 1992-06

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ディーノ・ブッツァーティ『階段の悪夢』(千種堅訳 図書新聞)
 最近、光文社の古典新訳文庫からも、作品集が刊行されて話題になった、ブッツァーティの短編集。短い掌編が中心ですが、そのアイディアの斬新さ、技巧の冴えは素晴らしいの一言。
 時間をめぐる連作ファンタジー『時間のほつれ』、何の変哲もない日常風景が、悪夢のようになってしまうという、超絶的な技巧が凝らされた『クレシェンド』、二人の会話が現実をも変えてしまう驚異の作品『二人噺』など。この手の作品に慣れた人でも、驚かされる部分が多いでしょう。
 なお、ブッツァーティに関してはこちらをご参照ください。



B000J79VTA今夜の私は危険よ―ウールリッチ幻想小説集 (1983年)
高橋 豊
早川書房 1983-11

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コーネル・ウールリッチ『今夜の私は危険よ』(高橋豊訳 ハヤカワ・ミステリ)
 もともと、雰囲気的には幻想小説に近しいものをもつウールリッチですが、この短編集は、超自然味のある、文字どおりの幻想小説を集めた珍しい一冊です。
 悪魔のドレスを着た女性の運命を描く『今夜の私は危険よ』、蘇生させられた女性をめぐる純愛物語『ジェーン・ブラウンの体』など、題材こそホラーですが、そのトーンはやはりウールリッチだけあって、甘美なものが多いです。



B000J941A2刺絡・死の舞踏―他 シュトローブル短篇集 (1974年)
前川 道介
創土社 1974

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カール・ハンス・シュトローブル『刺絡・死の舞踏他』(前川道介訳 創土社)
 20世紀前半にオーストリアで活躍した作家、シュトローブルの怪奇小説集。怪奇小説にはユーモアも必要だ、と言ったことでも有名ですが、実作でもそれを実践しているようです。
 悪夢じみたラストの情景が美しい『死の舞踏』。筒井康隆を思わせる、スラップスティックなユーモア怪奇小説『メカニズムの勝利』などが秀逸です。



B000J8H3C6妖精たちの王国 (1979年) (妖精文庫〈20〉)
八十島 薫
月刊ペン社 1979-05

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シルヴィア・タウンゼント・ウォーナー『妖精たちの王国』(八十島薫訳 月刊ペン社)
 ウォーナーは、現代に「妖精物語」を蘇らせた功労者ともいうべき人。その作品は、現代に生きる妖精を描いたモダン・フェアリー・テイルとなっています。ユーモアに富んだ軽やかな物語でありながら、ときに登場人物には残酷な運命が待っていたりするのが、一筋縄ではいかないところ。とくに、互いに入れ替えられた妖精と人間の子供の運命を描く『ひとりともうひとり』は大傑作です。



4622080567悪戯の愉しみ (大人の本棚)
アルフォンス アレー Alphonse Allais 山田 稔
みすず書房 2005-03

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アルフォンス・アレー『悪戯の愉しみ』(山田稔訳 みすず書房)
 エスプリに満ちたシュールなコントをたくさん遺したアレーのコント集。いたずらやブラックユーモアに満ちた作風は、真面目な人には眉をひそめられてしまうかも。
 水の中の微生物が苦しむことに怒りを覚える男の話『小さな生命を大切に』、ニシンが進化しはじめる冗談のような物語『ウソのような話』、死体をエネルギー源にしようとするブラックな話『ザ・コープスカー』など。一読、唖然とすること請け合いです。



448801609Xロコス亭の奇妙な人々
フェリペ アルファウ Felipe Alfau 青木 純子
東京創元社 1995-11

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フェリペ・アルファウ『ロコス亭の奇妙な人々』(青木純子訳 東京創元社)
 「ロコス亭」に集まる人々の奇妙な運命を描いた連作短編集、なのですが、作品世界内で、登場人物が違う役割で登場したり、思わぬところで物語がつながっていたりと、メタフィクション的な要素を多分に含んだ作品になっています。個々の話も、財布を盗まれた警視総監だとか、存在感が薄すぎて誰にも気づいてもらえない男だとか、気妙奇天烈なものばかり。とにかく、あちらこちらにある「仕掛け」が楽しい一冊です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

副題に「洋燈の灯りで愉しむ・・・」とつけたくなるような十選ですね。
ラスト2冊は読後に”ハイ”な気分なるので副々題で「徹夜明けに・・」でしょうか。
『妖精たちの王国』が入っているのが意外でした。
【2007/10/29 00:05】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

> shenさん
さすがに、shenさんはいろいろ読んでいらっしゃいますね。
個人的に「幻想小説」に求める資質は、第一に「軽やかさ」なので、こんなセレクションになりました。『刺絡…』はちょっと違うような気もしますが(笑)。

『妖精たちの王国』は、じつは大好きな本です。〈妖精文庫〉を手当たり次第に読んでいたときに出会って、一読、虜になりました。ウォーナーは、これ以外邦訳がないみたいですが、もっと他の作品を読んでみたい作家ですね。
【2007/10/29 06:22】 URL | kazuou #- [ 編集]

さすがのセレクト
期待通りのセレクションでした。
一般的には幻想文学は冗長なほどよいとされていますが、
ここに挙げられた掌篇はどれも傑作ばかりですね。
僕もちょうど次の記事は短篇ベスト100を書く予定でしたので、
選ぶ上で参考になりました。
【2007/10/30 04:41】 URL | inmymemory #- [ 編集]

>inmymemoryさん
楽しい作業でした。
幻想文学のベストで挙がる作品は、だいたい長大なものが多いので、なかなか手を出しづらいんですよね。その点、短篇集は手にとりやすいのではないかと思って、選んでみました。

短篇ベスト100! inmymemoryさんの記事がアップされるのを楽しみにしています。
【2007/10/30 06:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


100では収まりきらず、168になりました。。。
もしお好きなものが重なっていたら、教えてください。
取り急ぎお知らせまで
【2007/11/03 02:36】 URL | inmymemory #fOnhQ/A. [ 編集]

>inmymemoryさん
さっそく拝見しました。労作のリストですね。
「短篇」全般から、うまくセレクションされていると思います。
【2007/11/03 08:16】 URL | kazuou #- [ 編集]


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みじかよにひそやかにたのしみたい、たなごころのしょうせつ。 僕がブログを書いていて楽しいことのひとつは、アンソロジストになれること。DJのようなコンポジット感覚への愉悦。これほど楽しい作業はない。そして一度書き上げたリストは時と共に移り行く。だから、僕は、 心揺々として戸惑ひ易く【2007/11/03 00:55】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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