哀しき寓話  チャールズ・ボウモント『残酷な童話』
4846007669残酷な童話 (ダーク・ファンタジー・コレクション (7))
チャールズ・ボウモント
論創社 2007-10

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 〈異色作家〉のひとりとして、また、オムニバスドラマ『ミステリー・ゾーン』の脚本家としても知られるチャールズ・ボウモント(ボーモント)。
 〈異色作家短編集〉の一冊として刊行された『夜の旅その他の旅』以来、数十年を経ての邦訳となる短編集『残酷な童話』(仁賀克雄訳 論創社) は、期待に違わない出来です。

 『残酷な童話』 精神状態のおかしくなった母親とともに暮らすロバート。男性を憎む母親の手により、ロバートは女の子として育てられます。外界との接触を断たれたロバートは成長するにつれ、違和感を抱き始めます。しかし母親は強圧的な態度で、彼を支配し続けようとします…。
 かって『ロバータ』という題で訳されていたこともある作品です。主人公の実際の性別を隠すような「仕掛け」をせずに、異常かつ残酷なシチュエーションをあくまで淡々と描写するというところに、この作品の凄みがあります。レイ・ブラッドベリの『びっくり箱』とも通底するテーマを扱った、インパクト溢れる作品。

 『消えゆくアメリカ人』 ある日突然、周りの人間から見えなくなってしまった男ミンチェル。妻子にさえ彼の姿は見えません。彼は思い当たります。自分の姿は突然消えたわけではない。いつの間にか、長い間をかけて、だんだんと薄れてきたのだ…。
 「透明」になってしまった男が、自分のアイデンティティーを取り戻そうとする、哀感あふれるファンタジー。姿が消えてなお、会社には行き続けなければならないと考える、主人公の姿が印象的です。

 『フェア・レディ』 ささいな言葉のやり取りから、バスの運転手の男に恋をしたオールドミス。毎朝、彼の運転するバスに乗り続けた彼女は、ある日彼が配置転換させられたことに気づき愕然としますが…。
 オールドミスのささやかな恋を描く、スケッチ風の小品。洗練された最後の一行が記憶に残ります。

 『ただの土』 「ただ」であることに異様に執着するミスター・エイオータは、ある看板に目を引かれます。そこには「無料の土」について書かれていました。彼はさっそくトラックで運びきれないほどの土を持ち帰ります。しかしその土は「墓地」のものだったのです…。
  「墓地の土」というホラー味のあるアイテムに、主人公の特異なキャラクターを絡ませた、非常にユニークな作品です。プロットとキャラクターが有機的に結びついた、一読忘れがたい、奇妙な味の短篇。

 『自宅参観日』 疎遠だった友人たちの訪問を受けたミスター・ピアス。喜ぶべきことなのに、彼の顔は冴えません。トイレを使いたいという友人をピアスは必死に引き止めます。バスルームには妻の死体があったからです…。
 殺人の発覚を防ぐために、ピアスのとった行動とは…? 友人を始末せざるを得なくなった男を描く、皮肉なクライム・ストーリーです。

 『ダーク・ミュージック』 女性教師ミス・メイプルは、時代錯誤なほどの潔癖症でした。性教育を徹底拒否し、男女のつきあいにも不寛容な彼女は、周りの人間から疎まれていました。しかしある夜、不思議な音楽に誘われて外に出たミス・メイプルは、妙な高揚感に囚われます…。
 「お固い」女性教師が「牧神」らしき存在に誘惑される性的ファンタジー。

 『変態者』 異性愛が禁止された近未来、異性とつきあう人間は犯罪者とみなされていました。ジェッシは、男装した恋人と逢い引きしようと考えますが…。
 同性愛の立場を逆転させた風刺SFです。題材がかなりストレートなだけに、今読むと、いささか古びている感もあります。

 『子守唄』 心に病気をかかえた老女は、自分の息子がいまだに幼児であると思い込んでいました。大人になった息子を見ても、自分の子であると認識できないのです。ある夜、犯罪を犯した息子が、かくまってくれと家に飛び来んできますが…。
 狂った母親と、その影響で犯罪に手を染めた息子。家族の歪んだ関係を描くサイコホラーです。

 『犬の毛』 異常なほど死を恐れる男ギッシングは、ある悪魔じみた男から取引を持ちかけられます。男は、不老不死を提供しようというのです。支払いの代価はなんと「髪の毛一本」! 毎月、髪の毛一本を送付する限りにおいて、永遠の命が保証されるのです。ただし髪の毛は本人のものでなければなりません。ギッシングは喜んで契約しますが、やがて自分の髪の毛が薄くなりつつあることに気づきます…。
 「悪魔との取引」を扱ったユーモラスなファンタジー。オチは脱力系ながら、発想はなかなかユニークです。

 この短編集、SFやホラーに混じって、普通小説もいくつか含まれていますが、今読むと大分古びている感は否めません。全体的に、訳文が、あまりこなれていないせいもあって、よけいそんな印象を持ってしまうのでしょうか。
 ただ、訳文の悪さを差し引いても、いくつかの作品の素晴らしさは変わりません。とくに『残酷な童話』『ただの土』は、ぜひ読んでいただきたい傑作です。 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

 存在感の希薄さが切ない「消えゆくアメリカ人」,ただ食いの結末が恐ろしい「ただの土」と「変態者」は読んだことがあります。「変態者」は,ソーセージのような指をくねくねとくねらせるという部分が奇妙に気色悪くて気に入っておりますが,ちょっとこのタイトルはいかついですなあ。まあ,この訳者さんらしいといえばそうなのでしょうが。「残酷な童話」と「犬の毛」が面白そうなので,さて買おうかどうか悩ましいところですな。
【2007/10/24 00:42】 URL | おおぎょるたこ #- [ 編集]

>おおぎょるたこさん
さすがに、今では少し古いな、というところもありますが、やっぱりボーモントならではの才気が感じられて、読んで損はないと思います。往年の異色作家ファンにはマストアイテムでしょう。
「ただの土」も「残酷な童話」も既訳がありますが、そっちの方が訳がずっといいですね。
全体に、訳にかなり問題がある感じではあるんですが、この訳者、以前はもう少しましだったように思うのは、気のせいでしょうか。別の訳者だったら、たぶん評価はもっと上がったと思います。
【2007/10/24 06:53】 URL | kazuou #- [ 編集]

読みました
kazuouさんのところで表紙をみてからずっと読もうと思っていて、ようやく読めました。
確かにちょっと古さを感じさせる作品もありましたけど、きらりと光るものがあるというか、見せ方がとても上手だなぁと思いましたねー。

kazuouさんのところで見て読みたいと思ってる作品がまだまだたくさんあります。読むぞー。
【2007/12/13 23:50】 URL | りつこ #- [ 編集]

>りつこさん
訳文がもっとこなれていたら、良かったんですけどね。それでも作者の器用さが充分窺える感じです。
この作家、ずいぶん早死だったそうですけど、もっと長生きしてたら、すごい作家になったかも。
【2007/12/14 06:56】 URL | kazuou #- [ 編集]


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