次元間ストレス解消法  アーシュラ・K・ル・グィン『なつかしく謎めいて』
4309204503なつかしく謎めいて (Modern & classic)
アーシュラ・K. ル=グウィン 谷垣 暁美
河出書房新社 2005-11

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 「異世界」を扱ったファンタジーは数あれど、アーシュラ・K・ル・グィン『なつかしく謎めいて』(谷垣暁美訳 河出書房新社)ほど、不思議な手触りの作品も珍しいでしょう。
 空港で遅れた飛行機を待つとき、精神的なストレスや退屈がたまったとき、それがきっかけとなって別の次元に行くことができるようになります。それは発見者の名を取って「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」と呼ばれました。「私」は、この方法を利用して、様々な次元を訪れます。眠らない人のいる次元、翼のある人のいる次元、不死の人がいる次元、それらは私たちとどこか似通っていて、なつかしく謎めいているのです…。
 『ガリヴァー旅行記』を彷彿とさせる、異世界めぐりの連作短編集です。とはいっても『ガリヴァー』のように現実の価値をひっくり返そうというような、激烈なものではありません。そもそも『私』は、あらゆる次元、異なる文化をすすんで学ぼうとする、寛容な人物です。それが、落ち着いた語り口とあいまって、穏やかな読み心地となっているのです。
 最初の方におさめられた作品は、どれも面白いものの、現実の価値を転倒させたようなものが多いです。例えば『渡りをする人々』『ヘーニャの王族たち』などがそれにあたります。『渡りをする人々』は、文字どおり「渡り」をする人々を描きます。『ヘーニャの王族たち』では、住民のほとんどが王族であり、少数派の平民をもてはやすという、諷刺的な世界が描かれます。
 後半になるにしたがって、ただ変わった世界を描くだけでなく、哲学的、文化的な価値観を示唆させる物語が増えてきます。眠らない人々を語りながら、人間の意識の意義にも迫る『眠らない島』、何世代もかけて巨大な宮殿を作り続けるというボルヘス的な物語『謎の建築物』などは素晴らしい出来ばえ。
 タイトルにあるように、どこか「なつかしさ」を感じさせるこの作品集、読んでいて、個人的に思い出したのが、ロード・ダンセイニの『ヤン川を下る長閑な日々』(中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子訳『夢見る人の物語』河出文庫 収録 )。あれほど夢幻的ではないけれど、雰囲気は共通するものがありますね。ちょっと疲れた時に読みたいような作品集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
読みました
kazuouさんのこの記事を読んで、これは読んでみなくちゃ!とメモっておりました。
面白かったです~。特に後半が良かった…。

私は他の作品を読んだことがないのですが(「ゲド戦記」も未読です)、他の作品はまたきっと違ったテイストなんですよね?
【2007/11/20 23:58】 URL | りつこ #- [ 編集]

>りつこさん
やっぱり後半の作品が良いですよね。たんなるファッションや奇想に終わらないところが、この作家の凄いところだと思います。

僕もル・グィンの熱心な読者というわけではないので、あんまりたくさん読んでるわけじゃないです。全体的な味わいとしては、テーマ性が強いというか、思索を多く含んでいる感じでしょうか。
【2007/11/21 06:55】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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