夢の中の夢  チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』
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夢の中の恐怖
マイケル・レッドグレーブ バジル・ラドフォード チャールズ・クライトン
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 オムニバス・ホラーと呼ばれるジャンルの映像作品があります。怪奇・ホラー味のある短篇を枠物語でつなぐ、というタイプの作品ですが、このジャンルの元祖ともいうべき作品がこれ。チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』(1945 イギリス)です。
 公開年が1945年なので、当然モノクロですし、映像表現的にはかなり稚拙な部分も見えるのですが、今見ても面白い部分が少なくありません。全5話のうち、2話分が原作ものですが、これが、H・G・ウェルズとE・F・ベンスンによるものなのが驚きです。
 さて、枠となる物語は、家の修理を依頼された建築家クレイグが、ある屋敷に赴くところから始まります。家の主から、中に案内されたクレイグは、数人の男女が居間に集まっているのを見て、呆然とします。なぜなら、彼らの顔はみな、主を含め、クレイグが何度も見る悪夢に登場していた人物と同じだったからです。そのことを口にすると、皆は、おのおの体験したという、不思議な話を始めます…。

 第1話 事故で九死に一生を得たレーサーは、病院である夜、不思議な夢を見ます。それは霊柩車に乗った御者に招かれる、というものでした。やがて退院した彼は、ある日バスに乗ろうとしますが、その運転手は夢で見た御者とそっくりでした…。
 いわゆる予知夢を扱った作品。非常にオーソドックスな話です。原作はE・F・ベンスン『霊柩馬車』『塔の中の部屋』アトリエサード 収録)です。

 第2話 クリスマス・パーティの夜、かくれんぼを始めた子供たち。主人公の少女は、ボーイフレンドとともに屋根裏の部屋に隠れますが、そこで少年は少女を怖がらせようと、数十年前に、その家で起こったという殺人事件の話を始めます。狂った少女が殺人を犯し、自殺したというのです。しかもこの家には幽霊が出ると。笑ってとりあわない少女は、ふと別の小部屋への入り口を見つけ、入り込みます。そこには幼い少年が泣いていました…。
 「あとになって」わかるというタイプのゴースト・ストーリー。「幽霊」とは誰の幽霊なのかがわからないままにストーリーが進むのは、なかなか技巧的。

 第3話 結婚を間近に控えたカップル。女は、骨董屋で買った鏡を男にプレゼントします。男は、鏡の中に、まったく別の部屋が映っているのに気がつきます。古風なベッドに暖炉、明らかに古い時代の部屋が映るのです。しかし女には何も見えません。ノイローゼだと言う男を心配した女は、骨董屋に鏡の来歴を聞いて驚きます。その鏡の持ち主だった男は、嫉妬のために妻を殺したのだというのです。やがて男は性格が変わったように嫉妬深くなりますが…。
 「呪われた鏡」の物語。男には見える光景が、他の人間には見えない、というところがミソ。男の妄想である可能性も否定していません。ただ結末では、憑き物が落ちたようになってしまうので、その解釈はとりにくいのですが。

 第4話 ゴルフに熱中する二人の男。同じ女性を取り合うことになった二人は、ゴルフで勝負を決めることになります。負けた男は自殺してしまいます。やがて結婚を控えたある日、新郎の男の前に、死んだはずの男が現れ、ことあるごとに邪魔をします。花嫁を諦めれば、この世に出現するのはやめると言う幽霊に対して、男は承諾します。ところが幽霊は、消え方を忘れてしまった、と言うのです…。
 「消え方」を忘れてしまった「未熟」な幽霊が、終始、恋敵にちょっかいをかけまくるという、ユーモア・ゴースト・ストーリー。今見ると、特殊効果が貧弱なのはご愛嬌ですね。原作はH・G・ウェルズ『不案内な幽霊』(南條竹則訳『イギリス恐怖小説傑作選』ちくま文庫 収録)です。

 第5話 評判をとる腹話術師フレル。彼の相棒である人形ヒューゴは、まるで自分の意志を持っているかのように話すのです。舞台を見ていた同業者キーは、人形を通して楽屋に誘われ、部屋を訪れます。しかしフレルは、無愛想な態度であしらったかと思うと、キーを追い出します。別のホテルでフレルに再会したキーは、喧嘩にまきこまれたフレルを介抱し、部屋に寝かせます。しかし、その夜中にキーの部屋に飛び込んできたフレルは、自分の人形を盗んだのではないかと、因縁をつけます…。
 人形の「意志」を制御できず、自分を失ってゆく腹話術師を描いたサイコ・スリラー。人形はフレルの別人格なのか、それとも超自然的な存在なのかを明示せず、ぼかしているのが非常に効果的。主人公を演じているマイケル・レッドグレーヴの演技が素晴らしく、今見てもかなり怖い一編。

 第5話を除くと、正直、他の4話は、非常にオーソドックス。現在見ると、ちょっと退屈してしまう作品もあるかと思います。
 ただ特筆したいのは、枠物語の構成の見事さです。クレイグは、集まった人々を見て、夢の通りだと話しますが、やがて彼は、このまま話し続けると、恐ろしい事が起こるという予感に囚われます。しかし、彼は悪夢で終わるはずの、この夢の詳細をなかなか思い出せないのです。
 集まった男女がそれぞれの話を語るわけですが、客たちが、基本的には超自然現象を肯定する立場なのに対して、客の一人である精神科医は、それらの現象を否定して、合理的な解釈を示します。やがてクレイグと精神科医、二人だけが居間に残った後に起きた、恐るべき出来事とは…?
 エピソード自体の出来はそれほどではないものの、エピソードをはめ込んでいる、枠物語の完成度が半端ではありません。それを見るためだけでも、一見の価値のある作品です。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
怪談は英国
”あれ? 全然記憶にないぞ”というわけで、早速『イギリス恐怖小説傑作選』を引っ張り出しました。
なるほど印象が薄いのは主人公の幽霊の気弱さからして、必然だったのでしょう。
それにしても、ご紹介の映画の渋いこと。怪談は英国に限るの思いを新たにしました。
【2007/10/05 22:40】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

渋いです
個人的にオムニバス・ホラー映画が大好きで、この手の映画をよく見ます。
この作品は、古典的名作として有名(?)なので、見てみたかった作品なのですが、最近ようやく見ることができました。
いやあ、話に聞いていた通りの渋さ! でも記事に書いたように、枠物語の部分がとっても面白いので、飽きずに見れました。ぜひ現代の技術でリメイクしてほしいですね。

ウェルズの『不案内な幽霊』は、コミカルな話で、原作もわりと好きな作品です。ユーモア怪談というのは、ありそうであんまりないんですけど、意外と面白いジャンルなんじゃないかな、と思います。
【2007/10/05 23:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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