明るい治療計画  ロイ・ウォード・ベイカー監督『アサイラム 狂人病棟』
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 切れ味するどいホラー短篇を得意としたアメリカの作家、ロバート・ブロック。彼の作品は、ときに殺人や猟奇的なシーンが描かれる場合でも、現代のそれのように具体的・直接的な行為は描写されません。そのためブロックの作品を読んでいても、あまり陰惨な印象を受けることは少なく、その手触りはむしろファンタジーに近付いています。いうならば「明るいホラー」といった感じでしょうか。
 1960~70年代にかけて、ブロックはいくつかの映画脚本を手掛けていますが、それらの映画作品でも、ホラー作品でありながら、どこかおとぎ話めいた雰囲気が出ているのが特徴です。ロイ・ウォード・ベイカー監督『アサイラム・狂人病棟』(1972 イギリス)もそのうちのひとつです。
 『アサイラム』は、短篇を枠物語でまとめた、オムニバス作品になっています。脚本は全てロバート・ブロック。
 作品は、若い医師マーティンが、とある精神病院を訪ねるところから始まります。面接を受けに来たマーティンは、車椅子に乗った副院長に迎えられます。院長はどこかという問いに、副院長は困惑ぎみに答えます。スター院長は精神の病にかかり、この病院に患者として入院している、と。彼は、別人である妄想に囚われているというのです。副院長はテストとして、何人かの患者に会い、院長が誰であるかを当てたなら、合格にする、と提案します。マーティンは一人ずつ患者の部屋に入っていきますが…。

 第1話 夫が愛人といっしょになるために、妻を殺害しようとします。しかし魔術に凝っていた妻の復讐が始まる…というもの。筋立ても単純な、オーソドックスかつストレートなホラーです。

 第2話 家賃を払えず、立ち退きを迫られている仕立屋のもとに、突然見知らぬ客が現れます。持参した生地で、息子の服を作ってほしい、作業は深夜の特定の時間にしか行ってはならない。不審に思いながらも、高額の報酬を提示された仕立屋は、仕事を引き受けます。服を完成させた仕立屋は、客の家に服を持っていきますが、客は思いがけないことを言い出します…。
 呪われた服、というありふれたテーマながら、後半の展開はなかなか面白いです。「死者を蘇らせる本」という、どうやらクトゥルー神話っぽいアイテムも登場します。闇の中で光る生地の特殊効果が、今見ると安っぽいのはご愛嬌。

 第3話 退院したばかりのバーバラは、兄とともに家に帰ります。しかし出迎えたのは看護婦。いまだに病人扱いする二人に対して、彼女は機嫌を害します。ベッドで寝ていたバーバラのもとに、突然親友のルーシーが現れます。彼女は、いっしょに家から逃げ出そうと提案しますが…。
 バーバラの病気とはいったい何なのか? ルーシーはいったい何者なのか? 設定の説明がまったくなされないため、話の先が読めないサスペンス作品。ちなみに、主人公のバーバラ役を演じているのは、シャーロット・ランプリング。

 第4話 ここで舞台は、枠物語である精神病院に戻ります。バイロン博士と自称する男は、人形を何体も作っていました。彼は語ります。人形の顔は過去の同僚たちのものであり、今作っている最後の人形は、自分のミニチュアである、そして自分はこの人形に乗り移るのだ、と。マーティンは、彼こそ精神を病んだスター院長ではないかと疑います。再度面接に望んだマーティンは、副院長に向かって、この病院の非人道性を訴えます。二人が話しているうちに、副院長の背後から近付いてきたものとは…?
 妄想していたことが現実だった…という話ですが、あんまりひねりがないので、少々あっけないかも。ただ事件が終わったと思った後の、どんでん返しは面白いです。

 総じて、どの話もストレートなホラーですが、演出がどうも垢抜けないので、間が抜けてしまっているのは否めません。はっきり言うと、迫力が全然ないのです。ストーリー自体は面白いのですが、やはり演出の悪さが、作品の勢いを殺してしまっていますね。ただ、作品の舞台となっている精神病院の雰囲気は悪くありませんでした。
 ちなみに、確認した範囲では、第3話と第4話の原作が、邦訳されています。第3話は、『ルーシーがいるから』(各務三郎訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇2』ハヤカワ文庫NV収録)、第4話は『恐怖の粘土人形』(仁賀克雄編訳『ポオ収集家』新樹社収録)です。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
深夜の仕立屋!
星新一の「終末の日」も、風変りな人物たちが人形劇の人形たちだったというオチでしたね。視点がずーっと引いていくラストは映画だとより効果的に違いありません(なんていかにもさりげなさそうに書いて、はずしていたら恥ずかしいぞ)。

第2話、ブロックというと、ラブクラフトにはまって作家になったようなもの。ラブクラフトの死後は悲しみのあまりクトルゥー神話から離れてしまったそうですが、その後も名残りが見えたりするということでしょうか。もっとも、それ抜きでも”深夜の仕立屋”とは、西洋の妖精物語などの伝統が感じられて興味深いですね。
【2007/09/18 21:54】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

ブロック節
第2話の結末は、ある種の人形オチではありますね。原作は、雰囲気からしても、クトゥルーものだと思います。ただ結末のオチは、ブロックならではのものといえそうな感じです。ラヴクラフトだったら、こういう結末は使わないでしょうね。
ホラーでも、ブラック・ユーモアのスパイスの利いた、こういうところがブロックの魅力なんですよね。
ブロックは、生涯ラヴクラフトを敬愛していたらしくて、ラヴクラフト自身が登場する『アーカム計画』なんて作品も書いてますね。
クトゥルーといえば、今月から国書刊行会で『新編 真ク・リトル・リトル神話大系』シリーズが刊行されるそうですよ。
【2007/09/18 22:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


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「ポオ収集家」 ロバート・ブロック

それは、とても奇妙な出来事だった。 或る日の出来事【2009/11/03 07:57】

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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
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