安く、面白く  荒俣宏『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』
4582253040パルプマガジン―娯楽小説の殿堂
荒俣 宏
平凡社 2001-04

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 アメリカの翻訳小説を好む人なら、いちどは目にしたことがあるであろう単語「パルプマガジン」。「パルプマガジン」とは、20世紀前半に一斉を風靡した廉価な小説雑誌の総称です。以前に紹介した怪奇小説誌「ウィアード・テールズ」もその一つですが、怪奇小説だけでなく、ミステリ、SF、ウエスタン、スポーツ、戦記ものなど、ありとあらゆるジャンルがあるのが「パルプマガジン」の特徴です。
 SFやホラーなどの、ジャンル小説系の雑誌については、日本でもわりと知られています。しかし、この「パルプマガジン」を全体的に俯瞰した書物というのは、ありそうでありませんでした。荒俣宏の『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』(平凡社)は、そんな「パルプマガジン」の全体像をつかむのに最適の一冊です。
 とにかく安い小説誌、というコンセプトからもわかるように、純粋に金儲けのために生まれた感のある「パルプマガジン」。それが大量に広がるに及んで、量が質に転化した…という軌跡がうかがえます。
 黎明期の雑誌「アーゴシー」であるとか、「悪書」とうたわれた「スパイシー」など、日本では馴染みがないながら、興味深い事例がたくさん載っています。とくに「スパイシー」を紹介した章は、読み物としても、たいへん面白くなっています。
 過激な表現がウリだったこの雑誌、当局に睨まれるのを想定して、なんと表現をソフトにした「検閲版」を同時に作っていたというのです。結局「スパイシー」は、その後すべて廃刊という憂き目を見るのですが、その顛末は、したかかな商売人根性を窺わせますね。
 もちろん、日本でもわりと有名な「ウィアード・テールズ」、ミステリ雑誌「ブラック・マスク」、SF雑誌「アメージング・ストーリーズ」などにも、それぞれ章が割かれており、ジャンル小説の読者にも面白く読むことができます。
 珍しいのは、女性読者を対象にした「パルプマガジン」。ラブストーリーの専門誌なんてのもあったようです。あと戦時中に流行ったという「人種差別もの」など、ほんとうにあらゆるジャンルの専門誌があったのだということを認識させてくれます。
 荒俣宏ならではの、目配りのきいた良書といえるでしょう。もちろん単なる研究書ではなく、ツボをおさえた文章で、退屈せずに読ませるのも高評価です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
傑作選があれば…
”量が質に転化した”! 確かにそれありですね。
一方、「ジャンルに貴賎はない。ジャンルの中に一流と三流があるだけだ。」(村松友視)も真実だと思っています。
その意味で、”ラブ・ストーリー傑作選”や”差別小説傑作選”なんか読んでみたい。ウェスタン小説傑作選ぐらいはたぶん出ているでしょうね。
【2007/08/13 20:46】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

B級の楽しみ
とにかく読んで面白い、というB級的な価値はもちろん、後の文学潮流にもかなりの影響を与えた、というパルプマガジン。これだけのエネルギーを持った雑誌が、日本にも存在したか、と考えると、考え込んでしまいます。
強いてあげれば『新青年』などが、それに相当するのでしょうが、これだけの空前の規模で発生した雑誌群は、アメリカならではでしょうね。
【2007/08/13 23:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


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