生き延びろ!  ジェイムズ・ホワイト『生存の図式』
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生存の図式 (1983年)
伊藤 典夫
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 極限状況に置かれた人間たちのサバイバル、そのシチュエーションも様々に描かれてきましたが、この作品ほど、極端な状況に置かれた登場人物たちは、前代未聞でしょう。
 ジェイムズ・ホワイト『生存の図式』(伊藤典夫訳 早川書房)は、シチュエーションがじつにユニークな、サバイバルSF小説です。
 第二次世界大戦の最中、アメリカ海軍の軍用タンカーが敵軍に撃沈されてしまいます。しかし、船は完全な沈没を免れます。さらに、船底には五人の男女が生存していたのです。幸運なことに、船内には充分な酸素と食料がありました。
 しかし、船内から生きて外界に脱出するのは不可能。それならば、と彼らは船内で生きるための工夫を始めます。人力発電でエネルギーを起こし、また人口農園を作り、酸素と食物を作りながら数十年を生き延びるのです。そして彼らの子孫もまた同じ環境で一生を過ごしますが…。
 SFのテーマのひとつに「世代間宇宙船」というものがあります。長期間の宇宙飛行のために、乗務員が何世代もわたって宇宙船内で生活を余儀なくされる、というシチュエーションの物語です。舞台こそ海底に置かれていますが、この作品は、「世代間宇宙船」テーマのヴァリエーションといっていいでしょう。
 やはり注目すべきは、潜水艦内部で生き延びる人間たちのサバイバル部分。助けが来るまで生き延びる方法を探る、というのではなく、助けはまず来ないものと仮定して、狭い船内で、生活ができる環境を作ってしまう、という発想がすごいです。
 一応、沈没した時点では、食料や酸素は十分ということになっていますし、船内にとりのこされたクルーの中に、医者と、潜水艦を知り尽くした人物がいる、とある程度の条件は揃っているものの、何世代もの人間がせまい船内で生き続ける、というのはやはりインパクトがあります。
 食料や酸素など、生存のための具体的な手段はともかく、生存者たちが考え出すものの中に「ゲーム」というものがあるのですが、これがなかなか興味深いところ。外界から遮断された船内で、娯楽もかねたこの「ゲーム」をすることによって、彼らは記憶を研ぎ澄ますのです。これがあるために、生存者たちの子孫は、第一世代の人間たちの知識をそのまま受け継ぐ事ができるという設定は秀逸です。
 さて、サバイバル部分が興味深いといっても、結末までそれがずっと続けば、飽きてしまいかねないのですが、後半、思いもかけぬ展開が待っています。地球規模の災厄が起きるのですが、その解決の鍵は、潜水艦で生き延びる生存者の子孫によってもたらされるのです。その解決法も、彼らしかなし得ないもの。その意味で、生存者たちが過ごしてきた人生そのものが、結末の伏線になっているといっても過言ではありません。
 作品内の要素要素が、すべて有機的に結びついているという、たいへん完成度の高い作品。ヒューマニズムあふれる結末といい、読後感もすばらしい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
住めば都?
意図せざる「世代間宇宙船」とはおもしろいですね。
伊藤典夫さん訳で海外SFノヴェルズということですが、ご紹介の文章を読む限り、無理にSFにもっていかなくても十分楽しめそう。ただ5人の男女となると、第三世代以降では否応なく近親婚に直面してしまいますね。

地球規模の災厄、その解決の鍵についてあれこれ想像をめぐらすのも興味深いです。「海底」に関係があるんでしょうね。

【2007/07/02 22:53】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

SFじゃなくても…
そうなんですよね、SFにしなくても、これは相当面白いと思います。
海底での自給自足生活の描写そのものに「センス・オブ・ワンダー」があふれていて、その部分だけでも、もう満足してしまいそうな感じです。
この手の話だと、閉鎖空間における人間の軋轢なんかがクローズアップされがちですが、この作品では、全体的にポジティブな雰囲気があって、その点も好感が持てますね。
後半の展開は、前半とはちょっと方向性が変わってくるのですが、これはこれでなかなか斬新だと思います。

あんまり話題にならない作品なんですが、埋もれた「傑作」に数えていいんじゃないでしょうか。
【2007/07/02 23:03】 URL | kazuou #- [ 編集]

気になります
SFにはそれほど強くない人間なので、作品についても作者についてもまったく知らないのですが、この設定にはむちゃくちゃ惹かれるものがあります。
舞台装置故にSFなのでしょうが、スピリッツはどうみても冒険小説ですよね。
ぜひ、入手して読んでみたいと思います。
ではでは。
【2007/07/04 00:34】 URL | sugata #- [ 編集]

>sugataさん
ホワイトは、アメリカの中堅SF作家ですが、著書の邦訳はこれだけみたいですね。

SF的な設定は出てくるものの、たしかに基本は冒険小説なので、SFが苦手な人でも楽しめると思います。限られた素材、環境を極限まで利用して、一つの社会を作り上げる…という面白さがありますね。
現在絶版なのですが、ほんとうに面白い作品なので、ぜひ復刊してもらいたいものです。
【2007/07/04 06:46】 URL | kazuou #- [ 編集]


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