責任の在り処  パトリシア・カーロン『沈黙の代償』
4594030769沈黙の代償
パトリシア カーロン Patricia Carlon 池田 真紀子
扶桑社 2001-02

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 自分のとった行動が、間接的に犯罪を助長してしまう…。こんなとき、その責任は自分にあるのだろうか…? パトリシア・カーロン『沈黙の代償』(池田真紀子訳 扶桑社ミステリー)は、そんな疑問を抱かせるサスペンス小説です。
 ある夜、富豪のジョージ・ウィントンのもとに、新聞記者を名乗るエヴァン・カイリーから電話がかかってきます。内容は、カイリーの息子が誘拐されたというもの。カイリーは、ウィントンにも責任がある、というのです。以前に同じく、娘を誘拐されたウィントンが、警察に対して何も言わなかったという過去があったのです。しかもベビーシッターの女性も殺されたと言います。罪悪感にとらわれたウィントンは、カイリーに協力しようとしますが…。
 一代で財を成した、気の良いウィントンに対して、押し付けがましく、強烈な個性を持ったカイリーの人物像が対照的です。前半は、あくまで誘拐された子どもの救出が中心となり、カイリーのいうままにウィントンはその行為を手伝うことになります。
 しかし中盤にいたって、話は急展開を迎えます。ひょんなことから、ウィントンは殺人の容疑をかけられてしまうのです。しかし、事実を話せば、カイリーの妻が刑務所行きとなってしまう、という二進も三進もいかない状態に。
 なかなかひねったサスペンスです。真相がわりと推理しやすそうな感じだな、と思うと、意外な展開に感心します。伏線もかなり上手くはられています。なにより、丁寧に描写された登場人物たちのキャラクターやその関係が、ミスディレクションとしてうまく機能しているところが巧妙です。
 いわゆる「巻き込まれ型サスペンス」であり、主人公も一般人なので、感情移入がしやすいのも長所でしょう。ただ、クライマックスでも、大立ち回りがあるわけではないので、そのあたり、いまいち物足りなく感じられる部分もあります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
発想がおもしろい
”間接的な犯罪の助長”とは興味深いテーマですね。

学生時代の法律の授業では刑法が一番楽しかったのは、その設例によります。そのひとつに過失による教唆の可罰性もありましたっけ。
復讐を禁じた近代刑法では犯罪とならない行為でも、個人的な基準によれば復讐という手段によって罰すべき罪…。現実にも逆恨みによる殺人とかもあります。

異なる原理の刑法にテーマを絞ったユートピア小説なんかあればおもしろいですね。
【2007/06/19 21:05】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
法律では罰せない行為を裁く…とか、そういった法律と人情との葛藤を扱った作品は数多くありますが、本作はまたちがった面白さがあります。
このテーマで行くと、人間の罪の重さとか業の深さみたいな、重い作品になりがちですが、この作品の場合、そこが主眼ではないので、そんなに重苦しくはなりません。作者が娯楽小説の勘所を心得ている感じなので、読みやすさも抜群です。

ちなみに「異なる原理の刑法」といえば、ラファティだったかシェクリイだったか、殺人が日常茶飯事で罰せられない世界、というのを描いた短篇を思い出します。
【2007/06/20 06:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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