ねじれた関係  ドロシイ・セイヤーズ『箱の中の書類』
4150017131箱の中の書類
ドロシイ セイヤーズ Dorothy L. Sayers 松下 祥子
早川書房 2002-03

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 ドロシイ・セイヤーズのミステリ小説は「ミステリ」の部分よりも「小説」の部分にこそ、長所が現れているタイプの作品ですが、『箱の中の書類』(松下祥子訳 ハヤカワ・ミステリ)もまたそんな「物語性」を味わうべき作品。
 アマチュアの植物学者である頑固な初老の夫、虚栄心の強い若く美しい夫人。この夫婦の住む家のとなりに、詩人と画家の若者が下宿人として越してきます。画家と夫人は、不倫の仲になり、とうとう夫が毒キノコで中毒死してしまいます。はたして自殺なのか、他殺なのか?
 つりあわない夫婦に、魅力的な青年の三角関係という、ありふれた設定ながら、キャラクターの魅力で読ませる作品となっています。とくに詩人のキャラクターは魅力的です。画家には友情というか責任感を感じ、保護者的な態度をとっています。また、夫に大しては、学者として、人間として魅力を感じているのです。そして画家と婦人との不倫に気付いても、画家を諭し、あくまで穏便に事をおさめようとします。
 夫が死に、当然殺人の疑惑がおこるのですが、ここにおいて海外にいた息子が登場し、捜査を始めます。その息子が捜査にあたって参照した書簡を集めた「箱の中の書類」が、この作品であるという設定となっています。それぞれの書簡は、個々の人物の主観で書かれているので、当然、ある事態、ある人物に対しても、独自の見方が現れているところが興味深いです。とくに精神分析をうけているオールドミスの家政婦の存在がユニークです。深夜、画家が婦人のところに忍んできたところを、詩人であると勘違いし、あまつさえ誘惑しようとするのですが、それをはねのけると、襲われそうになったとわめきたてるのです。この家政婦の存在が、本来わかりやすい三角関係を、少しねじれたものに見せているのは非常に上手いところ。
 殺人のトリックは、かなり専門的な知識を必要とするものなので、一般人にはわかりにくいのが難点です。しかし、物語自体の出来は秀逸です。登場人物たちの繰り広げるドラマを追っていれば、結末まで退屈せずに読むことができるでしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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