こころの模型  エドワード・ケアリー『アルヴァとイルヴァ』
4163234705アルヴァとイルヴァ
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
文藝春秋 2004-11-20

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 エドワード・ケアリーの描く作品には、エキセントリックな性格を持つ人物がよく登場します。その奇矯さとは裏腹に、彼らの心は弱く脆いのです。『アルヴァとイルヴァ』(古屋美登里訳 文藝春秋)も、そんな繊細な人間たちを描いた物語です。
 ヨーロッパのどことも知れぬ街、エントラーラ。この町に生まれた双子の姉妹、アルヴァとイルヴァは、幼い頃から常に一緒に行動していましたが、長ずるに従って、二人は少しずつ離れていきます。積極的で好奇心旺盛な姉アルヴァは、妹との違いを作るために、額に傷をつけ、全身に世界地図の刺青を彫ります。対して、イルヴァは外の世界を恐れ、家に引きこもってしまいます。イルヴァと和解したアルヴァは、イルヴァを外界に引き出すためにエントラーラの町をプラスチック粘土で作るのを手伝い始めます。しかし、模型が完成間近のある日、エントラーラの町を大地震が襲います…。
 おしゃべりな仕立屋、外国の切手を手に入れるために手紙を盗む父親、マッチ棒で模型を作る祖父、いくつものTシャツコレクションを持つトラック運転手など、ケアリー独特のエキセントリックな登場人物たちが織りなす物語。そして主人公のアルヴァとイルヴァもまた、風変わりなキャラクターでありながら、異様なリアリティを持っています。
 外交的で、外の世界に飛び出すアルヴァ。姉との別離に傷付き、引きこもってしまうイルヴァ。正反対の性格を持つ二人は、また互いの存在なしでは生きられないのです。
 表面的なグロテスクさにとらわれずに読むと、繊細な神経を持つ登場人物たちの心の動きが見えてきます。前作『望楼館追想』(古屋美登里訳 文春文庫)では、心を閉ざした主人公は世界を受け入れますが、それは個人的なレベルにとどまっていました。それに対して、本作では、イルヴァが外界に対しての恐れをなくすために作るエントラーラの模型によって、個人的レベルの救済がまた町の人々の救済にもなっています。
 すなわち、イルヴァを救う試みが、世界を救う試みとも捉えることができるのです。その意味で、前作よりも外に対して開かれたという印象が強いのですが、結末としては、結局、アルヴァとイルヴァは救済を得たのかどうかは明白ではありません。最終的には、双子の姉妹は認められますが、これをハッピーエンドととらえてもいいのかどうかは、読む人次第でしょう。
 幻想的でありながら、血の出るような現実感をも備えた物語。不安におびえるすべての人に贈る、壮大な癒しの物語です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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