大人は判ってくれない  サイモン・クラーク『地獄の世紀』
4594046517地獄の世紀(上)
サイモン・クラーク 夏来 健次
扶桑社 2004-05-28

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4594046525地獄の世紀(下)
サイモン・クラーク
扶桑社 2004-05-28

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 イギリス作家、サイモン・クラークの『地獄の世紀』(夏来健次訳 扶桑社ミステリー)は、英国のいわゆる〈破滅もの〉小説の伝統に連なる作品です。
 ある日、大人たちが、突然子どもたちを襲い始めます。正常なのは19歳未満の子どもだけ。それ以上の年齢の人間は一人の例外もなく、殺戮を開始します。主人公ニック・エイテンは、弟のジョンが殺害されているのを発見し、車で逃走します。途中で出会ったサラとその姉妹を連れたニックは、子どもだけで作られたコミュニティーに参加しますが、やがて武器を手に入れた、傍若無人な連中にコミュニティーは支配されてしまいます。そしてニックを殺そうと追いかける両親。ニックは生き延びる事ができるのでしょうか…?
 基本的には「ゾンビ」小説です。この場合、怪物となるのは大人ですが、かすかながらも知性が残っており、群れをなしたりもします。子供たちは、徒党を組み、大人たちから生き延びようとするわけですが、仲間内でも争いが起こってしまうのです。
 大人が子供を殺す、という設定からして、かなり残虐な内容を想像してしまいますが、これが意外にしっかりとした成長小説になっているのには感心します。一部の殺戮シーンなどに残虐な描写はあるものの、少年が様々な困難を経て成長するという、伝統的な成長小説の形をとっています。
 ただ、非常に読みやすい作品なのですが、読後感も軽すぎる、というかどうも深みが足りない感じです。主人公ニックの好きになりかけた女の子が殺されたり、愛する両親が自分を殺そうとする、など、かなり読みどころも用意されていますが、総じて書込みが足りません。登場人物もみな印象が薄いのですが、主人公のライバル的存在、タグ・ステッターはいい味を出しています。最初は、自分勝手で、嫉妬深く、嫌がらせばかりする、いいところ一つもなしの人間なのですが、最後になって、主人公と意気投合するのです。
 そして、物語後半、神がかった少女バーナデットと出会ったニックは、この現象の意味を悟り、神の存在を確信するのです。その後は、滅亡寸前の世界の救世主が現れる、というような宗教がかった方向に向かっていってしまいます。前半がかなり暗かった分、後半はやたらと明るくなってしまうのはどうかと思いますが、読後感はよいです。
 ひとつ気になるのは、ニックの両親がずっとニックを追いかけてくる合理的な理由に触れられないところ。母親がときどき正気にもどる、という設定はなかなか効果的だったのですが。
 題材の割に軽い読後感、後半の宗教がかった展開が気にならなければ、物語としてはそれなりに読ませる佳作です。印象としては、出来のよいジュヴナイル、といった感じの作品でしょうか。
 ちなみに、この作者、ジョン・ウインダム『トリフィドの日』の続編も書いているそうで、そちらの方も気になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この作品、なかなか面白そうですね。ゾンビ小説といえば、以前、kazuouさんに教えて頂いた『ウェットワーク』を購入しました。読むのが楽しみです。
【2007/06/04 22:03】 URL | てん一 #- [ 編集]

>てん一さん
この作品、筆致も丁寧で、読後感も悪くない、ということで、まあまあの作品でした。後半の宗教的な部分が薄ければ、もっと良かったんですけど。

『ウェットワーク』は、面白いと思いますよ。かなりアクション重視なので、退屈する暇がない、という感じでした。
【2007/06/04 22:20】 URL | kazuou #- [ 編集]

続編!
『トリフィドの日』の続編の方が気になりますね。といっても『トリフィドの日』、未読ですが。あまりにも有名であちこちで引用される結果、読む意欲がなかなかわかない小説の一つです。
確か山田正紀でしたか、ドイルの『ロスト・ワールド』の続編を書いていてかなりいい線いっていたような気がします(チャレンジャー教授ものの続編はいくらでも読みたい)。
【2007/06/04 23:51】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
有名作品の続編、というのは失敗例がけっこう多いのですが、この『トリフィドの日』続編は気になりますね。『トリフィドの日』自体は、イギリスの破滅ものらしく、ペシミスティックな雰囲気が何ともいえない味を出しています。楽天的なドイル作品と比べると、かなり暗い作品ではありますね。
【2007/06/05 06:53】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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