子供と女には勝てない  ノエル・クラッド『ニューヨークの野蛮人』
B000JAGZ8Cニューヨークの野蛮人 (1964年)
早川書房 1964

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 ノエル・クラッド『ニューヨークの野蛮人』(宇野輝雄訳 ハヤカワ・ミステリ)は、殺し屋の造形が非常にユニークな作品です。
 インディアンの殺し屋ジョン・トリーは、新たな殺しの依頼を受け、ターゲットを下見に行くことになります。驚くべきことに、標的は若い女性でした。トリーはふとしたことから、その女性、スーザンと話をすることになりますが、彼女には、まだ幼く口のきけない息子がいることを知ります。スーザンに惹かれるものを感じたトリーは、組織を裏切り、彼女を助けようとしますが、逆に組織から狙われてしまいます…。
 まずインディアンの殺し屋、という主人公の設定がユニークです。少数民族ならではのコンプレックスや過去の悲劇が、トリーの性格に影を落としています。対するスーザンも、夫を戦争で失い、暴力を極端に嫌っているという一面を持ちます。
 二人が恋に落ちるのか、と思いきや、そういう風にはなりません。恋人というよりは、共感できる友人、といった感じでしょうか。それとともに、子供に対する思いから、トリーは自らの意志で行動します。そこにあるのは、自分のような孤独を子供には味あわせたくないという思いなのです。
 殺し屋を扱っているとはいいながら、殺しの場面や残虐なシーンはほとんど出てきません。トリーは、寡黙でクールだという性格を与えられているのですが「孤独」や「共感」といった感情が優先して描写されるので、あまり殺し屋的な、残虐な面は強調されません。
 序盤で、クールな殺人シーンなどをいれておけば、組織を裏切る主人公の変心が、もっと印象的になったのではないかと思うと、ちょっと物足りない面もあります。
 とはいえ、全体にただよう雰囲気は、ウールリッチのそれを思わせて、なかなか甘美です。組織を裏切った殺し屋が、逆に狙われる、というあらすじから想像されるほど、スピーディな展開ではありませんが、小説としてなかなかの佳作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
日本語の表題が
『ニューヨークの野蛮人』、ハードボイルドの部類に入るのでしょうけれどそのカテゴリーに入れて
しまうのとはちょっと違う雰囲気をもった小説ですよね。
絶版にするにはもったいないなぁ、と思うのですが個人的には日本語のタイトルが気に入りません。
このせいで損したんじゃないか?(売り上げ)と勘ぐってしまいます。
【2007/05/24 22:36】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

そうですね
ちょっと普通のハードボイルドとは違った感じの作品ですね。
たしかに『ニューヨークの野蛮人』って、ある意味、内容に即したタイトルではあるんですけど、いかんせんセンスが悪いかも。
ストーリー展開が波瀾万丈、というのとは違いますが、この雰囲気は捨てがたいです。今でもなかなか読ませる作品だと思います。
【2007/05/25 05:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


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[海外ハ]

ページをめくれば 作者: ゼナ・ヘンダースン, 安野玲, 山田順子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2006/02/21 メディア: 単行本 ★★★★★ ああ、何てすばらしいんだ、奇想コレクション。これで7冊目だけど、ほんとにどれもハズレなしだよ。 こういう志が感じられ りつこの読書メモ【2007/05/25 13:33】

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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