苦渋の決断  埋もれた短編発掘その22
 初対面のはずなのに、言い知れぬ親近感を感じさせる若い娘。ある男の不思議な因縁を語った、ウィリアム・バンキアー『過去から来た子供』(本戸淳子訳 光文社『EQ』1983年11月号収録)は、「家族」というものを考えさせてくれる佳作です。

 48歳になるブレイク・メトカーフは、とあるパーティの席で、17歳そこそこの、魅力的な若い娘ティナと出会います。初対面からメトカーフに親近感を抱いたらしいティナに、メトカーフもまた惹かれます。

 栗色の、豊かに波打つつややかな髪。その色つや、波打ちぐあいはだれかを思い出させる。-そう、娘のマギーだ。やれやれ、マギーが今夜のパーティーにこられなくて助かった。こんな若い子を相手に、やにさがっている父親の姿を見ようものなら、マギーはひやかし半分のきつい視線をちらちら送りつけてくるにちがいない。

 自嘲するメトカーフは、しかしティナに、性的魅力とばかりもいえないものを感じていました。成り行きから、二人は互いの身の上を語り合います。そしてメトカーフは、ティナから、その生い立ちを聞きます。彼女は養子であること。養父は、有名な大富豪ホーラス・フラナガンであること。実の父親のいない彼女は、年上の男性メトカーフに惹かれたこと。
 しかし、ふと立ち寄ったレストランで、メトカーフは、ウェイトレスから、思いがけないことを言われます。

 「お嬢さんはお父さま似なんですね。ひと目で親子だってわかりますわ。ほんとによく似てらっしゃること」

 メトカーフは愕然とします。彼は、死産であった娘のことを思い出します。まさか…。しかし、あれはちょうど17年前、年の勘定は合う。もしや娘をとり上げたドクター・フォックスは、何らかの理由で嘘をいったのではないか? 疑惑にとらわれた彼は、親友のアル・フェリアとともに、死んだ娘の墓を掘り返し、確かめようと決心します。
 予想どおり、棺の中は空だったことを確認したメトカーフは、ドクター・フォックスに詰め寄ります。とぼけるフォックスを銃で脅したメトカーフは、ついに真実を聞き出します。子供のできない、富豪のホーラス・フラナガンが、莫大な金を積み、フォックスを買収したことを。
 怒りに駆られたメトカーフは、フラナガンにぶちまけることを考えます。しかし大者の彼が、秘密をおびやかすメトカーフを無事にすますとは思えない。ではフラナガンを殺した場合はどうなるだろうか? 捕まりでもしたら、逆に秘密が世間に漏れて、ティナや妻のローラを悲しませてしまうだろう。
 逡巡するメトカーフは、ふと恐るべきことに思い至ります。ドクター・フォックスは、すでにフラナガンにこのことを連絡しているに違いない。とすれば、今頃はもう手が打たれている可能性がある!
 数日後、メトカーフのもとに一本の電話が入ります。かけてきたのは、ホーラス・フラナガン。過ぎたことはしょうがない、と主張するフラナガンは、あることを提案します。

 「まあ聞きたまえ。われわれの採るべき道は二つしかない。このアタッシェ・ケースには相当な金がはいっている。五十万ドルだ。ぶしつけなやり方かもしれないがね、メトカーフ、わたしにできる償いの方法がほかにあるだろうか? 実際、金で幸福が買えるんだよ。多くの人間が現にそうしている」

 高圧的なフラナガンの提案に対し、メトカーフの下した決断とは? 彼のとった決断は、また思いがけない事件を引き起こしてしまうのですが…。
 つねに家族のことを考えつづける男が立たされた苦境。どうすればいちばん幸せなのだろうか? 決断の当否はどうあれ、主人公の行動は、読者の共感を呼ぶことでしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
実際あるかも
娘の墓を掘りかえしちゃうところが凄いですね!
現実にもありそうな状況設定ですが、さてドクター・フォックス、民事的にはともかく、刑事的には何罪に該当するのかつい考えてしまいました。強いて探せば、営利目的誘拐罪あたりでしょうか。
【2007/05/13 21:36】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

確かにありそうですね
この場合、実質的には誘拐でしょうね。現実に起こりえなくもない…と思わせるところが秀逸です。
長編でも書けそうな題材なのですが、それを短編に詰め込んでいるので、なかなか密度が高い作品でした。敵役に対する、具体的・法律的な手段の模索よりも、逡巡する主人公の心理描写の方にウェイトが置かれているので、かなり読みごたえがあります。
【2007/05/13 21:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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