このごろ読んだ本
ぼくの大好きな外国の漫画家たち 活字狂想曲―怪奇作家の長すぎた会社の日々 無意味なものと不気味なもの
人間はどこまで耐えられるのか もしもし、運命の人ですか。 グラフィック・デザイナーの仕事

 最近、時間があまりとれないせいもあり、小説がなかなか読めません。基本的に小説の場合、物語の流れにのったら、一気に読んでしまった方が面白いんですよね。なので、あまり時間がないときは、小説以外の本を手に取ることが多くなっています。
 そんなわけで、最近読んで面白かった、小説以外の本をご紹介しましょう。

 植草甚一『ぼくの大好きな外国の漫画家たち』(晶文社)
 近年復刊された〈植草甚一スクラップブック〉シリーズの一冊。外国の漫画家たちについて語ったエッセイ集です。書かれた時代が古いため、いまとなっては、あまり話題にならない人も含まれていますが、とにかく読んでいて楽しい本です。有名どころでは、トミ・ウンゲラー、フォロンなどが取り上げられています。

 倉阪鬼一郎『活字狂想曲』(時事通信社)
 怪奇作家、倉阪鬼一郎のエッセイ集、なのですが、これが面白い! 印刷会社に校正係として勤務していたときの体験を扱っているのですが、著者の変人ぶりが爆笑もの。そして、著者に勝るとも劣らない奇人・変人が目白押しに登場して、楽しませてくれます。コミュニケーション能力に欠けるが有能な、ラヴクラフトファンの「ラヴクラフト氏」、東大大学院卒なのに無能で、一作も作品を書いた事のない作家志望の「横光利一氏」など。
 この人、小説よりエッセイストの方が向いてるんじゃないでしょうか。

 春日武彦『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)
 精神科医でもある、春日武彦の文芸評論集。とりあげられる作品が、どれもグロテスクで、B級の香りがする作品が多いのが興味深いですね。エッセイなどでも共通するのですが、この著者、本職だけあって、狂気の表現がすごく上手いです。フロイトがどうだの、象徴がどうだの、とか、そういう話ではなく、具体的な実例をあげたり、個人的な体験をさしはさむなどして、淡々と説明するのですが、それが非常に説得力があるのです。とりあげる例でも、はっきりとした「狂気」というよりも、むしろ「違和感」や「気持ち悪さ」といった要素が強い感じです。
 文芸評論にしては、異様に「私」的な体験部分が突出しているのですが、それがまた面白いところです。変に細部がリアルで、しかも全体的に陰鬱なトーンなので、気分が沈んでいるときには読まない方がいいかも。

 フランセス・アッシュクロフト『人間はどこまで耐えられるのか』(矢羽野薫訳 河出書房新社)
 極限状況において、人間の体はどこまで耐えることができるのか、を探った科学ノンフィクション。エベレストの山頂、深海、火山帯、極地、宇宙空間など、極限的な自然環境における人間の生理が、こと細かに記されています。専門用語はほとんど使われず、著者の文章にもユーモアがあるので、読みやすさは抜群です。飛行機に異常事態が起こったとき、もしくは船が難破して冷たい海に投げ出されたときなどに、どうすればいいのか、という具体的なサバイバルにも言及していて、その点でも参考になります。

 穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』(メディアファクトリー)
 歌人兼エッセイストである著者のエッセイ集。主に恋愛についての文章を集めているのですが、洒落たユーモアがたまりません。歌人だけあって、言葉の使い方も非常に面白く、感心させられます。内容もぶっ飛んでいて、その発想は、ある種〈センス・オブ・ワンダー〉の域に達しています。
 例えば「「ときめき」延長作戦」。相手の事を知り過ぎると「ときめき」が磨耗してしまうので、互いの情報をあまり知らせずにつきあったらどうか、という提案。結婚記念日に「贈り物」として、年齢・血液型・名前などの情報をひとつづつ教えていけば「ときめき」が長持ちする…。ギャグに近いネタもあるのですが、意外と本質をついているなあ、と感じさせるところもあります。
 この人のエッセイ集は、どれもみな面白いのでオススメです。

 太陽レクチャーブック001『グラフィック・デザイナーの仕事』(平凡社)
 現在活躍中のデザイナーたちへのインタビューを集めた本。専門用語が使われるわけでもなく、一般読者にもわかりやすく書かれていて楽しめます。クラフト・エヴィング商會が目当てで購入したのですが、期待を裏切らない内容でした。値段もリーズナブルなので、クラフト・エヴィング商會のファンは是非。

テーマ:読了本 - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント
おや
あ、翻訳小説以外も読まれるんだ(笑)

植草甚一とは懐かしいですね。数冊しか読んでいませんが。続々復刊! というわけにはいかないでしょう。
『活字狂想曲』は既読。それにしても、”この人、小説よりエッセイストの方が向いてるんじゃないでしょうか。”とは、なんとシビアな褒め言葉!?
あれ、『グラフィック・デザイナーの仕事』は妻が買っていました。



【2007/04/09 19:02】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

読みます(笑)
一応、翻訳小説以外も読みます(笑)。あんまり多くはないんですけどね。
植草甚一は、最近〈スクラップブック〉シリーズが全巻復刊されて、だいぶ手に取りやすくなりましたが、とりあえず翻訳小説関係の巻だけ買いました(笑)。既読のものもありましたが、やっぱりこの人の文章には味がありますね。

『活字狂想曲』は既読でしたか。さすが倉阪ファン!
いやあ、この人の文章はメジャーになる以前から、ずっと『幻想文学』誌で読んでいたのですが、エッセイとか翻訳とか評論の方がずっと読みでがあるように思います。というか、いつまでたっても小説があまりうまくならないような気が…。

『グラフィック・デザイナーの仕事』はとても読みやすいので、一般読者にもオススメです。精神論とかでなくて、実践的な話も多くて、面白いですよ。
【2007/04/09 20:25】 URL | kazuou #- [ 編集]

そこまで・・・
> エッセイとか翻訳とか評論の方がずっと読みでが・・ (倉阪鬼一郎)

そこまでハッキリといわれてしまうと目を覆いたくなるような。多分、本来が”陽”な方なのに”陰”に
あこがれてモノを描くせいで”グルグル”なってしまうのではないでしょうか。というか短編の方が
向いているような気がします。

植草甚一スクラップブックはJAZZに入り込むきっかけになったシリーズ。
私にとってはこのシリーズ「渋い大人の男性の世界」の代名詞でもあったのです。現実は・・。

【2007/04/09 22:44】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

けなしてるわけでは…
いえいえ、とくにけなしてるわけではないんですけど…。
小説作品はあんまりたくさん読んでいないので、おこがましかったかな。個人的には、この人のエッセイとか評論とかって、好きなんですけどね。
なるほど! 本来は「陽」ですか。たしかに頷けるところがありますね。


shenさんも、植草ファンでしたか。ジャズにははまらなかったけれど、本や読書に関しては、けっこうお世話になりました。やっぱりあの独特の語り口は素晴らしいですね。最近(でもないか)出たムック本『植草甚一スタイル』(平凡社)なんかを見るにつけ、本当の意味で「お洒落な」人だったんだなあ、と思います。

【2007/04/09 23:06】 URL | kazuou #- [ 編集]


活字狂想曲は面白いですよね。辞めた理由も凄い…。
上司に向かって「バカをバカと言って何が悪いんだバカ」って(笑)。
年収13万円で暮らすことなんてできるんですかね?
【2007/04/11 21:54】 URL | イーゲル #- [ 編集]

壮絶ですね
まさに業界の底辺のレポートという感じで、読後感は壮絶でした。著者の態度もかなりすごいと思うけど、それ以上に、到底まともとはいえない変人たちが出てくるのには驚きましたね。
内容はあんまり笑えない状況なんだけど、著者のブラックユーモアがいい方向に利いていて、楽しめる本になっているのはさすがですね。
最底辺にいる純文学作家とかライターは、限りなく無収入に近い人も
いるとかで、それを考えると、年収13万円とかでも驚かなくなってしまいます。
【2007/04/11 22:43】 URL | kazuou #- [ 編集]

お久しぶりです
 いつも楽しく拝読してますが、コメントさせていただくのはかなり久しぶりな気がします。

>穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』

 自分の中のkazuouさんのイメージに合わなくて、意外だな~っと思ったので思わず。
 穂村さんエッセイしか読んでないんですけど、大好きなんです。力の抜け具合が絶妙ですよね。『ダ・ヴィンチ』で連載しているのを時々立ち読みしてました。単行本になったんですね!私も図書館に予約入れなくては!
【2007/04/13 16:11】 URL | 猫のゆりかご #QG0IHlXE [ 編集]

>猫のゆりかごさん
ご無沙汰しております。

『もしもし、運命の人ですか。』は、内容的には、本来あんまり手に取るようなタイプの本ではないんですけど、穂村弘の著作ということで、ためらいなく購入しました。
以前、タイトルに惹かれて本屋で立ち読みした『本当はちがうんだ日記』以来、穂村ファンです。もっぱらエッセイ集を読んでるんですけど、巧まざるユーモアというか、読んでいて本当に楽しい文章を書く人だなあ、と思います。

ちなみに先日、古本で手に入れた穂村弘の童話集『いじわるな天使』もすごく良かったですよ。ちょっとひねくれた感性がたまりません。この人の小説作品も読んでみたいですね。
【2007/04/13 18:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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