友達は殺人犯  ウィリアム・ゴールドマン『殺しの接吻』
4150017530殺しの接吻
ウィリアム・ゴールドマン 酒井 武志
早川書房 2004-06-11

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 ウィリアム・ゴールドマン『殺しの接吻』(酒井武志訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)は、映画の原作小説となるサイコ・スリラー。この作品、猟奇的なサイコ・スリラーが氾濫する現代にあって、ユニークな特徴を持っています。
 一人住まいの女性を狙った連続殺人が発生します。被害者の額には、口紅で毒々しくキスマークが描き込まれていました。ある日、事件を担当するモー・ブランメル刑事に、一本の電話がかかってきます。殺人者を名乗る男は、犯人しか知らないはずの事件の詳細を語り、親しげな口調で語りかけます。
 殺人犯はなかなかつかまらず、事件は続きますが、たびたび刑事のもとにかかってくる電話を通して、殺人犯と刑事との間に妙な親近感が生まれはじめます…。
 世間一般で言う「友情」とは形が違うものの、刑事と殺人犯の間に生まれる、奇妙な「親近感」が読みどころです。異常性格者である殺人犯に親近感を抱くだけあって、この主人公の刑事もまた、屈折した性格を抱えています。二人とも過去に、母親との軋轢があったことも共通点として記されます。
 刑事が主人公ではあるのですが、警察側の捜査状況は、ほとんどといっていいほど描写されません。刑事と殺人犯の知恵比べ、といった要素はあまりなく、むしろ刑事と殺人犯の心理を描いた異常心理サスペンス、といった趣が強い作品です。それを表すかのように、殺人犯のプロフィールは前半で、読者に明かされてしまうのです。
 殺人犯は、資産家で、優男。ものまねがうまく、女装をしても見破られないほど。この殺人犯の造形が非常に面白いところです。
 さらに後半、殺人犯の犯行をまねた模倣犯が現れるにおよんで、物語は大きく動き始めます。プライドを傷つけられた殺人犯は、刑事に模倣犯を捕らえるように強調するのです。警察の無能さに業を煮やした殺人犯は、なんと自ら捜査をはじめて模倣犯を追いつめてしまいます。そして最終的に彼がとったのは、恐るべき手段。それに対する刑事の反応は…。
 刑事も殺人犯も、一皮剥けば、中身はそう違うものではない。一般の人間でもふとしたきっかけで、殺人犯になりうるのだ…。1964年と、発表は古いながら、極めて現代的なテーマをもった異色サスペンスです。
 デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』と共通するものがある…といえば、少しはこの作品の魅力が伝わるでしょうか。ただ猟奇的なだけのサイコ・スリラーに飽き飽きした人にこそ、読んでいただきたい作品です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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