モノがモノだけに  埋もれた短編発掘その6
 今回ご紹介するのは、ロバート・トゥーイ(この作品での表記はトゥーヒイ)『物しか書けなかった物書き』(小鷹信光訳 早川書房 ミステリマガジン1974年4月号所収)です。この作家、実にナンセンスかつ人を食った話を書くのが得意です。最近では法月綸太郎が『私の偏愛する異色作家』(早川書房 SFマガジン2004年7月号所収)という特集でトゥーイを紹介していましたね。では、どうぞ。
 かってはハリウッドで幅を利かせた作家バート・ディーは、四十を過ぎた今、太鼓腹、近眼のアルコール中毒患者になりはてています。当然生活は貧窮を極めます。かっては美しかった妻のライラも、生活苦のため生気がありません。
 そんなある日、地下室の仕事場から駆け上がってきたバートは、ライラに奇妙なことを言い出します。馬を書いた、とわけのわからないことを言うのです。泥酔しているせいだと思いつつも、ライラは地下室からくぐもった鳴き声が聞こえるのに驚いて、地下室に足を運びます。
 床の半分はセメント、のこり半分は土のままの地下室。そこにいたのは、灰色の小さな馬でした! 度の過ぎたいたずらだと思ったライラは憤慨しますが、バートは自分が書いたのだといいはります。半信半疑ながら信じることにしたライラは、それでは金そのものを書いてみてくれとせがみます。大金を思い浮かべながらタイプをたたくバートでしたが、一向にお金は現れません。

 「わかった! おれが書けるのは、手で触れることのできる実体のあるものだけなんだ」
 「どういうこと?」
 「ハタと思い当たったのさ。触れないものは書けない。たとえば金はそれだ」
 「いつからそうなったの?」
 「金は紙切れだ。相対的な価値にすぎない。おれは、価値はかけないんだ。実体のあるものしか書けない。」


 そしてバートは、北極熊の敷物を作り出すのです。結果、血液中のアルコール成分が微妙に影響して、物を作り出せることを発見します。その後も続々と金目のものを作りだし売りさばいたバートは、次第に裕福になります。豪華な装身具や宝石を買うようになったライラは、見る間に太り尊大になっていきます。一方バートは常にアル中状態、くたびれた恰好のままです。上流階級の連中とつきあうようになったライラは、夫をうとみ始めます。うんざりしたバートは、女中のイヴィンヌといい仲になり、ライラを厄介払いする計画を練り始めます。

 「離婚はなさらないわ。あなたが、お金を稼いでるんだから。」
 「そう、ぼくは物書きだからね。」
 「なにを書いてるの? 教えてくれないのね。」
 「物を書いてるのさ、手に触れられる物を。きみが正しいようだ、離婚には応じそうもない。」


 バートは、自らの能力を使って、ライラを始末しようとするのですが、意外な落とし穴が待ちかまえています。実体のあるものしか作り出せないという能力が、土壇場になって、思わぬしっぺ返しをするのです。そして、結末のグロテスクさには、強烈な印象を受けることでしょう。トゥーイの最高傑作といっていい作品です。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

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