犬も捨てたもんじゃない  ジェイムズ・ハーバート『仔犬になった男』
B000J8EAFE仔犬になった男 (1979年)
関口 幸男
サンケイ出版 1979-10

by G-Tools


 生まれ変わりがあるとしたら…、そして生まれ変わった先が動物だったとしたら、あなたはどうしますか?
 ジェイムズ・ハーバート『仔犬になった男』(関口幸男訳 サンケイ出版)は、生まれ変わりをテーマにした、愛すべき動物ファンタジー。
 語り手の「ぼく」は、目覚めると仔犬になっていました。以前にどこかで何かがあったような…、おぼろげな記憶はあるのですが、それがうまく思い出せません。やがて野良犬になった「ぼく」は、他の犬とは異なる賢さを持つ犬ランボに出会い、親友になります。成長するにしたがって、以前は人間であったことの確証を得た「ぼく」は、妻と娘に会うために、そして何度も記憶にあらわれる謎の男、おそらく自分を殺したであろう男の正体を探るために、旅に出ます…。
 語り手は、以前人間であったときの記憶をかすかに残して、犬に生まれ変わるのですが、その犬としての日常生活がとても詳細に描かれます。人間らしさを残しながらも、犬としての本能にはうち勝てず、腹をすかして食物にとびついたり、軽はずみな行動をとってしまったりするところなど、じつにリアリティにあふれています。
 この手の「動物生まれ変わり」ファンタジーでは、体は動物のままでも、意識はふつうの人間とまったく同じ、というお手軽なものが多いのですが、この作品は、ひと味違います。主人公が犬になりきってしまいそうになるくらい、意識も動物側に近い感じで描かれるのです。人間の知識を利用して生き抜く、というわけでもありません。何しろ、人間であったときの実用的な知識や記憶はほとんど失われているのです。本当に人間の意識を残したまま犬になったとしたら、さもありなんという感覚が、実に色彩豊かに描かれます。
 その犬としての生活も、おとぎ話のような、きれい事ばかりではありません。生死をかけた殺し合いもまた日常茶飯事なのです。また、語り手から見た人間の二面性などについても触れられるのですが、犬の視点を通すことによって、人間も相対化してとらえられているのが面白いところ。
 物語を貫く謎として、人間としての自分はなぜ死んだのか、殺されたとしたら誰が殺したのか、というものがあります。ただ、前半の大部分は、仔犬時代の日常生活を描くのに費やされるので、ミステリ的な展開は薄いです。そして結末でも、殺人犯を追いつめる、といったような展開とはちょっと趣が違うので、そうした趣向を期待していると、ちょっとがっかりしてしまうかもしれません。
 しかし、全体を通して生への礼賛にあふれており、肯定的な結末とも合わせて、読後感は非常に良好です。「動物の視点」を描き得た作品としても、ポール・ギャリコの『ジェニィ』と並ぶ、第一級のファンタジーでしょう。犬好き、動物好きなら、読んで損はない作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ハーバート
タイトルとあらすじで「あれ?」と思いましたが、サンケイ出版ですし、やっぱり「ザ・ダーク」や「ムーン」のハーバートの作品だったのですね(笑。
本ブログでは「ザ・サバイバル」が紹介されていますが、『仔犬になった男』の方はファンタジーの色合いが濃いようで、ハーバートの著作の中では異色作と言えると思います。
同じモダンホラーの作家のクーンツも『ウォッチャーズ』という、これまた犬好きの方には涙モノの作品を書いていますし、kazuouさんの言うように「生命への礼賛」を描くには、メタファーとしての犬を主人公に据えるのも面白いのかもしれませんね。
【2007/03/11 22:40】 URL | newt #- [ 編集]


この作品、B級ホラー作家ハーバートが書いたとは思えないほど、トーンが違いますね。ハーバート作品中では異色作だと思います。
他の作家が同じ題材で書いたら、主人公を殺した犯人探しのサスペンスが強くなると思うんですけど、これは犬としての日常生活が中心になるところがユニークです。
最初、もしかして主人公は人間に戻れるのかな?とか思いながら読んでいたんですけど、期待を裏切る方向に行ってしまいました(いい意味で)。
月並みなメッセージながら、「生きるって素晴らしい」ということが、説得力豊かに描かれていたと思います。これはやっぱり犬を上手く使ったからこそでしょうね。
【2007/03/12 07:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/208-93c89082
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

[movie]犬という愛の形態

『フルーク』カルロ・カルレイ監督(地上波・吹替版) Fluke (1995) 交通事故で死亡した男性が、なぜか子犬に生まれ変わった。人間としての記憶を取り戻すにつれて妻子に迫る危機を思い出した彼は、友人の犬の助けを借りて家族を救うために奮闘する。(新聞のテレビ欄解説 ニゲラ嬢の雑記帖【2007/03/28 19:07】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する