うそつきは成功する  ジョン・コラピント『著者略歴』
4151759018著者略歴
ジョン コラピント John Colapinto 横山 啓明
早川書房 2005-11

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 どこかで聞いたような題材を扱いながらも、ジョン・コラピント『著者略歴』(横山啓明訳 ハヤカワ文庫)は、エンタテインメントの要素をこれでもかとばかりに投入した結果、非常に楽しめる娯楽作品となっています。
 作家志望の青年キャルは、ある日ルームメイトから、小説を読んでくれないかと頼まれます。その作品はまさしく傑作でした。キャルは嫉妬にとらわれますが、その直後、ルームメイトは事故死してしまいます。キャルは盗作の誘惑に駆られ、自分の名で小説を発表してしまいます。作品は、瞬く間にベストセラーになり、映画化権も売れ、巨万の富が転がり込みます。しかし、盗作の事実を知る女がキャルの前に現れます…。
 このようなタイプの話の通例で、当然、盗作の事実はばれることになりますが、本作の場合、そこに殺人の容疑がかかるところが上手いです。殺人の容疑を認めて盗作を隠すか、盗作を認めて殺人を逃れるか、二つに一つという状況に追い込まれまれるのです。
 あらすじを読む限り、追い込まれた主人公の精神的苦悩が描かれるのだろうか?と思いがちでしょうが、この作品の場合、そうした心理的な部分よりも、災難から逃れようと四苦八苦する、具体的な手段の方にウエイトが置かれています。あくまで主人公は、現実的な対策を駆使して、徹底的に災難から逃れようとするのです。その意味で、かなりアクション重視の作品ではあります。
 そして、この主人公キャルが、かなりの俗物として描かれているのが目を引きます。世俗的な欲望を持ち、成功願望の強い青年。作家を称しながらも、一行も書けないという体たらく。典型的な「ダメ男」なのですが、これが不思議と嫌悪感を抱かせません。等身大のふつうの欲望を持ち、弱さをかかえた人間だからでしょうか。脅迫にあいながらも、その屈辱よりも、妻となった女性を失うことに対する恐怖のほうが大きいところなどにも、好感が持てます。
 ストーリーの方も、次から次へと目まぐるしく起こる事件が、読者の興味をつかんで離しませんが、それだけに、後半になると、かなり急ぎ足になっている印象は否めません。ただ、結末の収束のさせ方はなかなかユニーク。
 この手の話では、だいたい主人公は破滅するのが常なのですが、この作品、曲がりなりにもハッピーエンドになってしまうのです。その展開の仕方には賛否両論あると思いますが、こんな手もあったのか!と思わせる、ひねった解決は、なかなか斬新です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
こんばんは♪
kazuouさんの記事を読んでると、知り合いが亡くなり、その人物になりすまして災難から逃れようとするところがキャル=ハイスミスのリプリーとダブって見えてしまうのですが、この作品は楽しめる娯楽作品ということなので読むと全然違うんでしょうね(リプリーは楽しめても決して娯楽・・・とは言いがたい!)。
典型的な「ダメ男」というのもリプリーには当てはまらないし(でもリプリーも破滅しないんだよなー)。

リプリーシリーズよりも気楽に読めそうな感じだし斬新な展開も興味津々です♪
【2007/03/06 22:51】 URL | TKAT #- [ 編集]

娯楽に徹してます
そうなんですよ。テーマ的には、ハイスミスっぽいんですけど、中身は正反対。徹底的な娯楽作品ですね。
心理的なサスペンス、というよりも「つぎはどうなるの?」というハラハラドキドキ感が先行する、ジェットコースター・サスペンスです。とくに、俗物の主人公が、いろいろと災難からの逃げ道を考えようと取る行動が、いかにもダメ男的で、面白いです。
あとは、脅迫者になる女もものすごい悪女で、印象的なキャラクターでしたね。映画化も予定されているようですが、たしかに見せ場たっぷりの作品だと思います。
【2007/03/06 23:13】 URL | kazuou #- [ 編集]

読みました♪
リプリーと違い、ダメ男ぶりが面白かったです。
「どんな展開が待ってるんだろう?」とドキドキしながら読んでると、ラストが思ってもみなかった方向へ進んでいきびっくり。
脅迫者のラストでの変わりっぷりもどこか許せてしまうのがこの作品のいいところでしょうか。うん、確かに娯楽作品ですね~。
映画化になるとサスペンスコメディになりそうですが、忘れた頃に公開させるんだろうな(笑)。

TBさせていただきました。よろしくです♪
【2007/03/30 20:29】 URL | TKAT #- [ 編集]

最後で
後半まで読み進んで、これも結局破滅するんだろうなあ、とか思ってたら、結末の急展開には驚かされますね。
どこか、力ずくでハッピーエンドに持って行ったような気がしないでもないんですが、ああいう終わり方もなかなか面白いものです。

そうですね、映画化するとすると、コメディ的な要素が強くなるような気がします。
【2007/03/30 20:44】 URL | kazuou #- [ 編集]


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「著者略歴」 ジョン・コラピント

『著者略歴』 ABOUT THE AUTHOR 著者:ジョン・コラピント (John Colapinto) 訳者:横山啓明 出版社:早川書房<簡単なあらすじ>作家志望のキャルは女遊びに忙しい毎日を送っていた。そんな時、 TK.blog【2007/03/30 20:27】

「著者略歴」いつか書けるかも、本当の物語

「著者略歴」★★★★オススメ ジョン・コラピント著、443ページ、900円、ハヤカワ文庫                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「作家を目指して soramove【2010/01/23 18:51】

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Author:kazuou
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