憎悪の行方  パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』
4152082623霊応ゲーム
パトリック レドモンド Patrick Redmond 広瀬 順弘
早川書房 2000-02

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 イギリス、全寮制のパブリックスクールが舞台。頭はよく素直だが、自信がなく気弱なジョナサンが、頭脳明晰ながら、傲岸で一匹狼的な存在であるリチャードと友人になったことから、いじめっこのジェイムズにつけねらわれることになります。ジェイムズの陰湿ないじめを受けるジョナサンは、ことあるごとにリチャードに助けられます。リチャードはジョナサンに、強い意志で人を憎めば何でもできる、と仄めかします。
 あるとき、リチャードの家で、古いウィジャ盤を見つけた二人は、遊び半分にそのゲームをすることになります。その直後に、いじめっこのグループにいろいろな事故が降りかかりはじめます。最初は喜んでいたジョナサンも、徐々に不安に駆られていきます。災難は超自然的な現象なのだろうか? さらに、リチャードのあまりに異常な憎悪に恐怖を覚え始めるジョナサンでしたが…。
 パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』(広瀬順弘訳 早川書房)は、閉鎖された学園内での少年たちを描く学園小説なのですが、そこに幻想的な要素をからめているのがユニークなところ。
 まず特筆すべきは、登場人物の描き込みの素晴らしさでしょう。主人公のジョナサンをはじめ、遺伝的な狂気を秘めるリチャード、裏切られても友情にこだわるニコラス、自殺した生徒との仲に悩む教師のアラン、良妻賢母そのもののような校長夫人エリザベスなど、どの人物もそれぞれの過去があり、人物がごっちゃになることはありえません。彼らの織り成す人間関係は興味深く、序盤から読者を物語に引き込みます。
 タイトルにもある通り、ジョナサンたちが行う「霊応ゲーム」が作品のキーになるのですが、このゲームそのもの詳細や、それにまつわるオカルト的な場面は、ほとんどといっていいほど描写されません。さらに、周りの人間たちの事故とゲームとの因果関係も、最後の場面を除いて、はっきりとしていません。
 そういう意味では、これらのオカルティックな題材そのものには、あまり恐怖を感じません。それよりもむしろ、リチャードの憎悪そのものが、ゲームよりも恐怖感をかきたてるようになっています。最初は、ジェイムズのいじめや、教師の陰湿な態度などが、非常に残酷に感じられるのですが、それも後半のリチャードの狂気じみた態度に比べると、色あせて見えてきます。
 一応は恐怖小説の体裁をとってはいますが、主題はパブリックスクール内での、少年たちの友情物語です。なお、語り口にも仕掛けがこらされており、事件が経過した後に、過去を回想する…という形をとっています。プロローグで登場する、事件の関係者の一人の名前を出さないところも、実にうまい仕掛けになっています。
 繊細な心理描写、全体に流れる幻想的な雰囲気、飽きさせないストーリー展開、と「物語」としては抜群の完成度を誇る作品。超自然的な現象を肯定も否定もしない結末も、余韻を残しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

ミステリィ、ホラーファンのみならず、耽美派にも評判が高い作品ですよね。
辛口の石堂藍さんの書評も上々だったのにいかんせんタイトルがどうかな?というのと、文庫落ち
すると皆思ったのか、今では古書価もそこそこしますね。
復刊リクエストも100に届きそうなのでひょっとしたら再刊するかもしれません。
【2007/03/10 11:53】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

力作ですね
僕も、これは文庫化されるかなあ、と思っていたんですが、なかなかなりませんね。タイトルが安っぽいオカルト小説みたいなのが、わざわいしたのかも。埋もれるにはもったいない力作です。

後に出た『復讐の子』もそうでしたが、このレドモンドという作家、人物造形が飛び抜けて上手いです。あと話を盛り上げるツボもなかなか巧み。
『復讐の子』は、かなり大衆小説的な味が濃かったのですが、『霊応ゲーム』はその点さらに洗練されていて、全体を覆う耽美的な雰囲気といい、読者に媚びない結末といい、読み巧者からの評価は高いかもしれません。
この作者の作品は他にも読んでみたいですね。
【2007/03/10 14:58】 URL | kazuou #- [ 編集]


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