昔の女を探せ  リチャード・ニーリィ『日本で別れた女』
4150013888日本で別れた女 (ハヤカワ・ミステリ 1388)
リチャード・ニーリィ 金田 文夫
早川書房 1982-02-26

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 リチャード・ニーリィのミステリ作品には、ある特徴があります。それは「どんでん返し」。どの作品にも必ず何度か「どんでん返し」が使われ、めくるめくような感覚を味わうことができます。本作『日本で別れた女』(金田文夫訳 ハヤカワ・ミステリ)も、そんなニーリィ独特の味が前面に出た作品です。
 ある日キャサリンは、広告会社の重役である義父スコット・ウエルズが、昔書いた小説の原稿を発見します。若いころ、彼は作家志望だったのです。そこには、進駐軍の若い兵士と日本の娘のロマンスが描かれていました。キャサリンは、小説の主人公のなかに、父親らしい優しさを認めて微笑みます。
 しかし、スコットの妻ティナは、小説が事実に基づいていると考え、夫を疑いはじめます。今でも日本の友人と連絡をとっている夫は、不倫をしているのではないか? ティナは、夫の身辺調査をいとこのガードナーに頼みます。ところが、その直後、彼女は死体となって発見されます。ガードナーは、スコットとキャサリンにかかった殺人容疑を晴らすために、調査を開始しますが…。
 作品のしょっぱなから、作中内作品(スコットの書いた小説)が登場し、それを読む娘キャサリンの描写が、交互にはさまれていくという構成をとっています。この作中内作品が、なかなか曲者。
 この作品の一番のキーポイントは、主人公の昔の恋人である日本人女性が本当に存在するのか、存在するとして現在でも主人公の近辺にいるのか? というところ。序盤では、作中内作品が事実なのかどうかが保証されないために、日本人女性が実在するのかわかりません。主人公に容疑をかけるために、他人が捏造した可能性があると、読者は勘ぐってしまうのです。
 けれど、ニーリィ自身は、作中内作品の客観性については、ほとんど関心がないような感じを受けます。つまり、登場人物たちが、作中内作品の内容が捏造された可能性がある、とは全く考えないのです。作中内作品の内容はあくまで事実である、という前提でストーリーが進められていくのです。
 探偵役が、主人公と一緒にいる日本人女性を見かける描写もはさまれるなどして、その印象も強められています。その結果、やはり妻を殺害する動機がスコットにあることが仄めかされるわけです。
 後半になると、怒濤のように「どんでん返し」が連発されます。あまりに連発されるので、誰が犯人でもいいような気になってくるほど。そのため、ストーリーが、多少不自然になっている感は否めません。登場人物の性格の掘り下げが浅いのも、ちょっと気になるところですね。ストーリーの展開と、キャラクターの結びつきが弱い印象を受けてしまいます。
 ただ趣向自体はたいへん面白く、ニーリィ作品を初めて読む読者なら、充分楽しめる出来でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

ニーリィは原題よりも邦題の方が洒落ていていいですよね。某原題なんてネタバレだろう?という
のもありますから。「フィニッシング・ストローク(最後の一撃)」が効いているのは『心ひき裂かれて』
が一番かな、と思いますがkazuouさんが仰るとおりニ-リィをまだ読んだことのない方には
このあたりから読まれるといいでしょうね。こういった作品は”未読の方”が羨ましいです。
【2007/04/09 22:13】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

どれもなかなか
考えてみると邦題はみな、気が利いたものが多いですね。
『心ひき裂かれて』が飛び抜けた傑作だと思うけれど、ニーリィ作品はどれも読んでもなかなかだと思います。『日本で別れた女』はニーリィにしては、かなり落ちるというか、まとまりに欠ける点がありますけど、娯楽性はかなりのもので、これはこれでなかなか面白いですね。

何年か前に、角川で絶版だったニーリィ作品が一挙に復刊されたことがありましたけど、あんまり話題にもならなかったような…。未訳の作品があるなら、もうちょっと訳してもらいたいなあ。
【2007/04/09 22:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


>何年か前に、角川で絶版だったニーリィ作品が一挙に復刊されたことがありましたけど

この時大喜びで一気に買いました~。トマス・トライオンの「悪を呼ぶ少年」とか、何気に過去の有名作を復刊してくれてましたよね。
そういえば「仮面の情事」も絶版になってるんでしょうか?確か映画版をちょっとだけ観た覚えがあるので、原作を読んでみたいのだけど…
【2007/04/13 11:15】 URL | そら #- [ 編集]

>そらさん
角川のニーリィの復刊は、かなりいい企画だったと思うんですけどね。角川の海外ものって、絶版になると、めちゃくちゃ探しにくいし。

『仮面の情事』も絶版みたいですね。でも新潮文庫だということもあって、100円均一などでも、わりとよく見かけますよ。僕は映画の方は未見なのですが、原作は読みました。例によってドンデン返しがあるし、ニーリィらしいトリッキー作品です。個人的にはニーリィ作品中の上位に入る作品でした。
【2007/04/13 18:43】 URL | kazuou #- [ 編集]


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