おとぎの国の狂紳士  リチャード・ダッド
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 比喩的に「狂気の画家」などという表現が、使われることがあります。「天才と狂人は紙一重」などという言葉もあるように、狂気には、どこか恐れと同時に、憧れの感情が混ざることも、ままあるようです。ですが、実際に「狂った」画家というのは、あまり褒められたものではありません。
20070215221223.jpg そもそも精神の荒廃した人間に、魅力的な絵が描けるのか?という点では、大いに疑問を抱かざるをえないのです。ですが、その疑問を打ち破るような人物が存在します。イギリスの画家リチャード・ダッド、彼こそは文字どおり「狂気の画家」なのです。
 19世紀前半、イギリスに生まれたリチャード・ダッドは、早くから絵の才能を表し、将来を嘱望されていました。しかし中東旅行を期に、精神病を発病してしまいます。帰国した後も病状は悪化し、ついには父親を悪魔だと思い込み、刺殺してしまうのです。
 精神病院に収容されたダッドは、その後も絵を描き続けます。発病後も、絵の才能が衰えることはありませんでした。死去するまでの40数年間、ダッドは精神病院内で絵を描きつづけたのです。
20070215221204.jpg さて「狂気の画家」の作品は、どんなものなのかと思いきや、想像するほどには非常識なものはありません。ダッドの場合、狂気によって創造力が活性化された、というよりは、絵の才能と意欲が狂気を押さえつけた…という面が強いのかもしれません。
 彼の作品の大部分は水彩画なのですが、全体的に色彩が薄い傾向があります。ありあまる技量は感じ取れるものの、深い印象を与えるものは多くはありません。その中で印象に残るのは、バラードの物語に想を得たという『狂えるジェーン』でしょうか。他の作品にも共通するのですが、人物の表情に、ある種、鬼気迫るものが感じられます。
 やはり彼の本領が発揮されているのは、油彩画でしょう。とくに「妖精」を扱った、いくつかの作品は、迫力に満ちています。全作品に占める割合は少ないのですが、ダッドが「妖精画家」と呼ばれるのも、ゆえなしとしません。
 叙情的な『夕辺』、愛らしい『パック』、妖気ただよう『バッカス祭の情景』もそれぞれ素晴らしい作品ですが、代表作としては、やはりこの2点があげられます。『お伽の樵の入神の一撃』『対立・オベロンとティターニア』です。
 どちらの作品も、すさまじい細密描写が特徴です。偏執的なまでの描き込みが、リアリズムの方向ではなく、逆にファンタジーの方向へと、作品を押しやっているようです。ことに『お伽の樵の入神の一撃』に至っては、画面上のすべての要素が等しく描き込まれており、一度見ただけでは焦点がつかみにくいほどです。9年近い歳月を費やして、まだ未完成というから、まったく空恐ろしい作品です。 
 センセーショナルな話題が先行してしまう感のあるリチャード・ダッドですが、その作品にはやはり、再評価に値する魅力が充分にあります。
 本邦では、唯一の画集『夢人館8 リチャード・ダッド』(小柳玲子編 岩崎美術社)が刊行されていますが、内容・解説ともに充実の一冊になっていますので、興味を持たれた方は、御覧になってはいかかでしょうか。



この記事に対するコメント

『狂えるジェーン』は世界のオカルト文学 幻想文学・総解説(自由国民社)の『オーランドー』(ウルフ)か
『アルラウネ』(エーヴェルス)の紹介ページに挿絵(?)として使われていましたよね。
カラーでももちろん妖しいのですが白黒の画がまたどんな色彩なのか想像させて耽美な魅力にあふれていました。

『お伽の樵の入神の一撃』はクイーンのF・マーキュリーがこの画をモチーフに曲を作り、M・チャドボーンが
『フェアリー・フェラーの神技』(原題The fairy feller's Master stroke)という短編を書いて’03年度の
英国幻想文学大賞短篇部門を受賞しました。囚われの精神の画家はその多大なるイマジネーションで
人を捕らえて想像力を刺激しているようですね。
【2007/03/02 22:42】 URL | shen #- [ 編集]

最近は
そうですね、『狂えるジェーン』は『世界のオカルト文学 幻想文学・総解説』に載ってましたね。
そういえば、確かあの本って、幻想系の絵画やイラストがけっこう使われていましたけど、作品名も記してなかったですよね。そもそも絵と、それが載っているページで紹介されている作品ともとくに関係がなかったみたいだし。そういう意味では、かなりいいかげんな感じでしたけど、魅力のある絵画を見る機会を与えてくれた…という意味ではありがたかったです。

『お伽の樵の入神の一撃』をはじめとして、最近ダッドの絵がいろんな本の表紙として使われているのを見る機会が多くて、ダッドもかなりメジャーになったんだなあ…と感慨深いです。やっぱりインパクトのある絵が多いですしね。
『フェアリー・フェラーの神技』は未読なのですが、気になっている作品ではあります。
【2007/03/02 23:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんにちは。
shenさんのおっしゃるとおり、
クイーンの「クイーンⅡ」に「The Fairy Feller's Master-Stroke」なる名曲がありますね。
「バッカス祭の情景」は、ロリーナ・マッケニットの「To Drive the Cold Winter Away」
というアルバムのジャケットに使われています。
これも大好きなアルバムです。
【2007/03/03 20:26】 URL | 木曽のあばら屋 #GHYvW2h6 [ 編集]

>木曽さん
そうなんですか。そちら方面の音楽には疎いのですが、ダッドの絵はアーティストにもわりと人気があるんですね。画家の経歴なども考えると、一種の「アウトサイダー・アート」的な一面があるのかもしれませんね。
【2007/03/04 08:37】 URL | kazuou #- [ 編集]


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