ねじれた人生  ロバート・トゥーイ『物しか書けなかった物書き』
430980103X物しか書けなかった物書き
ロバート・トゥーイ 法月 綸太郎 小鷹 信光
河出書房新社 2007-02-10

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 ロバート・トゥーイの作品は、風変わりです。その特徴を一言で言うなら、ストーリーのねじれ具合、でしょうか。あまりに不自然な方向にねじれていくその展開は、何とも妙な読後感を味あわせてくれます。
 本邦初のトゥーイ傑作集となる『物しか書けなかった物書き』(法月綸太郎編 小鷹信光他訳 河出書房新社)には、ナンセンス・ストーリーだけではなく、人情もの、ホラーもの、クライム・ストーリーも収められ、ヴァラエティに富んだ編集になっています。

 『おきまりの捜査』 まだ若いクランプ巡査は、通報を受け、パーク夫人の家を訪れます。昨夜、夫が亡くなったと聞いた巡査は、さっそく死体を見せてもらうことにしますが、そこにあったのは、緑色のパジャマを着た骸骨! 要領を得ない夫人の話に加え、ちょうど訪ねてきた姪のマーブルも、おばに同調するかのような態度をとります。困惑するクランプ巡査が見たものとは?
 巡査と夫人のかみ合わない話が続く序盤から、違和感を感じさせるナンセンス・ストーリー。現実的な解決を期待していた読者は驚かされることでしょう。

 『階段はこわい』 何度も妻を死なせている男ラケットに、不審の念を抱きつづけるチェンバーズ警部補。四度も妻が偶然死するなどということはありえない! ラケットを殺人者だと確信しながらも、その動機は皆目つかめません。しかも時を経ずして、再び結婚したラケットの意図はいったい何なのか? 彼の不吉な言葉に、不安を覚えるチェンバーズ警部補が知った、驚くべき事実とは?
 リアリティを根底から覆す、不自然なプロットの極致。偶然が偶然を呼ぶ、驚天動地のクライム・ストーリー。

 『そこは空気も澄んで』 若く熱意にあふれたベンは、親代わりのおじのアルとともに、大物ミスター・コストの部屋を訪れます。組織には、命令に黙って従える人間しか用はない、という言葉に二人はうなずきますが、ミスター・コストの示した試験は、とんでもないものでした…。
 野望と人情の板挟みになる青年。彼が選んだのはいったいどちらだったのか? 余韻を感じさせる結末が印象的な佳作です。

 『物しか書けなかった物書き』 かってはハリウッドで幅を利かせた作家バートは、ある日、自分がタイプライターで書いたものを、現実に作り出す能力があることに気が付きます。しかし作り出せるのは「物」だけ。金のような「価値」は作り出せないのです。作り出した「物」を売りさばいて、富を得るようになったバートでしたが、やがて上流気取りの妻のライラを厄介払いする方法を考えはじめます…。
 SF風のアイディアを用いながらも、その展開はミステリのもの。妙に生活感にあふれた描写が、奇妙な味をかもし出します。

 『拳銃つかい』 やり手の殺し屋アーニーは、大物であるいとこのホッグフェイスから、新たな殺しの依頼を受けます。彼を疑っている刑事をうまくやり過ごしたアーニーは、田舎町に到着します。標的である雑貨店の主人を、強盗に見せかけて殺そうと考えたアーニーでしたが、店主は思わぬ行動に出ます…。
 殺し屋を扱った、切れ味するどいクライム・ストーリー、のはずなのですが、後半に明かされる事件の真相が、へんに泥臭いところが、面白い味を出しています。

 『いやしい街を…』 三文小説家カーマックに作りだされた小説中の探偵であるフロッグ・オフラナハンは、使い古された「いやしい街」を歩くのにうんざりしていました。登場人物も、他の作家のまねをした、ボール紙のような人間ばかり。しかし創造主の期待を裏切れば、即刻消されてしまいます。仕方なしに命令に従うオフラナハンは、今回の依頼人の女性が、なぜか強い現実感を帯びているのに、驚かされますが…。
 ハードボイルドをパロディ化した、メタフィクション的作品です。作者の安っぽい趣向を馬鹿にする登場人物、キャラクターの一挙一動に口をはさむカーマックのセリフがおかしさを誘います。

 『墓場から出て』 ハリウッド俳優ランス・ラングーンが目を覚ますと、体は骸骨になっていました。そうだ、自分は愛人の夫に撃たれて殺されたはずなのに。しかも自分の人生が映画化され、喝采を博しているということを知ったラングーンは、姿を隠してハリウッドに向かいますが…
 突如、死からよみがえった男の冒険行。明確なメインストーリーがなく、次々とねじれた方向に進んで行く物語が読みどころ。結末では、起きたことが現実なのか幻想なのかさえもが、曖昧模糊となる幻想小説です。

 『予定変更』 人生がうまく行っていることに満足感を抱いていたジャック・ダネンは、突然、車の正面に男が倒れ込むのに気が付きます。あわてて停車したダネンでしたが、男に拳銃でおどされ、彼を乗せていく羽目になります。格好といい、顔色といい、男の様子は、まるで死んでいるよう。男は自分の体は、ホイットロックという男のものだと話します。しかし自分はホイットロックではない、とも。男の話に困惑するダネンでしたが…。
 ダネンの車にヒッチハイクした男はいったい何者なのか? 徐々に明らかになる意外な真相。無気味な男と二人、奇妙な深夜のドライブの行方は? 超自然味が濃厚なホラー的作品ながら、結末において、突如クライム・ストーリーに変貌する展開には、驚かされます。

 『八百長』 競馬にのめり込んでいるストレンバーグは、競馬場に勤める友人ヴァシリーから、イカサマのレースの情報を聞きます。ヴァシリーは親友だし、彼には何度も、儲けさせてもらっている。しかし手持ちの金を切らしていたストレンバーグは、ほうぼうの人々に金を貸してくれるようにと、頼んで回ります。そしてレース当日、思わぬ結果が…。
 競馬で身を持ち崩した男の、ある日の情景を切り取った人生スケッチ風の掌編。登場人物の描写からは、下層の人々に寄せる作者の同情心が感じられます。

 『オーハイで朝食を』 ジェームズ・クォークは、保安官捕の訪問を受けます。車の事故で死亡したミルズ夫妻のノートブックに、彼の名前と住所が示されていたというのです。しかし彼の知っている夫婦はドゥ・ソリスと名乗っていました。しかも一緒に過ごしたのはほんのわずか。記念に撮った写真を送るために、名前と住所を教えただけだ。不信感を抱くウィアー巡査部長は、クォークから詳しい話を聞き出します…。
 ウィアーとクォークのやり取りから、夫妻の異常な精神状況が明らかになります。クォークが違和感を抱いた夫婦とのやりとりは、一体どんな意味を持っていたのか? 夫妻の隠された意図が明らかになるクライマックスには驚かされるはず。交錯する人生の不思議な断片をかいま見せる、集中随一の力作。

この記事に対するコメント
ご贔屓のトゥーイ、いよいよ登場ですね!
こんばんは。
自分はトゥーイはまだ未体験ですが、風変わりな作風、不自然な方向へねじれるストーリー、妙な読後感と、これまで読んだことの無いタイプの作家のようで、正直そそられます。内容もバラエティーに富んでいるようで、「買い」の一冊なのでしょうね。早速読まなくては(笑
【2007/02/16 00:00】 URL | newt #- [ 編集]

いち押しです
個人的に(笑)待望の一冊でしたが、期待に違わぬセレクションとレベルの高さで、充実の作品集でした。
『物しか書けなかった物書き』や『階段はこわい』の面白さは知っていましたが、他の作品も、それぞれ独自の面白さがありましたね。とくに『予定変更』と『オーハイで朝食を』は、相当のハイレベル作品! まったくどこに転ぶかわからないストーリー展開は一読の価値があると思います。
短編集第二弾も期待したいところですね。
【2007/02/16 06:45】 URL | kazuou #- [ 編集]

階段はこわい
トゥーイの作品集、『支払い期日が過ぎて』まで読み終わりました。奇妙な味わいの佳品・逸品の中でも、『階段はこわい』のラストにかけての展開の妙には驚かされました。これはちょっとお目にかかれないタイプの作品ですね。何とも言えない不条理な読後感が残るのは、プロットは異なりますが、曽野綾子の『長い暗い冬』以来です。後半も傑作が目白押しのようなので、ゆっくり時間をかけて読む予定です。。。

以前掲示板でお知らせした「謎の物語(紀田順一郎編)」では、ブッツァーティの『何かがおこった』が印象に残ってます。確か本ブログでも取り上げられていた「七人の使者」では『急行列車』というタイトルだったかと思います。「ミステリーゾーン」的な世界の終末への予兆が疾走感をともなって描かれていて、面白い作品ですね。機会があればブッツァーティの他の著作も取り上げていただければと思います。
【2007/02/28 16:43】 URL | newt #- [ 編集]

>newtさん
『階段はこわい』は、やっぱり傑作だと思います。なるほど、そういえば『長い暗い冬』にも通じるものがありますね。
後半も面白いですよ。

ブッツァーティは、僕もお気に入りの作家です。カフカ風の不条理な作風でありながら、娯楽性も忘れないところが、素晴らしいと思います。
『何かがおこった』は、ほんとうに何が起こったのか全然わからない…というところがまたすごい作品ではありますね。
ブッツァーティには面白い作品がたくさんあるので、いずれ紹介したいなあとは思っております。

【2007/02/28 19:43】 URL | kazuou #- [ 編集]

オーハイで朝食を
いやー、久々に本格ミステリの短編を堪能しました。エドガー賞短編部門へのノミネートもむべなるかな、の力作ですね。
ここまで見事だと、トゥーイの真骨頂はむしろ本格ミステリなのでは、と思ってしまいます。
気負いなく生きる市井の人々の姿と、日常生活の何気ない瞬間のほんのわずかな隙間から生じる悪夢とのコントラストが巧み描かれていて、犯行に至るまでの異常な動機へ結びつく伏線の張り巡らし方といい、夕暮れのウェストコーストの風の心地良さといい、巻末を飾るにふさわしい傑作でした。
【2007/03/06 23:11】 URL | newt #- [ 編集]

異色作家の異色作
そうですね、『オーハイで朝食を』は、「異色作家」トゥーイとしては、逆に異色作とも言えそうな作品です。
この作品を読む限り、シリアスかつストレートな作品を書かせても、かなりの力量が感じられますね。作者名を伏されたら、パトリシア・ハイスミスの作品と勘違いしそうなくらいの、力強い作品でした。
【2007/03/07 19:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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