夜が明けたら  フィリップ・ハース監督『天のろくろ』
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Lathe of Heaven -天のろくろ-
ジェームズ・カーン アーシュラ・K.ル=グウィン フィリップ・ハース
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 アーシュラ・K・ル・グィンの『天のろくろ』は、夢で世界を改変してしまう能力を持った青年を描いた傑作小説。この作品を映像化したのが、同名タイトルの、フィリップ・ハース監督『天のろくろ』(2002 カナダ・アメリカ)です。
 ジョージ・オア青年は、軽犯罪で裁判を受けさせられた結果、精神科医の治療を受けることになります。悪夢に悩まされていた彼は、夢を見ずにすむように、薬を盗んだというのです。担当医となったヘイバー博士は、ジョージから驚くべきことを聞き出します。
 ジョージは、見た夢によって現実を改変することができるというのです。ただし夢の内容は自分で決めることはできません。夢を見るたびに、思いもかけぬ方向に、現実が少しづつ変わっているのだと。
 博士は、夢の内容を操作する「増幅機」を使って、ジョージを治療しようと考えますが、治療を続けるうちに、ジョージの能力に気付きはじめます。ジョージの能力を利用して、自らの富と権力を増大させようと計る博士。その意図に気付いたジョージは、弁護士ヘザーの力を借り、ヘイバーから逃げ出そうとします…。
 ストーリーや登場人物などを始め、原作をかなり忠実に映像化しています。もともと原作でも、それほど派手な展開はないだけに、この映画版もかなり地味な展開ではあります。
 現実世界の改変、というのが、この作品の見せ所なわけですが、目を引くCGやSFXは、ほとんど使われていません。というか、現実世界そのものが変容するシーンなどは、全く描かれません。ジョージが目覚めた後に、室内のインテリア、窓から見える景色、周りの人物の服装などを変えることによってのみ、現実が改変されたことを表しています。
 原作を読んでいないと、序盤は何が起こっているのか、わかりにくいかもしれませんが、慣れてくると、毎回ジョージが目覚めるたびに、ヘイバー博士や秘書の服装、性格までもが一変していく、という趣向はとても面白いです。ただ現実世界そのものがどのように変わったのか?という情報は、テレビのニュースであるとか、細かい描写などで示されるので、注意して見ていないと、気付きにくいのは確かです。疫病で人口が減った結果、電車がガラガラになるとか、人口問題の解決で居住スペースが巨大になったりするなど、なかなか芸が細かい描写になっています。
 メインストーリーに関しては、改変能力を巡っての、ジョージとヘイバー博士の対立、という点では原作と同じテーマを共有しています。ただ原作では、改変を巡っての倫理的な問題がクローズアップされていましたが、映画版では、そうした思想的な対立よりも、権力関係の対立の側面が強くなっています。あとは、ヘザーとのラブストーリー的な面も強調されています。
 全編これ、会話がやたらに多く、見た目のスペクタクルは皆無に等しいのですが、その静謐な雰囲気は、原作をうまく映像化しており、これはこれで味のある秀作ではないでしょうか。

※原作の感想はこちらです。
この記事に対するコメント
おもしろそうですね
『ゲド戦記』ではなく『天のろくろ』の映画化とは、なかなか志を感じさせますね。
ご紹介の文章を読んでも、原作を愛して丁寧に製作している印象を受けます。興行的にはどうだったのかと余計な心配をしてしまいますが。
ところで、フィリップ・K・ディック流の仮想現実ばやりの現状から見ると、古風な印象を受けませでしたか。
【2007/02/20 19:31】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

地味ではありました
原作に、非常に忠実な映画化でした。
ディック流の仮想現実映画とは、まるで正反対のベクトル!
ハリウッドの大作映画だったら、CGを使いまくりなんでしょうけど、この作品はそういう類いのシーンがまるでありませんでした。台詞の多さとも相まって、下手すると舞台劇でも見ているかのような趣でしたね。これはこれで悪くありませんが。
ただ、話の流れに乗るまでの序盤が退屈してしまう可能性もあるので、もう少し構成に工夫があるとよかったかなと思います。
【2007/02/20 21:23】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
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