人か獣か  ロバート・ストールマン〈野獣の書〉3部作
20070209205255.jpg

 狼男、あるいは人狼を扱った作品は、今となっては珍しくありませんが、ロバート・ストールマンの〈野獣の書〉3部作(『孤児』『虜囚』『野獣』宇佐川晶子訳訳 ハヤカワ文庫SF)のユニークさは群を抜いています。
 狼男に限らず、いわゆる「怪物」を扱った小説には、大きく二つのパターンがあるように思います。ひとつはあくまで「怪物」を「怪物」そのものとして描くパターン。つまりは「怪物」の内面には全く踏み込まず、ただ排除すべき敵として描くものですね。
 そしてもう一つは「怪物」の内面を描写することによって、その孤独や疎外感、精神的苦悩を描くもの。
 その分類からすると、ストールマンの作品は、後者のタイプに属します。ただ、このシリーズの独創性は、主人公である「野獣」が、人間社会に触れることによって社会性を獲得してゆくという、成長小説的な面を合わせ持っているところにあります。

1巻『孤児』 異様な姿形、凶暴な力を持ちながらも、高い知性を持つ〈野獣〉は、人間の子供に変身し、人間の間で暮らすことになります。ロバートと名乗るようになった彼は、人間として固有の人格を持ち、さらに純真な心を持っていました。気のいい農夫の夫婦のもとで暮らすロバートは、人間の心を学んでゆきます。しかし、あるとき、浮浪者による襲撃を受け、愛する家族が襲われたとき、ロバートは正体をさらしてしまいます…。
 その正体も、由来もまったく説明されない〈野獣〉とそれが変身した人間の姿、それぞれの人格が互いに分離しているという設定がユニークです。どちらかがどちらかを支配する、といった関係ではなく、まったく等価の人格として、それぞれが存在するのです。幼いロバートは、その外見に見合う純真な心を持っており、それゆえ内に秘めた〈野獣〉との葛藤をも引き起こしてしまいます。
 ただ、葛藤といっても、怪物になってしまった人間の葛藤であるとか、己の中の獣性と人間性との戦い、とかいうのとも違います。何しろ〈野獣〉は、高い知能を持っているので、本能のままに暴れるわけでもありません。そういう意味で、単純な「獣性」ととらえることもできないのです。複雑な行動をとる〈野獣〉の目的とは何なのか、多くの謎を残しながら、読者の興味をつないでいきます。

2巻『虜囚』 「野獣」は、新たな人間の人格バリー・ゴールデンに身をやつします。バリーは、かって恋したベールの妹レネイのもとに赴きますが、レネイと恋に落ちてしまいます。嫉妬に狂ったレネイの夫によって殺されかけた矢先に、「野獣」の力によって何とか窮地を切り抜けたバリーでしたが、思いがけず、農夫たちによって捕らえられてしまいます…。
 この巻では何と「野獣」が結婚してしまいます。『孤児』では少年期・青年期の心理を描いてきたのに対応するように、この巻では大人の人格を持った「野獣」が、異性と恋愛をするのです。ただ『孤児』に比べて、急ぎ過ぎの感があります。『孤児』では丹念に描かれていた心理描写ですが、この巻では、ストーリーを進める出来事の方にウェイトがかかってきた感じです。嫉妬深い夫によって誘拐された恋人を助けに向かう、という展開もかなりメロドラマチックで、通俗的な雰囲気が濃くなっています。

3巻『野獣』 自分は「野獣」の作り出した架空の存在ではないということを確信したバリーは、自らの存在理由を求めてインディアンの集落に向かいます。一方、息子を亡くし、死病にとりつかれていたジョージ・ボーモントは、リリーと名乗る若い女性に命を助けられます。
 そして新たに登場した、もう一匹の「野獣」の力によって、ジョージは病気を克服します。しかし、その直後に、リリーは姿を消してしまいます。残されたリリーの手紙には「野獣」の望みによって、姿を消すことが記されていました。二匹の「野獣」はお互いに惹かれ合っているのだろうか。ジョージとバリーの運命もまた重なり合っていきます…。
 最終巻で、ジョージ・ボーモントと、もう一匹の「野獣」が現れることによって、物語は俄然、面白くなってきます。バリーのパートよりも、ジョージのパートの方が中心になりますが、リリーとのロマンス、そして失踪したリリーを求めて旅に出る展開は王道ながら、面白さは保証つき。
 「野獣」の分身であるはずの人間が、過去に存在したことの証拠、「野獣」の力を押さえるお守りの謎など、今までの全ての謎が収束していきます。前巻まではファンタジー的な要素が強かったのですが、本巻に至って、物語の謎や設定に、SF的な解釈が与えられることによって、かなりSF色が強まっています。

 結末では、最終的な主人公の判断に違和感を覚えてしまう部分もあり、賛否両論あると思うのですが、全体を通して、整合性もうまくつけられており、完成度は高い作品です。
 三部作のそれぞれが、異なった色合いを持っている点もユニークです。1巻は少年の成長物語。2巻はアクション重視の娯楽編。3巻は思索を含んだSF、といった感じでしょうか。
 1巻の完成度がずば抜けており、これで完結してしまっても、充分評価に値したと思います。2巻以降は作品のテーマが少しずれてきてしまうような印象を覚えるものの、読んで損はないシリーズでしょう。
この記事に対するコメント

う~ん、これはまた懐かしい作品です。
1巻目の『孤児』がとても面白かったので2巻目も・・・と思ったのですが、色合いが違ってしまって途中でやめてしまいました。
3巻目でまた感じが変わるとなると、途中でやめたのは惜しいことをしたのかもしれませんね。
どこかにあるはずなので又ひっぱりだして読んでみようかしら。
【2007/02/21 16:44】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

最後は
そうなんですよね、2巻目があんまり面白くないので、僕も途中でやめようかなあ、と思ったんですが、3巻目でまた面白くなりました。1巻とはまた種類の違った面白さなんですけどね。
3巻目は、ストーリーが波瀾万丈で読ませます。いままで説明されてこなかった設定や、世界観の説明がきっちりとつけられるので、後味はいいですよ。
1巻のような流れで最後まで描いてほしかった、というのが正直なところなんですけど、これはこれで面白い作品でしたね。
【2007/02/21 18:46】 URL | kazuou #- [ 編集]


これもずいぶんと昔に読んだもので、面白かったという大雑把な記憶は残っているものの、詳しいことはすっかり忘れています。これも絶版(というか、ハヤカワの場合は単なる重版未定?)ですね。これから手に入れるならば古本です。
【2007/02/24 09:17】 URL | ハスヨス #/hWQoaK6 [ 編集]

>ハスヨスさん
そうですね、だいぶ手に入りにくくなっているみたいです。
文句なく面白いし、三部作とはいっても、分量も薄めで手ごろな感じで読めるので、埋もれさせておくには、もったいない作品だと思います。
【2007/02/24 19:55】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/199-b2bd8d18
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する