消えない不貞  埋もれた短編発掘その5
 ずっと愛し合っていると思っていた。そんな思いが裏切られたとき、夫が取った行動とは? 今回ご紹介するのは、C・B・ギルフォード『ラブレター』(丸本総明訳 早川書房 ミステリマガジン1966年11月号所収)です。
 ある朝ふと思い立って、アルバムを探しに屋根裏にきたマットは、思いがけないものを発見します。よりにもよって、記念すべき結婚記念日の今日、その祝福を台無しにするもの。それは、妻エリザベス宛の手紙でした。そしてその内容は、ラブレター! 疑いをはさむ余地はありません。

 ショックは、電気に打たれたように急激なものではなく、殆んど気づかないほどゆっくりと、這うようにしのびこんで来た。かれは、古ぼけたトランクの上に腰をおろし、というよりはくずれ落ちた。

 祝いの言葉をいいかけたエリザベスは、マットの手にあるものを見て固まります。問題の手紙はポール・ハモンドから来たものでした。ポール・ハモンドが現れたのは、二人が結婚してまだ半年のころ。ポールが妻に惹かれているのにマットは気づいていましたが、彼はむしろ他の男が妻に参っていることを得意にしていたのでした。しかし、今となってはただ裏切られたという気持ちがあるばかりです。
 マットはエリザベスを詰問し、彼女の裏切りを責めます。

 「おれたちはここで一緒に暮らしてきた。この同じ部屋の下で寝て来た。おれは幸福だった。しかし、きみは-」
 「わたしだって幸福よ、マット」
 「きみはほかの男を愛していたんだ」


 マットはいつかエリザベスがベッドルームの鍵をしめ、彼を入れなかったことがあるのを思い出します。そうだ、あれはいつ起こったろうか? ポール・ハモンドが現れた頃と一致する。マットは確信を深めつつ、エリザベスを問いただします。エリザベスはハモンドとの情事を認めますが、それはもう終わったことだと抗弁します。愛しているのはあなただけだと。しかしマットは信じられません。

 彼女は嘘をついている。もちろんそうに違いない。わざわざこの二階へやって来て、この嘘を考え出したのだ。もしハモンドを愛していなかったとしたら、何故あんな手紙を取っておくことがあろうか。

 そしてポールの取った行動とはいったい何でしょうか…?
 陳腐な三角関係のストーリーかと思いきや、この作品、実はとんでもないトリックが仕掛けられています。オチを割るので詳しく言えないのですが、作品の語り自体に思わぬ仕掛けがあるのです。絶対に映像化不可能な文章ならではのテクニックなのです。登場人物の外見描写がされない、というところにミスディレクションが存在する、とだけ言っておきましょう。そしてその真相が判明したとき、この陳腐な夫婦愛のもつれ話が、まったく異なる様相をもって迫ってくるのです。人間の執着の強さを描いた、技巧的な小品です。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

お疲れ様です。C・B・ギルフォードはヒッチコックマガジンの看板作家の一人でもあるし、とても好きな作家です。典型的な「職人作家」のイメージがあります。でも作品が短編ばかりだし、シリーズキャラクターもいないせいか、日本ではまとまった短編集が出ていないですよね。個人的には「探偵作家は天国へ行ける」(早川書房 「世界ミステリ全集18 37の短編」収録」)なども好きなんですが。
【2006/02/20 20:58】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]


「探偵作家は天国へ行ける」は、僕も好きです。ギルフォードは、やっぱり職人作家で、やたらと短編がうまいですよね。ジャック・リッチーなんかが最近うけているのを見ると、ギルフォードの短編集なんか出したら、結構評判になるんじゃないかと思うんですが。
 とはいえ、何かおもだった作品を挙げろと言われたら、全然思い出せないですね。面白かったという覚えがあるだけで、あんまり思い浮かびません。やっぱり「探偵作家は天国へ行ける」ぐらいですねえ。
【2006/02/20 21:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


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