紳士的サバイバル  リチャード・ハーレイ『流刑地サートからの脱出』
流刑地サートからの脱出
リチャード ハーレイ 吉浦 澄子
4102303014

 極限状況に置かれた人間たちが、獣性をむき出しにしたり、醜い争いが展開される、というタイプの物語があります。しかし、同じようなテーマを扱っていながら、イギリス作家リチャード・ハーレイの作品『流刑地サートからの脱出』(吉浦澄子訳 新潮文庫)は、ひと味違います。この作品においては、登場人物たちは節度を保ちつつ、争うのです。
 近未来のイギリス、犯罪者の増加で刑務所の収容能力がパンクした結果、政府は、孤島に流刑地を作ります。矯正不能と判断された男たちが送られるこの島は「サート」と呼ばれていました。無実の罪でとらえられたラウトリッジは、サートに送り込まれてしまいます。まわりを海と監視に囲まれた島サートには、無法者のグループと秩序を打ち立てようとする二つのグループがありました。
 「ファーザー」と呼ばれるカリスマ指導者に率いられるグループに加わったラウトリッジは、生き残りをかけた厳しい生活を強いられます。一時は、自尊心や自信を失ったラウトリッジでしたが、サートでの生活を通して、新たな生存意欲を見い出していきます…。
 近未来といっても、ハイテクや高度な技術が出てくるわけではありません。あくまで島での、ある種、原始的なサバイバル生活を描いています。とはいっても、全体的に、主人公の精神的な成長の描写に多くを費やしており、サバイバルや戦いの描写自体はそんなに多くありません。
 すべてを失い、島に放り出された主人公が、ときには殺人や汚い手段を使うことを余儀なくされながらも、道徳的に堕落するわけではないところに、この作品の良さがあります。あくまで人間としての品位を失いません。たとえば、共同体内で禁止されている同性愛を発見した主人公は、密告すべきかどうか悩むのですが、自分を手助けしてくれた恩を思い出し、密告を思いとどまります。他の囚人たちも、かなりの重罪を犯して、島に来たはずなのですが、それなりの人間性や思いやりを持っているのです。
 もちろん、敵となる無法者のグループの人間たちは、利己心むき出しで、暴力衝動にあふれています。新たに送り込まれた囚人を強姦したり、殺したりします。その中でも「ファーザー」の対極というべき存在が、マーティンソンという男。超人的な戦闘力を持ち、人々から恐れられています。しかも、権力欲や物欲をあまり持たないところが、特徴的です。ただ「ファーザー」に対して異様な執着を持っているのです。
 当然の流れというべきか、最終的には、二つのグループ間に戦闘がおきます。このクライマックスでは、たっぷりとした戦闘シーンがあるかと思いきや、あっけなく終わってしまうところもまたユニークです。ここまでサスペンスを高めてきたのだから、もうちょっと戦いの描写を増やしてもいいとは思うのですが、不思議と物足りなさは感じません。
 題材のわりに、暴力描写がかなり少ないというのもありますが、作品全体を通して、暴力的な生臭さはあまり感じられないのです。これが、イギリス作家の筆になるからなのでしょうか。過酷な状況におかれた人間の成長物語として、なかなかの佳作です。後味が非常によいので、暴力描写が苦手な読者にも、お勧めしたい作品です。
この記事に対するコメント

昔読みました。
好きです。

絶版ですね…
翻訳ものって、下手にお薦めできない悲しさがありますよね。
【2007/02/10 00:48】 URL | ハスヨス #/hWQoaK6 [ 編集]

たしかに
あんまり話題にならずに、いつの間にか絶版…だったと思うのですが、捨てがたい味のある作品ですよね。
アメリカものみたいに、暴力の吹き荒れる殺伐とした感じにならないところが、なかなかよかったです。

そうそう、翻訳ものは、いつの間にか絶版になってることが多いので、安易に勧められなかったりしますね(僕の場合はしちゃってますが(笑)。)
最近では「あの巨匠の作品までが絶版!」と驚くこともあったりしますし。
【2007/02/10 07:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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