自分を捕まえろ!  ケネス・フィアリング『大時計』
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大時計 (1954年)
長谷川 修二
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 イギリスの詩人ケネス・フィアリングによるサスペンス小説『大時計』(長谷川修二訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)は、かって江戸川乱歩が褒めていたことでも知られる作品です。乱歩作品の連想から、大時計の内部に閉じ込められる男の脱出劇のようなものを想像しがちですが、実際はまったく違います。ここでいう「大時計」とは、物理的なそれではなく、比喩的なもの。つまりは巨大な管理組織のたとえになっています。
 巨大企業ジャノス社に勤めるジョージ・ストラウドは、既婚の身ながら、社長であるジャノスの愛人、ポーリン・ディロスと深い仲になります。あるとき密会の直後に、ポーリンの部屋にジャノスが入っていくのを、ジョージは目撃します。そして、その直後にポーリンが殺されたことを知るのです。ジョージは、ジャノスが殺人犯であることを確信します。
 ところがジャノスは、ポーリンと愛人関係にあった男が殺人犯だとし、なんとジョージにその男の捜索指揮を任せようというのです。しかも社長の片腕ヘーゲンは、会社存続のため、その男を見つけ次第、殺すつもりなのです。警察に訴えれば、妻に浮気がばれて家庭は崩壊してしまう。窮地に立たされたジョージは、事実が発覚しないようにうまく捜査の方向をそらそうとするのですが…。
 非常に上手くできた設定です。社長から命じられた人探し、それは自分自身なのですが、それを探しあててしまえば、殺されてしまいます。かといって、警察にかけこめば、家庭崩壊は免れないのです。二重の罠に挟まれて、どう事態を打開するのか、というサスペンスが見せ場になっています。
 特筆すべきは、この主人公ジョージが、鉄面皮で、気障で、自己中心的な男であるところでしょうか。捜査状況を社長に報告するときも、顔色も変えずに報告する面の皮の厚さ。社長の愛人に手を出す時点で、あまり後先を考えていない軽薄な男であることもわかります。ポーリンが殺される原因も、間接的には、ジョージのせいなのです。
 主人公が、あまりに不快な性格のため、感情移入しにくいところが難点です。主人公がピンチに陥っても、自業自得に見えてしまうのです(実際そうなのですが)。もう少し主人公が、読者に好感を持たれるような性格に描かれていたら、もっとのめりこめたのでは、というのが正直なところです。
 ストーリー上の欠点もかなり目立ちます。社長から捜査を命じられた時点で、断ってしまえばいいのではないか、というのがまず思い浮かびますし、その他もろもろの穴もあります。あと事件の解決にも、不満が残ります。主人公が事態を打開する、というよりは事態の方が勝手に収束してしまう、といった趣なのです。
 いろいろ欠点はありますが、奇抜な設定と歪んだ人間描写は冴えており、ひねくれたサスペンスとして、一読の価値はある珍品でしょう。
 なお、未見なのですが、この作品は、ケビン・コスナー主演、ロジャー・ドナルドソン監督『追いつめられて』として映画化されています。
この記事に対するコメント


以前 コメントをさせていただいたかもしれません。もう忘れてしまったので、この名前で
コメントさせていただきます。

「大時計」はケヴィン・コスナー主演のもの以前に映画化されています。
原作発表直後の1940年代です。

主人公役はレイ・ミランドで、社長は名優 チャールス・ロートン、へーゲンはジョージ・マク
レディ、ミランドの妻はモーリン・オサリヴァンでした。彼女はこの映画の監督、ジョン・ファローの妻で、すなわちミア・ファローの母親です。

コスナー版は駄作ですが、この初作は面白いです。
テレビ放映されたこともあります。
【2007/10/12 22:52】 URL | フランク・二ティ #jg3SrIu2 [ 編集]

>フランク・二ティさん
フランク・二ティさん、コメントありがとうございます。

『追いつめられて』以前に映画化作品があったとは、初耳です。
機会があれば、ぜひ見てみたいですね。貴重な情報ありがとうございました。
【2007/10/13 07:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんばんは。
ケビン・コスナー版はたしか、愛人がショーン・ヤングだったような(レプリカントのレイチェル)、で、無用なオチ付きだったです。

フィアリングは「孤独な娘」という不思議なミステリ(?)を書いています。ポケミスですが、よんだんですが訳が分からないというのが正直な感想です。
【2007/10/14 01:23】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ケビン・コスナー版は、あんまり評判よくないですね…。
原作も、アイディアはすごくいいんですけど、あんまりカタルシスがない作品なんですよね。ミステリプロバーの作家じゃないせいもあるんだろうけど、ミステリとしての体裁を整えようという意識が薄いように思います。
「孤独な娘」もちょっと読んでみたい作品ですね。
【2007/10/14 07:58】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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