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血の三角関係  タニス・リー『黄金の魔獣』
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 タニス・リーの長篇『黄金の魔獣』(木村由利子訳 ハヤカワ文庫FT)は、人狼になってしまった青年が殺戮を繰り返しながら運命の女に出会うという、ホラー・ファンタジー作品です。

 東方の国で「狼」と呼ばれるダイヤモンドを手にした瞬間から、美貌の青年ダニエルは満月が昇るたびに狼のような怪物に変身し、殺戮を繰り返すことになります。故郷に帰還したダニエルはそこで赤毛の美しい女性ローラと出会い惹かれることになりますが、彼女はすでに地元の名士ハイペリオン・ワースと結婚していました…。

 ダイヤモンドの魔力により人狼になってしまった青年が、運命的にある女性と出会い恋に落ちますが、彼女にはすでに夫がおり、不思議な三角関係が生まれる…という作品です。本の紹介文には「ロマンティック・ホラー」とありますが、ロマンティックどころではないですね。というのも、この作品、全体的に血と暴力の香りが強烈なのです。
 人狼になってしまったダニエルは、完全に獣に支配されており、全く人間との会話や意思の疎通ができません。目に入った人間を皆殺しにしてしまうのです。乗り込んだ船の乗員を皆殺しにしてしまい、そのために遭難する…というシーンもあるほど。
 ダニエルには獣だった時の記憶もないのですが、自分が人を殺したということだけは段々と理解するようになります。しかも殺戮を続けているうちにそれに対する罪の意識などもなくなっているようで、後半では素の状態で横暴かつ危険な人物となっています。
 運命の美女ローラとの出会いも、どこかダイヤモンドや魔術的な力によるもののような節があり、そこには二人の自由恋愛というよりは強制的な力を感じてしまいますね。

 一方ローラの夫ハイペリオンは、貴族的な伊達男で繊細な神経を持つ人物として描かれており、本来の主人公であるダニエルより魅力的な人物に見えます。さらにダニエルはローラに惹かれるだけでなく、ハイペリオンとも奇妙な友情というか愛情のようなものを感じている、というのも異色です。
 もともと悲劇的な結末が予感されており、実際そうした結末を迎えることにはなります。暴力と死に満ちたダニエルが人間的な幸福を手に入れることはできないだろうと予想する通りではあって、その意味では結末には説得力がありますね。
 血と暴力、死に満ちたファンタジーであるのですが、そこには奇妙な美しさがあるのもタニス・リー作品ならではでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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