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呪われた世界  谷口裕貴『アナベル・アノマリー 』
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 谷口裕貴『アナベル・アノマリー 』(徳間文庫)は、超能力者の少女の呪いの蔓延した世界を舞台にした、SFホラー作品です。

 超能力者(サイキック)を生み出す研究の結果、生まれた少女アナベルは規格外の超能力者でした。人間を含む物質を変容させてしまうその力は、世界を滅ぼす可能性があるとされ、研究員たちによって殺害されてしまいます。生き残った人々は、死亡した研究員の名にちなむ組織「ジェイコブス」を結成します。
 死んだはずのアナベルでしたが、その後も世界各地に現れ、破壊をもたらしていました。しかしその後も、縁のある場所や物を通じてアナベルが顕現し、破壊をもたらす異常事態(アノマリー)が多発していました。どうやら生前アナベルが愛したものを依り代にしてアナベルが顕現するらしいのです。彼女が愛した一二種類のものは「アナベル・アナロジー」としてアナベルを呼び出すきっかけとなるとされ、恐れられ、禁忌とされていました。
 「ジェイコブス」に属するサイキックの一人である「わたし」は、アナベルの顕現によって被害の出たオーストラリアの都市ダーウィン場所に向かい、その原因を探ることになりますが…。

 強大な力を持つ超能力者の少女が死後も「呪い」となって顕現を続け、世界に災いをまき散らす世界を舞台にしたSFホラー作品です。アナベルは人間や物質など、周囲の事物を変容させてしまう能力者。その変容はランダムのようで、その能力に当てられた人間は生きていることさえできないのです。その力を恐れられて殺害されてしまいますが、死後もその力は残り、依り代を媒介に顕現を続けていました。
 一方、アナベルの脅威に対抗する組織「ジェイコブス」はサイキックを多数要する強力な組織。特に強力な六人の能力者たちが群体となって構成された「Six」は、組織の秘密兵器的な存在で、アナベルの力に対抗できるだけの力を持っているのですが、彼らの戦いの後は都市が壊滅し、人々も皆殺しにされてしまうなど、アナベル単体によるものにも劣らない膨大な被害が出てしまうのです。
 世界ではアナベルだけでなく、「ジェイコブス」自体も恐れられている…という非常にハードな世界観です。

 現在時間で「アナベル・アノマリー」に襲われている世界が描かれますが、その「災害」がどのようにして起きるようになったのか、「ジェイコブス」が何を行ってきたのか、など、過去の謎が段々と明らかになっていく過程は非常にスリリング。
 アナベルが顕現する依り代となる「アナベル・アナロジー」も面白い概念です。品物だけでなく、事物や概念なども含めて、アナベルが愛したものがアナベル自身を呼んでしまうため、人々はそうした事物を廃棄して禁忌としている…というのです。

 「ジェイコブス」はアナベルの駆逐を目的としているかと思いきや、単純にそういうわけでもないらしく、組織内での政治的な暗躍や駆け引きなどが描かれていくなど、スパイ小説的な味わいもありますね。
 アナベルの顕現による被害は「災害」といえるのですが、そこに巻き込まれたらほとんど助からないのです。その力はほとんど「世界改変」に近く、何が起きるか分からない、という意味での不条理な怖さがあります。

 四篇の連作となっていますが、2000年代初頭に発表された「獣のヴィーナス」「魔女のピエタ」に加えて、20年後に書かれた「姉妹のカノン」「左腕のピルグリム」が加えられた形で構成されています。
アナベル顕現の影に、彼女と縁のあった人間の人生が現れるという異色のヒューマン・ストーリー「獣のヴィーナス」、「ジェイコブス」が要するサイキックたちの誕生秘話ともいえる異形の魔女の物語「魔女のピエタ」、過去に潜り事実を改変する能力者の姉妹をめぐる「姉妹のカノン」、アナベルに対抗できる新たな能力者の暴走と最期を語る「左腕のピルグリム」と、それぞれの面白さがありますが、やはり最初の二篇「獣のヴィーナス」「魔女のピエタ」の情報量が凄まじく、短篇とは思えないほどの密度があります。まだ世界観がつかめていないうちに読み進んでいくと、次々と新事実が明らかになっていき、驚かされること間違いなしです。

 SF作品の枠で書かれていますが、ホラー味も非常に強いです。超能力や超能力者が「災害」「脅威」と捉えられる独自の世界観が魅力ですね。描写も独特で、アナベルの力によって世界が変容するシーンはどこかサイケデリック、超能力者同士の戦いのシーンはスケール感も大きいです。新感覚の味わいのホラー小説として楽しめる作品だと思います。


テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

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twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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