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恐怖の航跡  マッツ・ストランベリ『ブラッド・クルーズ』
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 スウェーデンの作家マッツ・ストランベリの長篇『ブラッド・クルーズ』(北綾子訳 ハヤカワ文庫NV)は、吸血鬼の入り込んだクルーズ船で、感染パニックが惹き起こされるというホラー作品です。

 スウェーデンとフィンランドを往復する豪華クルーズ船バルティック・カリスマ号。しかし老朽化の進んだ船に乗る客たちは、ほとんどが酒と一夜の出会いを求めている人間ばかりでした。
 今宵の乗客は千二百人。その中には吸血鬼の母親と息子が紛れ込んでいました。息子は飢えに耐えかね、船内の男を襲いますが、その男を通して船内に感染が次々と広まってしまいます…。

 海上を航行する大型クルーズ船内で、吸血鬼による感染パニックが起こる…というバイオレンス風味強めのホラー作品です。
 特定の決まった主人公はなく、船内にいる客や船員など一部の人間たちがクローズアップされて描かれていくという群像劇的な構成を取っています。
 前半はそんな人々の様子がじっくりと描かれていくのですが、この人間ドラマ部分が非常に面白いのです。精神に病を抱えた父と車椅子の母に育てられたヴェトナムからの養子の少年、元乗員でパートナーの男性にプロポーズする予定のゲイの男性、カラオケバーのホストを務める凋落した歌手、一夜のロマンスを求めて乗り込んだ中年女性たちなど、多様な人物の人生が描かれていきますが、多くはその人生に問題を抱えています。

 中盤から、紛れ込んだ吸血鬼により感染が進みパニックが起こることになります。吸血鬼に噛まれると吸血鬼になるのですが、知性のない獣のようになってしまう(ほとんどゾンビ状態です)者のほか、一部は知性を保ったまま兇暴な性格になる者もいるという具合。誰が吸血鬼になり、誰が生き残るのか? といったところでサスペンスも強烈です。吸血鬼になった者の行為は非常に残酷で、その描写はスプラッターたっぷり。かなりグロテスクな描写も多いので、このあたりが苦手な人は要注意です。
 両親との問題を抱える養子の少年アルビンといとこのルー、元乗員のカッレとそのボーイフレンドであるヴィンセント、孤独な老婦人マリアンヌ、女友達同士のマッデとザンドラ、バーテンダーでカッレの友人フィリップと同僚マリソル、女性警備員ピア、カラオケ・バーのホストであるダン、などが中心に描かれていきますが、アルビンたちが母親に再会できるのか、引き裂かれたカッレとヴィンセントが再会できるのか、といった部分も読みどころです。

 船内に充満した、ほぼ知性のない吸血鬼のほか、知性を保ったまま吸血鬼になった者や、そもそもの元凶である吸血鬼の親子など、危険極まりない状況のなか、あちこちで別れ別れになった人間たちがグループを作り、吸血鬼から生き延びようとすることになります。非常に緊迫感があって怖いホラーとなっていますね。
 前半、パニックが起こる前の人々の人物描写が結構長いのですが、この部分が後半生きてくることになります。パニックが始まってからは展開が早く、そのアクションとバイオレンス描写の上手さも相まって、止められない面白さがあります。パニック・ホラーの秀作でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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