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死者と使者  マネル・ロウレイロ『生贄の門』
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 スペインの作家マネル・ロウレイロの長篇『生贄の門』(宮﨑真紀訳 新潮文庫)は、山頂に残る古代遺跡で発生する謎の連続殺人をめぐる、オカルト・ホラー・サスペンス作品です。

 捜査官ラケルの息子フリアンは、悪性脳腫瘍に侵され、手の施しようがないと診断されてしまいます。癌患者を何人も治したという定評のあるヒーラー、ラモーナ・バロンゴに一縷の願いを託そうと、彼女が住むガリシア地方の小村の近くに転属を願い出ることになります。しかし現地に着くと、ラモーナは姿を消していました。
 折しも、山頂に残る古代遺跡で若い女性の死体が発見され、目撃者の男性も殺害されてしまいます。 ラケルは、相棒となったフアンと共に事件を調べているうちに、殺された女性がラモーナの治療で回復した患者の一人であったらしいこと、さらに、山頂での儀式的な殺人は、過去に定期的に何度も起きているらしいことを知りますが…。

 スペインの僻地の山頂、古代遺跡の絡む殺人をめぐって展開されるオカルト風味の強いホラー・サスペンス作品です。
 殺された女性は心臓を抉りだされており、そこには儀礼的な何かがありました。しかも殺人は定期的に行われているらしく、そこにカルト的な集団が関わっているのではないか、ということが取り沙汰されていきます。
 さらに殺された女性が、ヒーラーであるラモーナの患者だったこと、ラモーナ自身が失踪していることから、事件にラモーナも関わっているらしいことが分かります。
 息子の命のタイムリミットが迫っており、その命もラモーナを見つけることにかかっているため、主人公ラケルが殺人事件の捜査に必死になっていく、というのには説得力がありますね。

 殺人の現場となった遺跡は、現地の言葉で「生贄の門」と呼ばれており、文字通り供犠が行われていたことが示唆されます。その門を通して死者がこの世界に出入りしている可能性も取りざたされ、実際にラケルやフリアンもその姿を目撃することになります。
 フリアンは脳腫瘍による影響から幻覚を見る可能性があり、ラケルもまたその精神的ストレスからありもしないものを見ている可能性もありと、超自然的な現象が本当に起こっているのか、そうでないのかが分からない、というあたり非常に上手いですね。
 殺人を行っているカルト集団は何を目的としているのか? 死者たちは本当に存在するのか? ラモーナの力は本物なのか? 超自然的な部分での疑問がはっきりしないまま物語が展開していくため、息子フリアンの命を助けるという、主人公ラケルの最大の目的が叶うのか、というところでハラハラドキドキ感もたっぷりです。
 また、飽くまで個人レベルの物語だと思っていたそれが、人類スケールに拡大されてしまうクライマックスには驚きもあります。

 ラケル(女性です)の相棒となる警官フアンが心優しい巨漢で、ラケルとの間に仄かな恋愛感情も芽生える…という部分も良いですね。後半にはアクションシーンも多く展開され、エンターテインメントとして読み応えがあります。
 作者のロウレイロ、ホラーやSFのファンらしく、そうしたジャンルの作品名が言及されるのもファンには楽しいです。
 いわゆる田舎の僻地が舞台になっているだけに、温厚で善人に見えた人々が、とんでもない因習の虜になっていた…というホラー特有の形にも見えるのですが、その因習に「合理的な理由」があった…というのも面白いですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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