宇宙でいちばん孤独なひとへ  シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』
4309621821不思議のひと触れ
シオドア・スタージョン 大森 望
河出書房新社 2003-12-22

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 今回は、近年、再評価の著しい異色作家、シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(大森望編 河出書房新社)です。どの作品をとっても、異様な発想、破天荒な設定、常識はずれの論理展開が見られます。こう言うと難解でつまらなそうに見えるかもしれません。そういう点で、単純に面白いと言えない作品があるのも確かです。しかし読んでみればわかりますが、彼の作品にはどこか人の胸を打つものがあります。とっつきにくい作品の衣を一皮はげば、そこにあるのは「愛」です。そう、スタージョンの小説は「愛」を描く作品なのです。
 それでは、おもだった作品の紹介を。『もうひとりのシーリア』は、病的な好奇心を持つ青年が体験する奇怪な出来事を描いています。読み終えた後も何を言いたかったのかよくわからないという、唖然とするような作品。『裏庭の神様』は、底抜けに楽しいファンタジー。あとは、人魚に恋をした男女の恋物語『不思議のひと触れ』などが面白いです。人魚をテーマにしながら、人魚自身は全く登場しないという、技巧的な作品。
 しかし、ストレートにスタージョンの「愛」が表現された作品としては、『雷と薔薇』『孤独の円盤』が挙げられるでしょう。
 『雷と薔薇』は、敵国から核攻撃を受け、死滅しつつあるアメリカが舞台。放射能の被害と、それに劣らぬ絶望感が支配する世界で、人々は次々に死につつあります。軍の基地に勤務するピート・モーザーは、自分たちを攻撃した敵国に非常な憎しみを抱いていますが、ある時、偶然に、自分たちの基地に秘密裏に作られた、核攻撃の装置を発見するのです。
 そこにかっての人気歌手スター・アンシムが巡業に現れます。スターは皆に呼びかけます。私たちはいずれ必ず死ぬでしょう。この国にはまだ敵国を滅ぼすだけの核兵器があります、しかし報復攻撃をしてはいけない、放射能はいずれ敵国にも蔓延するでしょうが、こちらが攻撃をしなければ、少なくとも彼らには生き残る可能性がある、彼らに未来をたくしましょう、と。メッセージを伝え終えたスターは、力つきて死にます。ピートは憎しみを押さえてスターの遺言に従うことにするのですが…。
 自分たちを攻撃した敵に未来を託す、という受け入れがたい提案を、ピートは迫られます。スターの命をかけた説得に、ピートは心を動かされるのです。人類愛とヒューマニズムにあふれる、万人に訴える可能性を持った作品です。
 そしてこの集のハイライトともいうべき作品が、『孤独の円盤』です。
 月光が降り注ぐ海辺で、語り手の「ぼく」は、入水自殺をしようとした女を助け出しますが、なぜか女は自分を助けたことを責めます。泣き出した女に「ぼく」は、理由を話してくれと頼みます。女の語ったのは次のような話でした。
 十七歳のある日、女は町中で突然、不思議な出来事に遭遇します。

 女は空をあおいだ。頭の上に円盤が浮かんでいた。
 美しかった。金色で、表面はちょっと粉を吹いたような仕上げがほどこされており、それがまだ熟していない青黒い大粒のコンコード葡萄の実を思わせた。


 円盤は思いの外、小さいものでした。女の両手でつかめるほどの大きさ。周りの人々が息をつめて見守るなか、落下してきた円盤は女のひたいにぶつかり、そのまま動かなくなりました。その直後、女の前にFBIの人間が現れます。円盤から何らかのメッセージを受け取ったと考えた彼らは、それを聞き出そうとしたのです。しかし女は決して話そうとしません。

 そしてある日、女は自分が円盤についての話をしない理由は、あれが自分のところに来たからにほかならない、と口にした。「だって、円盤はわたしにだけ話しかけたのだから、ほかの人にはなんの関係もないのよ」

 しびれをきらした彼らは、女を刑務所に入れますが、事態が全く変わらないのを見て、女を釈放します。しかしその後も円盤のメッセージを聞き出そうとする人間は後を絶ちません。
 女は海辺の町に移り、ある行為を始めます。瓶に手紙を入れて、海に投げ込み始めたのです。三年間その行為を続けた後、絶望した彼女は、自殺を図ったのです。
 そう語る女に対し「ぼく」は、あることを話し出します。そしてそれは女を救うことになるのです。「ぼく」は一体何者なのでしょうか? 女が瓶につめた手紙とは? そして円盤が彼女に伝えたメッセージの内容とは?
 作品全編を通して、固有名詞がいっさい使われません。主要人物は「ぼく」と女のたった二人。しかし、その人物像は強烈な輝きを放っています。そして、円盤というあまりにもSF的なガジェットが、ここでは人間愛をうたい上げるための重要なモチーフとして使われているのです。結末の一文にあなたは、胸の震えを押さえることができないはずです。絶望的なまでの孤独への恐れ、悲しいまでの愛への渇望。スタージョンの魂の叫びが如実に表れた、まさに奇跡的な傑作。世界中の孤独な人へ捧げる最高の贈り物です。
 本書は、どれを取ってもはずれのない、素晴らしい作品集です。これを読んでまず後悔する人はいないだろうと断言できます。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

おや、帯にあざとくもブラッドベリ!これは読まないと。創元推理文庫の『ゆるやかな彫刻』もじ~んとくるものばかりでしたね。
【2006/02/19 22:14】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


迷跡さん、こんにちは。
そうですね、ブラッドベリです。個人的には、むしろブラッドベリの本にスタージョンのコメントを載せてもいいぐらいではないかと、思ってます。
『ゆるやかな彫刻』は、初読のときは、ぴんとこないものが多かったのですが、再読したらやはりじわじわと効いてくる作品集でした。
【2006/02/20 08:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんばんわ。『不思議のひと触れ』はすごく好きです。『タンディの物語』の続編が読みたかったです。
奇想コレクションのなかではテリー・ビッスンの『ふたりジャネット』のなんとも言えない雰囲気が気に入っています。
【2006/02/20 21:53】 URL | てん一 #- [ 編集]


てん一さん、こんばんわ。
『不思議のひと触れ』は、素晴らしく良質の作品集だと思います。これ出版されたばかりのときに、すぐ買って読んだんですけど、レビューをするために再読しました。でも初読のときと同じくらい感銘を受けました。というわけで、紹介文にも熱がこもりすぎてしまったかなと、反省しております。
『ふたりジャネット』もいいですね。『熊が火を発見する』で、もうしょっぱなから打ちのめされましたよ。
【2006/02/20 22:05】 URL | kazuou #- [ 編集]

本日読了
なるほど確かに”愛”でした。このコレクションの編者が表題として”A Touch of Strange"を採用しているのは同じ思いでしょうか。私はというと全編を貫くものは”孤独”かと感じましたが、愛と孤独は表裏ですものね。
『タンディの物語』、私はおおらかな次女が可愛いかったです。また、『雷と薔薇』の作中歌はハインライン作中の詩篇”地球の緑の丘”と並ぶ傑作です。
【2006/03/24 22:17】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


おお、読了されましたか。スタージョンの作品集がいくつか並んだ今現在から見ると、この作品集は、かなりロマンチックな路線で編集されてますよね。晶文社から出た『海を失った男』あたりとくらべると、かなり甘口に感じられます。もっとも僕としてはそちらの方が好みなんですが。
たしかにテーマは「孤独」でもありますね。「孤独」ゆえの「愛」ということでもありましょうか。『雷と薔薇』の作中歌は、実際にメロディーが作られたそうですが、聞いてみたいものですね。
【2006/03/25 08:21】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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