fc2ブログ
隠されたもの  ライリ―・セイガ―『すべてのドアを鎖せ』
subetenodoawotozase.jpg
 ライリ―・セイガ―の長篇『すべてのドアを鎖せ』(鈴木恵訳 集英社文庫)は、仕事として高級アパートの一室に住むことになった女性の恐怖を描いた、ホラーサスペンス作品です。

 仕事も恋人も失ったジュールズは、身寄りもなく、親友のクロエのもとに身を寄せていましたが、マンハッタンにある歴史ある高級アパートメント<バーソロミュー>の求人広告を見かけて応募することになります。その仕事とは、短期間、アパートの部屋に住むだけで高額の報酬がもらえるというものでした。
 クロエは怪しいとたしなめますが、生活上の必要と、また<バーソロミュー>への憧れから、仕事を受けることになります。
 ジュールズには、行方不明になっている姉ジェインがいました。姉妹は子どものころ『夢見る心』というベストセラー小説を愛読しており、そこに登場する<バーソロミュー>に憧れを抱いていたのです。
 ジュールズは同じアパートメント番として勤めている女性イングリッドと友人になりますが、直後にイングリッドは何も言わずに姿を消してしまいます。
 アパートのスタッフ管理者レスリーは、イングリッドは自分の意志で姿を消したと言い張りますが、ジュールズは信じられません。何が起こったのか、アパートの関係者たちから事実を探り出そうとしますが…。

 伝統ある高級アパートメントで失踪事件が発生しますが、住人も関係者たちも事件などないかのように振る舞います。彼らは何かを隠していると考えた主人公は、事実を探ろうとする…というホラーサスペンス作品です。

 都会に建つ伝統ある古い高級アパートメント、何かを隠しているらしい住人たちと背後で展開する陰謀…。アイラ・レヴィンの名作ホラー小説『ローズマリーの赤ちゃん』を彷彿とさせる舞台設定なのですが、解説によると、そもそも本作は『ローズマリーの赤ちゃん』の現代的な変奏として構想されているそうなのです。
 実際、献辞はアイラ・レヴィンに捧げられており、物語も『ローズマリーの赤ちゃん』をなぞるかのように進むのですが、そこには現代的なアレンジがいろいろと施されています。
 友人となった女性が失踪し、過去には他にも失踪者がいるらしいこと。アパートの過去には自殺事件や、悪魔崇拝的な行動をした人間がいることも示唆されます。
 アパートに住む条件も厳しく、行動が異様に制限されており、明らかに怪しいのは間違いないのですが、主人公ジュールズが身寄りも家も仕事も失っているため、出て行くことができない、という設定は上手いですね。
 さらに、姉ジェインが過去に失踪したことが語られており、その後悔からも友人イングリッドの行方を探すことに執着してしまい、それがゆえに陰謀のど真ん中に踏み込んでしまうことにもなります。

 明らかに怪しい管理人レスリーを別としても、アパートの住人たちも、誰が味方で誰が敵なのかが全く分からないため、主人公の行動に常にハラハラドキドキ感がつきまといます。
 背後で何かが起きているらしいことは分かるものの、それが何なのか、またそれが超自然的な事態なのかどうか、といったことも後半まで全く明かされないため、非常に不条理味の強いスリラーとなっていますね。
 物語は現在時間でアパートを脱出したジュールズのパートと、そこから遡って過去に起こった出来事を描くパートが並行して語られていくことになります。
 ジュールズが現在時間で重傷を負っていることが明かされ、彼女にいったい何が起こったのか? という部分でも興味を引っ張りますね。

 現代のゴシック小説ともいうべき作品なのですが、現代が舞台であるだけに、携帯電話やネットなどを駆使するシーンもあり、モダンな装いが施されています。
物語の構造自体は意外にシンプルで、主人公が陰謀の真相を探り、生きてアパートから脱出できるのか? というものです。主人公が脱出できたことは最初の方に分かってしまうのですが、その部分を含めての意外性も用意されています。
 ホラーサスペンス、あるいはゴシック・スリラーの秀作でしょう。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

これ、一気読みしてしまいました。
「行き場がない」時に、高給&快適な住居ってのは誘惑ですよね・・・
【2023/12/10 21:20】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
面白かったですね。「経済的」に逃げられない…という設定は上手いなと思いました。
【2023/12/11 20:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1796-0b025935
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する