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死を超えた絆  メアリー・ダウニング・ハーン『いまにヘレンがくる』
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 メアリー・ダウニング・ハーンの長篇『いまにヘレンがくる』(もりうちすみこ訳 偕成社)は、霊に憑かれた義理の妹と、それを救おうと奔走する姉が描かれるホラー作品です。

 母がデイヴと再婚したことによって、義父の連れ子ヘザーと義理のきょうだいとなったモリーとマイケルの姉弟。過去に火事で実の母親を亡くしているヘザーは、義理の母や姉弟と打ち解けようとしません。仲良くしようと努力するモリーとマイケルでしたが、ヘザーからは意地悪を繰り返されるばかりか、デイヴに嘘をついては悪者とされることにも嫌気がさしていました。
 芸術家である父母の仕事の環境もあり、家族は郊外の古い教会へ引越すことになりますが、そばにある墓場にはイニシャルだけが記された子どもの墓碑がありました。その墓のそばに入り浸るようになったヘザーは、目に見えない何者かと話すようになります。ヘザーによればヘレンなる少女と話しているというのです。「ヘレン」が悪い霊だと感じるモリーは、両親やマイケルにそれを話しますが、空想だと言って取り合ってもらえません…。

 互いの父と母との再婚によって、義理の家族となったモリー・マイケルの姉弟とヘザー。しかしヘザーは新しい家族に一向に打ち解けようとしないばかりか、実の父デイヴに嘘をついては、夫婦仲・家族仲を引き裂こうとすらするのです。
 もともとしっくりきていなかった家族の仲が、古い教会跡に越して墓場のそばに住むようになってから、さらに悪化しているのは、何か霊的に悪いもののせいなのではと、モリーは考えるようになります。実際ヘザーは、見えない少女ヘレンと話すようになり、その姿をモリーも目撃してしまうことになります。

 険悪な仲といえど、モリーは優しい性格で、ヘザーがヘレンの霊に取り憑かれていくことに危惧を抱いており、ヘザーを救おうとします。しかしヘザー自身が、モリーやマイケルの言動を悪くとらえ、実父デイヴに嘘を交えて告げ口してしまうため、ヘザーに意地悪をし続けていると捉えられてしまい、状況が悪化してしまうのです。
 果ては「同志」であるはずの弟マイケルも超自然的な現象は信じず、モリーの妄想ではないかと考えてしまいます。誰も信じてくれない四面楚歌の状態のなか、モリーはヘザーを救えるのか? 家族の仲を取り戻すことができるのか? という部分がサスペンス豊かに描かれていきます。

 ヘレンの霊や彼女が引き起こす心霊現象は確かに恐ろしいのではありますが、それ以上に目立つのは家族間の葛藤のドラマです。互いに片親が結婚したときの子どもたちの対立、という部分だけでなく、ヘザー自身には母親を亡くしているというトラウマ、さらに何か秘密を抱えているらしいことが示唆されます。
 モリーもマイケルも良い性格の子どもたちなのですが、ヘザーの人間不信は強烈で、彼女の心を解きほぐすことはなかなかできません。そうした事情があるために、幽霊騒ぎが起こっても、それが中傷や妄想だと捉えられてしまい、事態が一層悪化してしまうのです。
 霊のヘレンは、生前の自身と同じような境遇の子どもに憑りついており、ヘザーもその形で憑かれてしまうのですが、モリーに関しては霊感的なものが備わっているようです。その力ゆえなのか、死や超自然的な現象に病的なほどの恐怖心を抱いており、霊の存在についても、その過剰な恐怖心が生み出した「妄想」と取られてしまう、というのも上手いですね。

 非常に恐怖度の高いお話ではありますが、幽霊事件を通して、新しい家族の絆が生まれる、という形の「家族小説」でもある作品です。それは「悪霊」ヘレンですら例外ではなく、彼女の生前の「罪」が許される…というラストにも清涼感がありますね。
情感豊かなホラー作品となっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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