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異形の殺人  飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』
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 飛鳥部勝則の長篇『堕天使拷問刑』(早川書房)は、因習に満ちた町で、猟奇的な殺人事件に巻き込まれた少年を描くホラーミステリです。

 両親を事故で亡くした中学一年生の如月タクマは、田舎にある母方の実家、大門家に引き取られ、叔母である玲の養子になります。転校初日にクラスの不良ガンから「ツキモノイリ」と罵られたタクマは、訳も分からないまま嫌がらせをされます。
 この町では、難病にかかったり頭がおかしくなった人を「ツキモノイリ」と呼び、その「憑きもの」を落とす儀式を「ツキモノハギ」というのです。大門家は「ツキモノハギ」の家系であり、その儀式を行う巫女は、現在は大門玲のみであるといいます。
 大門家の亡き祖父、大造には黒い噂がありました。公然の敵だった現町長、王渕一馬の妻と二人の娘が同時に斬首され殺された事件があり、大造が悪魔の手を借りてそれを行ったとされていたのです。大造に関わる過去から、タクマもまた「ツキモノイリ」呼ばわりをされてしまいます。
 タクマは、友人となった土岐不二男に誘われ、オカルト研究部に入部することになりますが、会の部長である根津京香に魅了されてしまいます。不良ガン、そして彼を舎弟とする町長の息子グレンから、たびたび嫌がらせを受けながらも、京香との交流に喜びを見出すようになっていきますが、身内である大門家に、かって起きたのと同じような猟奇的な斬首殺人が発生することになります…。

 因習に満ちた村で、猟奇的な殺人事件に巻き込まれる少年を描いたホラーミステリ作品です。両親を失い、叔母の養子になることになった少年タクマが、理不尽な体験をすることになります。「憑きもの」や「悪魔」が信じられている町で、亡き祖父の噂から一族自体が疎んじられており、タクマも何も知らぬ間に迫害の対象になってしまうのです。
 最初は「いじめ」程度のレベルであったものが、殺人事件の広がりと呼応して、村ぐるみの迫害へとスケールが拡大し、人々からのリンチによって殺される可能性までもが出てきます。
さ らに、噂に過ぎないと思われた黒魔術や悪魔が実際に存在する可能性も取りざたされ、実際、超自然的としか思えない現象や怪物までが登場します。

 迫害の嵐のなか、タクマの味方となるのが、クラスメイトの土岐不二男と先輩である根津京香。
 不二男は、頭脳明晰な美少年で、殺人事件の謎についても推理することになります。実質的な探偵役といってもいいでしょうか。ホラー小説のファンでもあって、作中に挿入される不二男による「オススメモダンホラー」の章は二段組にして20ページ以上ある詳細なものです。
 この「オススメモダンホラー」の章が抜群に楽しいです。正統派のホラーに混じって、B級、Z級のマニアックなホラーも取り上げられていて、ホラーファンはにんまりしてしまいますね。この章、作品の流れとは全く関係がなく、ちょっと苦笑してしまうのではありますが…。
 根津京香は、たびたびタクマに協力する美しい少女で、タクマの憧れの対象。京香側もタクマに満更でもないようで、タクマの恋心を翻弄します。
 京香とは別に、タクマに接近する少女として登場するのが江留美麗。「魔女」の一族とされる一族の末裔で、その発言も浮世離れしています。タクマが京香と美麗、どちらと結ばれるのか、という恋愛小説的な興味もありますね。

 因習に満ちた村での連続殺人というと、土俗的な雰囲気のものを思い浮かべるのですが、そこにキリスト教的な文化やモチーフを持ち込んでいるのが異色です。伝説の悪魔、神曲、バベルの塔など、日本文化とは異質のキャラやガジェットが頻出し、そこにキッチュな魅力もあります。
 さらにエログロ的な要素も満載です。性愛、サドマゾ的なシーンも多く、作中での殺人の一つのメイントリックにはその極致ともいうような仕掛けが使われており、そのえげつなさに唖然としてしまいます。

 上記に触れたように、序盤から現実離れした空気感があるのですが、読んでいるうちに、その混沌とした世界観に引きこまれて、気にならなくなってしまいます。クライマックスでの展開は、異様な出来事続きの作中でもさらに突拍子もありません。タイトルの「堕天使拷問刑」の由来が分かる部分では、異形ではありながら、その論理の美しさに感嘆しますね。
 作品全体の「語り」にも仕掛けが施されています。事件当時の章の合間に、現在時間のパートがあり、この部分が過去といかにつながってくるのかという部分も面白いですね。
 基本的には本格ミステリといえるのですが、ホラー・怪奇小説的な要素がてんこ盛りに入っていて、全体の印象としてはホラーとして読んでも遜色のない作品になっています。とにかく、多種多様な要素・モチーフがふんだんに盛り込まれていて、この状態でよく作品がまとまったな、と思わせるぐらいの作品です。
 好き嫌いは分かれると思いますが、怪奇ミステリの傑作といっていいのではないでしょうか。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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