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永遠のからだ  マルク・デュガン『透明性』
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 フランスの作家マルク・デュガンの長篇『透明性』(早川書房)は、不死になる権利をめぐって、世界を変革しようとする女性の計画が描かれるSF作品です。

 環境破壊が進み、人類の生存できる地域が北へと狭まっていた2060年代。グーグルを始めとする企業によって人間のあらゆるデータが収集され、人々はその恩恵としてベーシック・インカムを提供されていました。
 理想のパートナーのマッチングを主な業務とするトランスパランス(透明性)社の社長である女性カッサンドルは、インサイダーによる金融暴落を利用して、既に国家規模になっていたグーグル乗っ取りを図ります。彼女は収集されたデータを鉱物による人工的な体に移植し、人間の不老不死を実現する計画を立てていたのです。
 計画を進める一方、カッサンドルは、とある人物を突き落として殺したという罪で告発されていました…。

 一企業が人間の不老不死の権利を独占してしまったとき、何が起こるのか? という面白いテーマのSF作品です。主人公が一企業であるグーグルを買収しようとするのは、この世界ではグローバルなIT企業が力を持ち、ほぼ一つの国家になっているからです。グーグルはアメリカとほぼ同じ力を持つばかりか、選挙では彼らの力を借りないと勝てない分、むしろアメリカよりも強力な「国家」ともなっています。
 この作品で登場する不老不死の技術は、人工的な有機体を体にして、生前のデータを移すというもの。基本的には亡くなった段階で蘇らせるので、不死というよりは復活でしょうか。しかも不老不死の権利は金で買えず、アルゴリズムで判断して選ばれるため、権力や資産は役に立ちません。国家元首といえど選ばれない可能性があるのです。
 それゆえ復活をめぐって、カッサンドルは地球でもっとも権力を持った人物となります。また、温暖化による地球環境の悪化を防ぐため、地球環境にとって有用な人物が優先的に復活されるため、それをめぐって地球の人々の行動をコントロールしようとする意図もありました。

 カッサンドルの地球規模での計画が上手く運んでいく一方、私生活においては困難が現れる、というのも興味深いです。夫である火山の研究者エルファーは、カッサンドルが自分にも内緒で計画を進めていたことに腹を立てていました。またそれ以前に、行方不明になっている二人の息子をめぐっても争いの種が胚胎していたのです。
 飽くまで世界レベルでの活動が優先するカッサンドルと必ずしもそうではない夫との間の葛藤も読みどころでしょうか。そもそも世界規模での人類の救済を願うカッサンドルが、一人の子供の親としては失格だった…というあたりには諷刺的な意図もありそうです。

 不老不死の技術を手に入れた人類はどう変わるのか? それをめぐって社会の仕組みはどう変わっていくのか? 一企業や特定の人間が権力を手に入れるのは正しいのか? など、様々な問題提起がされていくシリアスな作品、と見えるのですが、その実、一筋縄ではいかない作品でもあります。
 後半では思わぬ展開が発生し、それまでのトーンをひっくり返すような趣向が用意されています。その結果、この作品を真面目にとるべきなのか否か、といったあたりを含めて、何ともいいようのない読後感が待ち受けています。
 シリアスな問題提起の書とも、壮大な冗談とも取れる、不思議な読み味の作品で、結末は評価が分かれそうなのですが、どちらにしても、知的な刺激の得られる面白いSF作品だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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