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来るべき運命  クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』
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 クリスチアナ・ブランドの長篇『領主館の花嫁たち』(猪俣美江子訳 東京創元社)は、呪われた一族の末裔の少女たちとその家庭教師となった女性、彼らが見舞われる悲劇を語ったゴシック・ロマンス作品です。

 1840年の英国、アバダール屋敷のヒルボーン家当主エドワードは、妻を亡くし悲しみに沈んでいました。ヒルボーン家は、エリザベス朝時代に先祖が起こした事件によりある姉弟に呪われ、それ以来、ヒルボーン家の花嫁となるものは精神に異常を来して、不幸な死を遂げていたのです。
 エドワードは、まだ幼い双子の娘クリスティーンとリネスの家庭教師として、アリス・テターマン(テティ)を呼び寄せます。テティは過去の事故により、顔に醜い傷跡を持った若い女性でしたが、その振る舞いで家族の信頼を得ることになります。娘たちにもなつかれるテティでしたが、ヒルボーン家の領地管理人でありエドワードの信頼も厚い青年ジェームズ・ヒルからは、一族に悲劇をもたらしかねない存在として警戒されていました。しかし、ヒルとテティは惹かれあい、恋仲となります。
 一方、エドワードは衰弱し、自身の死期を悟っていましたが、死ぬ前に、娘たちを世話する「母親」として、さらに一族の「呪い」を娘たちに及ぼさない「協力者」として、テティと形式的な結婚をすることを考えていました…。

 不幸な運命に遭い続ける呪われた一族の末裔の娘たちと、その家庭教師となった女性の姿を描くゴシック・ロマンス作品です。
 ヒルボーン一族は、過去に遡る因縁により、呪われた運命を持っていました。代々の花嫁が精神に異常を来し、早死にしてしまうのです。館を離れようとする行動も亡霊の呪いにより止められているようで、逃げることもできません。
 娘たちが結婚し子孫を残さなければ悲劇には見舞われない…。そう考えた当主エドワードと協力者であるヒルの行動が、逆に悪い結果をもたらしてしまいます。

 優しく控え目で妹にいつも譲ってしまう姉クリスティーン、溌剌として魅力的ながら姉の欲しがる物を欲しがり手に入れようとする我が儘な妹リネス、もともと純粋で善人ながら裏切られた憎しみのため変貌してしまうテティ、主にこの三人の女性の行動が物語を動かしていくことになります。
 ある男性をめぐってライバル関係になってしまう姉妹と、愛する男性ヒルに裏切られたと思い込み嫉妬と憎悪の固まりとなってしまうテティ、形は違えど愛と憎悪を発端として、女性たちの歪んだ行動と言葉が事態をどんどんと悪くしてしまうという流れは、不快感は高めながら目が離せません。

 「呪い」や亡霊が本当に存在するのか? という点に関しては、序盤から明確に実在することが明らかになり、亡霊たちに関しても、中盤以降ははっきりと姿を現すことになります。「呪い」や亡霊たちが引き起こす事態は確かに恐ろしいのですが、それ以上に恐ろしいのが人間たちの情念。クリスティーン、リネス、テティの愛憎の感情が事態を複雑化させます。
 テティに関しては愛していると思っていたヒルの「裏切り」、クリスティーンとリネスに関しては、ある男性をめぐっての三角関係。彼らの、自身が裏切られたと思ったときの復讐と憎悪の感情を描く部分は凄絶で、亡霊たちの「呪い」が霞んでしまいそうになるほどです。
 さらに屋敷にかけられた「呪い」のせいなのか、そこに住む人々の感情が邪悪な方向に歪められてしまうことも示唆されています。特にテティに関しては、ヒルの存在が絡むと正常な判断ができなくなってしまい、天邪鬼で破滅的な行動をしてしまうこともたびたびです。主要人物たちの行動が亡霊たちや「呪い」に動かされたものなのか、生来の性格から来るものなのかははっきりしないところもあるのですが、どちらにせよ、そうした激しい情念によって、人間関係に悲劇的な結果がもたらさせてしまう物語、とはいえそうです。

 明確な超自然現象の登場する怪奇幻想小説といえるのですが、そこはミステリの名手として知られたブランド、ミステリ的な趣向もしっかり登場します。「呪い」の法則性を推測し、それを解除するための「秘策」が後半に登場します。ただ、その「秘策」があだになり、さらに事態が悪化していってしまう…というあたりのサスペンスにも読み応えがありますね。
 呪いの伝説を背景に、登場人物間の愛憎が悲劇を引き起こすということで、情念に満ちたゴシック・ロマンスとなっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

2014年に読んで、ブログに書いていました・
ゴシックロマンスというより、ホラーだと書いていました。

あまり「館」の印象がないから?
でした。
【2023/10/18 20:48】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ホラー要素も強いですね。道具立ては典型的なゴシック小説風でしたが。
【2023/10/18 21:48】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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