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事件と人生  J・S・フレッチャー『バービカンの秘密』
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 J・S・フレッチャー『バービカンの秘密』(中川美帆子訳 論創海外ミステリ)は、イギリスの作家フレッチャー(1863-1935)による、様々なテイストの短篇が集められた作品集です。

 重要な書類を入れたチョッキが売られてしまい、その追跡劇が描かれる「時と競う旅」、一定期間見つからずに町で過ごす賭けを行った伯爵が浮浪者の振りをして牢獄につながれるという「伯爵と看守と女相続人」、十五世紀の司教の杖の中から宝石を見つけた堂守が兄からの遺贈品との嘘をついて宝石を売りさばこうと考える「十五世紀の司教杖」、立て続けに起こる暴力と殺人が描かれる「黄色い犬」、旅館で起こった盗難事件をメイドが解決する「五三号室の盗難事件」、横領事件の犯人と共に消えた高価な貨幣盗難の真相が明かされる「物見櫓の秘密」、殺人犯のシルエットを目撃した青年が、独自に事件を解決しようとする「影法師」、荒野での銀行家殺人事件の謎が明かされる「荒野の謎」、人気のない島を訪れた新婚の夫婦が海賊に捕まってしまう「セント・モーキル島」、痴情のもつれと思われた殺人事件の意外な真相が明かされる「法廷外調査」、綿密な横領計画が崩れていく様を描いた「二個目のカプセル」、裕福なおじの金を盗んだことから二人の甥に起こる事件を描く「おじと二人のおい」、古本屋の青年が意中の娘の父の特許を取り返そうとする「特許番号三十三」、盗まれた祈祷書の謎を追う「セルチェスターの祈祷書」、誰も出入りできない建物内での謎の殺人事件の謎を描いた「市長室の殺人」を収録しています。

 1920年代に刊行された作品集であることもあって、今から見ると派手さはないのですが、純粋に物語として面白い作品が揃っています。起こる事件自体は大したことがなくても、先がどうなるんだろう?という興味が湧いてくるのですよね。登場人物が普通の人間で、あまりエキセントリックな人が出てこないのも、親しみやすさを感じる要因の一つでしょうか。

 また、殺人事件や盗難事件が出てきても、名探偵的な推理で解決するのではなく、思わぬところから思わぬヒントが出てくる…というタイプのお話が多いです。
 一番「名探偵っぽい」のは、「五三号室の盗難事件」のメイドでしょうが、こちらも解決は非常にあっさりしています。本格的な密室殺人が登場する「市長室の殺人」にしても、ちょっとフェアでない解決が示されるので、本格推理ファンはちょっと怒るかもしれませんね。

 特に印象に残るのは「十五世紀の司教杖」です。ワイチェスター大聖堂に勤める勤勉な堂守リンクウォーターが、ある日、十五世紀から伝わる司教杖を見ていたところ、杖に継ぎ目があり、その中に隠されていた沢山の宝石を発見します。
 架空の兄を創作し、彼からの遺産として宝石をもらったふりをした堂守は、上司の参事会長代理にそれを話し、彼の紹介で、一流の宝石商に鑑定を依頼しますが…。
 宝石を横領しようとした堂守の話なのですが、本質的には彼は善人で、しかもその悪事を知った上司もそれを知った上でだまされたふりをしようとする…という、登場人物が皆、善人であるがゆえに展開する不思議な味わいの物語になっています。運命の皮肉が描かれる結末にも味わいがありますね。

 あと、「おじと二人のおい」「特許番号三十三」も印象に残る作品です。

 「おじと二人のおい」は裕福なおじと、貧乏な二人の甥をめぐる物語。才能のある発明家ながら、経済的に恵まれない青年メルキオルは、裕福なソリーおじから金を借りることを考えますが、おじの性格から二の足を踏んでいました。
 勇気を出しておじの家を訪れたところ、おじは不在で、机の上にあったお金を見つけて衝動的に盗んでしまいます。町中で食事をしていたメルキオルは、もう一人の甥イシドールに盗みを看破され、彼に分け前を分けざるを得なくなります…。
 衝動的に盗みを行ってしまったメルキオルが、詐欺師的な従兄弟イシドールにつけこまれてカモにされてしまいます。単純な恐喝の話になるかと思いきや、イシドールの口の上手さは天才的で、発明を売り込むことにも成功したりと、その微妙な関係性が描かれる部分も興味深いですね。

 「特許番号三十三」は奪われた特許をめぐる物語。
 知り合いの商売を引き継ぎ、大好きな古本屋となった元食料雑貨店員の青年ペニー。家の本を買い取ってほしいと現れた娘は、以前の店の客でした。その娘の父バーランドは最近事故に巻き込まれ亡くなったというのです。
 発明をしていたというバーランドの蔵書を買い取ることになりますが、それらの本の中には書類がはさまれているのをペニーは見つけます。それは、機械の発明の特許をめぐる書類でした。しかもそれはバーランドが勤めていたラムズデイル機械製作所から発表され、話題を呼んでいる機械そのものであるようなのです。
 どうやら、バーランドが亡くなったのをいいことに、ラムズデイルが特許をわがものにし、遺族にも正当な権利を渡していないことを知ったペニーは、その悪事を暴こうと考えますが…。
 古本屋の青年がある特許をめぐって義憤にかられて悪事を暴こうとする、という物語です。悪事を暴くことができるのか? というところと同時に、娘と青年との恋が成就するのか? というところも気になりますね。オーソドックスながら面白い物語です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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