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世界のつながり  恒川光太郎『箱庭の巡礼者たち』
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 恒川光太郎『箱庭の巡礼者たち』(KADOKAWA)は、様々な異世界で繰り広げられる、壮大なスケールの連作ファンタジー作品です。

 大雨で川が氾濫した後、家のそばで箱を発見した少年、内野陽。箱の中には一つのミニチュアのような世界が存在していましたが、人によってその世界は見えたり見えなかったりするようなのです。陽は箱庭の世界を観察することに没頭し始めます。
 箱庭の世界には王族や貴族が住んでおり、町の人々を支配していました。また竜や吸血鬼など、不思議な生き物も存在していました。
 陽の同級生であり、何くれとなく世話を焼いてくる女生徒、絵影久美も箱の中身を見ることができることが分かり、陽と共に箱庭の観察を続けることになります。
 絵影は、箱庭の世界に、誰にも気付かれずに殺人を繰り返している殺人鬼がいることに気が付きます。彼女は誰かが何とかしなくてはいけないと使命感に駆られていましたが、箱庭の世界に入れたとしても二度と戻ってこれない可能性が高いと、陽は絵影を止めることになります。しかし、絵影は陽に内緒で箱庭の世界に旅立ってしまいます…。

 上記の粗筋が、一話目の「箱のなかの王国」の内容で、箱庭に存在する別世界に旅立った少女と、それを現実世界で見守る少年を描いた作品となっています。何とも魅力的な設定で、この箱庭に関わる諸々の話が続くかと想像させるのですが、案に相違して全く別のお話が続きます。

 二話目「スズとギンタの銀時計」は、大正時代、孤児となった姉スズと弟ギンタの兄弟が不思議な銀時計を手に入れるという物語。その銀時計のボタンを押すと、それに接触している人や物ごと未来に行くことができるのです。様々なトラブルや困難に遭遇する度に時間を進めてそれを切り抜け、蓄財も重ねる姉弟でしたが、使う度に妙な不安に襲われるのです。やがて彼らを追う謎の存在が現れます…。
 未来に逃げてしまえばどんな人間も追ってこられない…ということで、どんどん未来へと逃げる姉弟でしたが、彼らの逃避行には代償が伴っているようで、その追跡者から逃れられるのか、というサスペンスたっぷりの作品となっています。

 三話目「短時間接着剤」は、ギンタの孫である天才発明家、海田才一郎が開発した、短時間だけ強力に接着できる接着剤をめぐるスラップスティックなコンゲーム作品。犯罪と裏切りをめぐるやくざ者たちの物語が展開され、それに才一郎の発明がどう絡んでくるのか、という面白みがありますね。

 四話目「洞察者」は、研究所で育てられ、超人的な記憶力と洞察力を持った少年泰介を描いた物語。泰介はほとんど予知に近いほどの洞察力を持ち、見た人の過去や状態、果ては起こしそうな行動まで予想することができます。
 研究所の扱いに我慢の成らなくなった泰介は外に飛び出して隠れ住むことになりますが、ある日通り魔を目論んでいるらしい中年男性に出会います…。
 超人的な洞察力を持った少年の人生を描く物語なのですが、その能力の長所と短所が描かれるのが面白いですね。
 犯罪を起こしそうだとか自殺してしまいそうだとか、そうしたことまで分かってしまうため、それらを放っておくことができず、面倒な事態に巻き込まれてしまう一方、その能力によって不幸になってしまう人間もいる、というシニカルなお話にもなっています。

 五話目「ナチュラロイド」は、異世界の王国を舞台にした物語。その国では王は世襲ではなく、優秀な子どもの中から選ばれた人間が王となっていました。
 政務の大部分は「ナチュラロイド」と呼ばれるロボットたちが行っており、王の仕事は象徴的なものが大部分でした。
 王となった少年ナービは、ある種、気楽な生活を送っていましたが、ある重大な秘密を知ることになります…。
 安定した政治形態の国が描かれるお話かと思いきや、残忍な犯罪やそれが引き起こされるに至った暗い事情が登場するなど、意想外にダークな作品となっています。

 最終話「円環の夜叉」は不死の人々が登場する作品。ある日事故で命を落とした男ラルスは、再び目を覚ましますがそこは80年後の世界でした。
 彼を助けたクインフレアという女性によれば、特殊な薬液〈鉱魅〉を飲ませることで、人間の体は八十年間鉱物化し、その後不老不死にすることができるというのです。
 この世界には不死である「ロック」とそうでない「ダーナー」の二種の人間がいるのだということも知ります。さらにダーナーは死んで後、別の存在として生まれ変わるともいうのです。
 ラルスは、「ロック」で構成された組織「沈黙協会」に所属して働くことになりますが…。
 不死の人々が存在する世界をめぐる幻想小説です。不死でない人々からは彼らは「夜叉」として化け物扱いされており、見つかれば殺されてしまう可能性もあるのです。
 普通人の世界に隠れ潜みながら、長い人生を生きる者たちの世界が描かれていきます。 終盤では彼らが住む世界の秘密の構造が明かされ、タイトルの「円環」の意味も分かることになりますが、その世界観は非常に壮大です。

 現実世界を舞台にしたものから、完全な異世界や別世界を舞台にしたものなど、様々なファンタジーが集められていますが、どうやら六つの短篇同士に関連があり、共通する登場人物や関係者なども現れます。
 さらに、短篇の合間に、それぞれ「物語の断片」が挟まれ、こちらも併せて読むことによって、物語世界のリンク要素がうっすら想像できるようになっています。
 「物語の断片」では、主に、箱庭世界に降り立った絵影の子孫であるミライ・リングテルが吸血鬼ルルフェルと共に旅をする様が登場します。どうやら箱庭世界と隣り合った異世界がいくつもあるらしく、それらの世界を彼らが旅する様子が描かれます。
 中でも面白いエピソードは「物語の断片2 静物平原」。その世界のタンガース平原では千年前に、二つの勢力による大規模な戦争があったというのですが、彼らが衝突する直前に何らかの時空の影響により、全員の時間が止まり硬直してしまったというのです…。
 時間の停止してしまった軍隊員たちの存在を教訓として平和がもたらされており、彼らが動き出したとしたらどうするべきなのか? といった問題も提示されます。

 「物語の断片」を含め、それぞれの短篇は単体でも十分魅力的なのですが、読み通すとそれらの世界が全て繋がっていくことが分かります。時間も空間も異なる世界同士をつなぐ壮大なファンタジーとなっているのです。
 さらに、時間を操る機械、時空をまたいで存在するロボット、旅を続ける一族、優しい吸血鬼、不死の妙薬…。魅力的なガジェットが点在し、物語を彩っています。
 世界同士のリンクが示されるとはいいつつ、明確に因果がはっきりしていない部分も多いのですが、そのあたりの曖昧さを含めて、物語世界を読者が想像する楽しみもありますね。
 長い時代、様々な異世界が年代記的に描かれていき、神話的な感触も強いファンタジーと言える作品です。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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