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煌めく物語  ジェフリー・フォード『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』
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 ジェフリー・フォード『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美編訳 東京創元社)は、アメリカの作家フォードの幻想小説を集めた作品集です。

「アイスクリーム帝国」
 「ぼく」には生まれつき共感覚があり、様々な刺激が別の知覚となって感じられていました。両親からは病気であると思い込まれていたため、学校には通わせられず、親から独自の教育を与えられていました。
 ある日、両親からの締め付けに耐えられなくなった「ぼく」は家を飛び出し、コーヒーアイスクリームを食べることになりますが、アイスを食べた途端に目の前に美しい少女の幻が現れます。少女の姿を見るために、たびたびアイスを食べるようになる「ぼく」でしたが…。
 視覚的な情景や音など、とある知覚が別の知覚を引き起こす「共感覚」の持ち主の少年が、コーヒーアイスクリームを食べることによって、少女の幻を見ることが分かります。彼女の姿を見るために、アイスを度々食べることになります。
 少女が実在の存在ではなく、幻に過ぎないのか、という興味で読んでいくと、実に意外な展開に。体がアイスを受け付けない体質の少年が、無理にアイスを食べ続けて体を壊してしまったりと、少女に出会うための条件を探っていく過程も面白いですね。
 加えて、少年自身が芸術の道に進むことになるという芸術家小説的な一面もあります。
ほろ苦い幻想恋愛小説といえるのですが、そのほろ苦さが幻想小説ならではの要素から生まれてくる…というところも独特です。

「マルシュージアンのゾンビ」
 大学の教師である「私」は、ある日出会った蓬髪の老人マルシュージアンと友人になります。かって政府の仕事に関わっていたというマルシュージアンは打ち明け話をします。彼は人間を洗脳し「ゾンビ」にする仕事をしていたというのです。「ゾンビ」になった人間は命令を何でも聞くようになり、年齢を若返らせることさえ可能だと言います。
 マルシュージアンは、かって過去の実験で作り出してしまった「ゾンビ」を殺すことを躊躇い、家にかくまっているともいいます。自分が死んだ後、彼のことを任せたいとも話すのですが…。
 政府の実験によって生み出された「ゾンビ」をめぐる作品です。表面上は普通の人間ながら、自身の意志はなく、命令したことは何でもやる一方、命令しなければ何もしない存在なのです。マルシュージアンの「ゾンビ」を受け継いだ「私」とその家族が、彼にどう対応していくのか、というところに奇妙な人間関係が描かれていきます。
 エドガー・アラン・ポーの作品が言及されますが、ポーの作品「ヴァルドマアル氏の病症の真相」からインスピレーションを得たと思しい作品ですね。

「トレンティーノさんの息子」
 クラム(食用の二枚貝)の漁をすることで生計を立てていた「私」は、ある日トレンティーノさんの息子ジミーが漁をしようとして溺死してしまったことを知ります。死体は見つかっておらず、彼の死体と出会うと不幸なことが起こるという噂も立っていました…。 漁師同士の掟として、助けられる時は助けるべき、というルールが示されます。同僚から助けられた主人公がまた、死者となったトレンティーノさんの息子と出会ったとき、助けを与えることができるのか? 物哀しさと共に恐怖度の強い作品となっています。

「タイムマニア」
 幼い頃から眠ると必ず悪夢を見てしまう少年エメットは、タイムをお茶にして飲むことで悪夢を抑えられることを知って以来、眠る前にはタイムを飲むようにしていました。
 自転車を手に入れたエメットは、ある日、打ち捨てられた農場の跡地を訪れ、井戸の中に白骨死体を発見します。それは姿を消したと思われていた若者ジミー・トゥースの死体でした。それ以来、エメットの目にはジミーの白骨がつきまとうのが見えるようになります。どうやらジミーは自分の死の真相を解明してほしいようなのです…。
 霊的な能力を持つ少年が、死体を発見して以来、その霊につきまとわれる、というお話です。霊の導きで、事件の真相を探ることになるのですが、その過程で彼が悪夢を抑えるためにタイムを頻繁に摂取していることが知られて、「タイムマニア」のレッテルを貼られてしまいます。
 事件が解決されハッピーエンドを迎えるのかと思いきや、単純にそうはいかないところも面白いですね。表側からは見えなかった大人たちの暗い情念を子どもである主人公が知ることになる、という意味で成長小説的な味わいもあります。

「恐怖譚」
 詩人エミリー・ディキンスンは、ある夜、家の中に家族の姿が見えないことに気が付きます。現れた紳士は、エミリーはすでに死んでおり迎えにきたというのです。
 しかし彼女の寿命を四半世紀ほど延ばす手段が一つだけあり、それは既に死んでいるにも関わらず、母親の呪文によって生きながらえている子どもを死なすことだというのですが…。
 有名な詩人エミリー・ディキンスンを主人公にした作品です。言葉の魔力によって、本来死すべき子どもを死なせてあげる役目を与えられたエミリーが、姿を変えた「死神」と共にその子どものいる家庭に入り込むことになります。
 母親は魔術を使って子どもを生きながらえさせているらしく、子どもの姿はほとんどゾンビそこのけ、という気味の悪い状況が描かれます。
 エミリー・ディキンスンの実在の詩から取られた言葉がところどころに引用されるという趣向が使われています。

「本棚遠征隊」
 「私」はある日、部屋の中に小さな妖精たちがたくさんいることに気付きます。妖精たちは、本棚の本を登り始めます。どうやら本棚を登攀することが目的のようなのです。トラブルで次々と妖精たちは倒れていきますが…。
 本棚を舞台に、棚を登攀しようとする妖精たちの冒険が描かれます。ザイルをかけた本が落下して下敷きになってしまったり、虫と戦ったりと、妖精たちの行く手は前途多難。それを語り手の「私」がハラハラしながら見守ることになります。紙魚を焼いて食べるシーンはユーモラスで豪快ですね。
 なぜか妖精たちの素性や名前が語り手には見えるようになっており、彼らの立場や死んでしまった妖精の家族に同情したりするところも面白いですね。

「最後の三角形」
 ドラッグに溺れホームレス状態になっていた「俺」は、初老の夫人ミス・バークレーに寝場所と食料を与えられて、生活を建て直すことになります。ある日ミス・バークレーに謎の模様が町のどこかにあるはずだと教えられ、その模様をめぐって町中を探すことになりますが…。
 魔術によって町中に作られた「最後の三角形」をめぐって展開される幻想小説です。「最後の三角形」の魔術とは何なのか? 恩人が謎の模様を探す理由とは? 彼女自身の過去が明らかになると共に、主人公である「俺」の人生がどうなっていくのか、といった部分も興味深いですね。

「ナイト・ウィスキー」
 その町では、動物の死骸から生える植物「死苺」から作る「ナイト・ウィスキー」の醸造方法が一部に伝えられていました。その酒を飲むと、夢の中で既に死んだ知り合いや親類に出会えるというのです。
 毎年酒を飲める人間の数は決まっており、その日に彼らを無事に保護する〈酔っ払いの収穫〉という仕事すら定められていました。「ナイト・ウィスキー」を飲んだ人間は無意識に木の上にのぼってしまうといい、トラックで回って彼らの場所を探し出し、夢見ている人間を無事に荷台に落とす、というのがその仕事でした。
 新しく〈酔っ払いの収穫〉の任を継いだ青年の「ぼく」は、「ナイト・ウィスキー」で寝込んだ人間を探すことになりますが、今までに起こったことのない、ある事件に遭遇することになります…。
 夢で死者と出会える酒をめぐる幻想小説です。酒で寝込んだ人間を突き落とす仕事の手伝いをすることになった青年の日常が描かれていき、ほのぼのとした雰囲気で進む物語なのですが、後半思わぬ自体が出来し、そこからダークなトーンが強くなるのもユニークです。
 人間の夢や願望、それらが引き起こしてしまった悲劇を周囲がどう捉えたのか、どう対応したのか…。その選択が間違っていたのかどうかは、読者の判断に任されているようです。

「星椋鳥(ほしむくどり)の群翔」
 警官の「私」は、都市〈ペレグランの結び目〉で定期的に発生する猟奇殺人事件を追っていました。<野獣>と綽名されたその犯人は、残虐に人を殺すのみならず、体から脾臓を取り出し食べている形跡があったのです。
 少女ヴィエナが父親のフォン・ドローム教授が殺された現場の目撃者ということから、犯人の情報を得ようとしますが、もともと言葉を発せないヴィエナからは何も聞き出せません。彼女の行動に何かヒントがあるのではと、助手となったジャリコと共にヴィエナを監視することになります。
 ヴィエナは星椋鳥のモーティマーを飼っており、鳥はいつもヴィエナのそばにいました。ある日、モーティマーを筆頭に集まった星椋鳥たちは、群翔し何かの形を描き出していました…。
 犯人不明の猟奇的な殺人事件が発生し、そのヒントが話せない少女と彼女の飼っている星椋鳥にあることが分かる、というお話です。
 作品のテーマともなっている星椋鳥の存在がユニークです。集団となって飛ぶことで何らかの情報を表し、それが事件のヒントとなっている、という趣向も面白いです。「犯人」の正体も幻想的で、死体から脾臓を奪う理由なども説得力のあるものになっています。魅力的なダーク・ファンタジーです。

「ダルサリー」
 科学者マンド・ペイジによって小さな瓶の中に作られた世界ダルサリー。そこは常に冬の世界、氷の上に作られた都市で、極小の人間たちが暮らしていたのです。
 倫理的な観点から研究を止めざるを得なくなったペイジでしたが、ダルサリーの衰退を防ぐために再び研究に協力するようになります。ある日ペイジは、独自の判断で自身が極小となって瓶の中に入っていくことになります…。
 瓶の中に作られた極小の都市と人間たちが描かれるSF的な物語なのですが、それらを作った科学者ペイジがマッド・サイエンティスト的な人物で、破天荒な行動を繰り返します。それらの経緯を語る語り手の「私」もまた冷酷非情でサイコパス的な人間であるため、物語が極端な展開を繰り返すことになります
 ダルサリーの内部は、氷で支えられた大地に建造物が存在し、常に冬の状態。内部の人間たちにとっては、世界についての独自の伝説が出来上がっている、という設定も魅力的ですね。
 物語の途中で原型となるダルサリーの世界は失われてしまうのですが、やがて多数の「ダルサリー」が発生することになる…という展開はかなり不気味です。

「エクソスケルトン・タウン」
 人類が辿り着いたその惑星は、甲虫によく似た宇宙人が住んでいました。彼らは地球人が持ち込んだ古い映画を気に入り、交換物として彼らの糞を丸めたものを渡すことになります。その糞には強力な催淫剤が含まれていることが分かり、地球人はそれを手に入れようと、多数の映画を持ち込むことになります。
 その星で人間が生存するためのスーツ「エクソスキン」は、過去の有名な映画俳優たちの姿を模したものばかりになり、やがてその場所は「エクソスケルトン・タウン(外骨格の町)」と呼ばれるようになります。
 ジョゼフ・コットンの「エクソスキン」を身に付けた「俺」は事業に失敗し、顔役ストゥートラドルに目をつけられますが、許してもらうのと引換に、大使夫人としてやってきた未亡人グロリエット・モスが持つ貴重な映画を手に入れなければならないことになります…。
 過去の映画好きとなった異星人の星で、俳優の顔形のスーツを着た男が、貴重な映画を得るため、大使夫人に取り入ろうとする…という風変わりな物語です。
 異星人の糞が貴重な宝としてもてはやされている一方、異星人の好みにあうように、過去の映画俳優そっくりのスーツを地球人たちが着ている、という設定は諷刺的でユーモラスながら、展開されるテーマは意外とシリアスなのです。
 ジョゼフ・コットンのスーツを着た主人公と大使夫人のグロリエット・モスとの「恋」が展開され、そのそれぞれの「正体」が分かったときに、その恋の行方はどうなるのか?といった部分が描かれています。「現実と幻想」が隠しテーマでしょうか。

「ロボット将軍の第七の表情」
 異星人ハーヴァングとの戦いのために作られたロボット将軍は、その戦闘力の高さから英雄となりますが、やがてその役目を終えて、日常生活を送ることになります…。
 戦闘兵器として作られたロボット将軍が、平和となった世界でどのように生きるのか、ということが描かれていく物語です。
 しっかりした自意識があるロボットであり、多彩な表情も作ることができるのです。その「第七の表情」は、ある種の人々にとって人を動かす魅力を持つものでした。
 将軍が自分をどのように考えていたのか、どうしたいと思っていたのかが分かる結末にはもの悲しさがありますね。

「ばらばらになった運命機械」
 老いて山奥で孤独に暮らすジョン・ガーンは、かって宇宙の様々な星を旅した男でした。彼には後悔してもしきれないことがあり、それは宇宙で出会ったザディーズのことでした。
 とある星で出会ったザディーズと恋人になったジョン・ガーンは、持ち前の冒険心からその星で暮らし続けることができず、無理に彼女を連れて宇宙に旅立ちます。冷凍睡眠によるショックから、ザディーズは命を落としてしまったのです。
 彼女のことを思い出すジョンのもとに、見たこともない異形の生物が現れますが…。
 恋人を失い、その悲しみを忘れるために宇宙を旅してまわった老宇宙飛行士の過去の物語に、宇宙規模の陰謀とそれを防ごうとする勢力の活動が描かれるという、スペース・オペラ的な趣向が合わさった作品です。
 宇宙規模の陰謀を阻止しようとする勢力の行動が、二人の恋人の「再生」につながっていく…という、壮大なスケールの作品です。
 主要な登場人物が作中で死んでしまい、お話がどうなってしまうのかと心配になるのですが、全く思いもかけない展開となり驚かされます。神話的な風格さえたたえた幻想的なSF作品ですね。

「イーリン=オク年代記」
 子どもが砂浜で作った砂の城に生まれ、その城が崩れるまでのはかない生涯を送るという妖精トゥイルミッシュ。イーリン=オクと言う名のトゥイルミッシュが書き残した極小サイズの日記が、少女が持ち帰った巻き貝の貝殻の中から発見されます。
 そこには、相棒となるハマトビムシのファーゴとの出会い、ネズミたちとの戦い、そして別の妖精ウィルニットの親子メイワとマグテルとの出会いなど、イーリン=オクの生涯の出来事が綴られていました…。
 人間からすると、ほとんど一瞬の寿命しか持たない妖精トゥイルミッシュ。その妖精の生涯が叙情性豊かに語られるファンタジー作品です。
 架空の妖精を描きながら、その存在感は実にリアル。人間にとってははかない生涯でも、主人公イーリン=オクにとっては輝くような出来事が積み重なっているのです。
 人生の豊かさとは、その長さそのものにあるのではない、一瞬の輝きに満ちた出来事が人生を輝かせる…。そうしたことを考えさせてくれる、良質なファンタジーですね。

 この『最後の三角形』、以前に出た同著者の短篇集『言葉人形』に比べると、バラエティの豊かさに目を見張ります。様々なテーマの作品が集められていますが、その一篇一篇の密度が濃厚。続けて読むのがもったいなくなってくるほどです。
 作品個々のメインとなるアイディアが奇想に満ちているのみならず、そこから生み出される思いがけない物語展開、幻想的な世界観、そして叙情性。これは無条件でお勧めしたい作品集です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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