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いなくなる人々  村雲菜月『もぬけの考察』
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 村雲菜月『もぬけの考察』(講談社)は、第66回群像新人文学賞の受賞作。とあるマンションの408号室の住民が、なぜ次々いなくなってしまうのかを四篇の短篇で描いていくという連作作品です。

 とあるマンションの408号室に住む住人たちの日常が描かれていくのですが、何らかの理由で住人たちは部屋からいなくなってしまうことになります。前の住人の退去後にやってきた住人も、また別の理由でいなくなってしまうのです。
 部屋からいなくなる理由は様々なのですが、現実的な理由だけでなく、中には明らかに超自然的な現象に遭遇する住民も混ざっています。人間だけでなく、三話「こがね」では、小鳥が視点人物となるなど、語りの形式もユニークです。

 それにしても、なぜこう何度も住民がいなくなってしまうのか…、その理由というか「考察」が行われるのが、最終話の「もぬけの考察」で、このエピソードでは明らかに超自然的な現象が起こっており、完全な幻想小説と言えるお話になっていますね。

 各話どれもユニークなのですが、やはり一話目の「初音」のインパクトが強いです。
 ある日衝動的に会社を休んだことから、長期の休職を繰り返している女性初音。引きこもっているうちに、なぜか部屋のドアが開かなくなり閉じ込められてしまいます。
しかし、初音は大して気にもせずに怠惰な生活を繰り返していました…。
 仕事のみならず全般的にモチベーションを失ってしまった女性がひきこもり生活を送るというエピソードなのですが、この主人公がエキセントリックな人物で、趣味が部屋に現れた蜘蛛を閉じ込めて餓死させること、という風変わりな性格に描かれています。
 途中で、セキュリティで締めだされた隣人の女性が訪ねてくるなどの事件はありますが、基本部屋で過ごし続けることになります。
 この隣人の女性とのやり取りから、初音はある行為を決断することになるのですが、その結果起こるのがとんでもない出来事で唖然としてしまいますね。こちらのエピソードは、ほぼホラーと言える内容になっています。

 二話「末吉」は、外でナンパした女性に逆につきまとわれてしまう大学生を描く作品、三話「こがね」は、ペットの小鳥のこがねが、飼い主からその友人に預けられるものの、放置されてしまう、という作品になっています。

 上記にも触れましたが。最終話「もぬけの考察」で、それまでのエピソードに関する「考察」が示されることになります。部屋が「もぬけ」になるのは何故なのか?結果的に作品の全体像が曖昧になっていくような雰囲気は独特ですね。
 「群像」の文学賞受賞作ということで、ジャンル的には純文学扱いなのでしょうが、これはほぼ幻想小説といっていい作品だと思います。まだ何らかの出来事が起きていない段階からして、すでに不穏な雰囲気が漂っていて、<奇妙な味>的な味わいがあります。「変な話」がお好きな方にはお勧めしておきます。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「もぬけの考察」読みました。
 純文学を滅多に読まないので、こういう小説は新鮮でした。
「出社しなくても気付かれない」「個人情報のためお答えできません」「いくら電話しても繋がらない」
など、昨今ありそうな不条理の積み重ねで始まったかと思えば、最後は目が点になりました。

 一応、通して登場?する407号室の住人もなかなか嫌な味を出していますね(笑)
【2024/02/02 23:33】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
不思議な味わいの作品ですよね。一見現実の世界を描いているように見えながら、いつの間にか幻想的な世界に入っているところが魅力でした。
【2024/02/03 08:52】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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