ハリウッド残酷物語  デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』
4488598013幻のハリウッド
デイヴィッド アンブローズ David Ambrose 渡辺 庸子
東京創元社 2003-11

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 デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』(渡辺庸子訳 創元推理文庫)は、タイトルからして、映画にあまり興味のない人からは、手に取ってもらいにくいと思うのですが、なかなかどうして面白い作品集です。トーンとしては、〈異色作家短編集〉を思わせる「奇妙な味」の短編集になっています。もっとも、全てが異色短編というわけではなく、普通小説に近いものも混じっています。
 タイトル通り、すべての短篇がハリウッドをモチーフにしているのですが、とくに映画やハリウッドへの思い入れが感じられるというわけではなく、たまたま舞台に選んだだけだという感が強いです。いいかえれば、ハリウッドでなくてもいいので、その点映画ファンでなくても、充分楽しめるでしょう。
 ロバート・ブロックを思わせるホラー『生きる伝説』、不治の病を宣告された売れないプロデューサーの皮肉な運命を描いた『ハリウッドの嘘』、ドラマの登場人物が現実化する『へぼ作家』、ハリウッド貴族になろうとする、野心の強い女優の話『ハリウッド貴族』など、バラエティ豊かです。
 中でも面白かったのは、異色短篇では『へぼ作家』、普通小説では『ハリウッドの嘘』でしょうか。あと、恋愛小説としても面白い『名前の出せない有名人』も捨てがたいところです。
 『へぼ作家』は、作家が生み出した悪役が人気者になりますが、その役を演じていた俳優がやめることになり、ドラマの中で悪役を死なせることになる、という物語。ところがその直後、作家のパソコンの中に、その悪役の名前でファイルがあらわれ、作家を脅迫し始めるのです。無視していると、とうとう悪役の人格は、それを演じていた役者にとりつき、作家の目の前にあらわれます…。
 小説やドラマの登場人物が現実に侵入するという、テーマとしては使い古された作品です。落ちの方も古典的。予想通りの展開と言えば言えるのですが、そのフォーマットに則った小説作りが、手堅く出来ていて安心して楽しめます。
 上にも書いたように、異色短編に混じって、普通小説と呼べるような作品があるのですが、そちらの方が小説としての出来栄えは上でしょう。たとえば、『ハリウッドの嘘』。そこそこ売れたことがある二流プロデューサーが、カムバックをかけた脚本を、上の人物に持ち込みます。気に入った上役は、製作を決定し、有名な監督やデザイナーに話を持ちかけます。とんとん拍子に話が進み、意気軒高としていたプロデューサーは、医者からとんでもないことを聞かされます。なんと、プロデューサーは不治の病にかかっているというのです。しかも、本人には内緒で周りの人物にそのことを教えたというのです。それじゃ脚本の件も、皆のお情けだったのか?
 運命に翻弄される男の悲喜劇。映画化してみたいような、ひねりのきいた物語です。
 『名前の出せない有名人』では、売れない俳優がポルノ業界に入り、二流ながら有名になります。ある日、彼は、ポルノ女優に恋をしてしまいます。女優は仕事上では彼とセックスをしますが、私生活では一線を超えようとはしないのです。思いつめた俳優は、ある日撮影現場をめちゃめちゃにしてしまいます…。
 恋愛とセックスは別、というテーゼを小説化したかのような、よくできた作品。俳優と女優の対比が面白く、男女の恋愛観を考えさせられます。
 普通小説にしろ異色短篇にしろ、プロットは古典的だし、展開も予想通りのものが多いのですが、面白く読めてしまうのが不思議です。飛び抜けた傑作というのはないにしても、どれも高水準で愉しく読める、ウエル・メイドな作品集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

たまたま読んだのですが、すごく良かったです。
検索したら、kazuouさんが書いてらしたんですね。(笑)
【2014/01/23 22:49】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
この短編集、いい味を出していると思います。
あんまり評判にはならなかったと思うのですが、拾いものですよね。
【2014/01/25 08:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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