ふたりで帰ろう  ウィリアム・アイリッシュ『暁の死線』
4488120024暁の死線
ウィリアム・アイリッシュ 稲葉 明雄
東京創元社 1969-04

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 ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』は、タイムリミットを上手く利用したサスペンスでした。本作『暁の死線』(稲葉明雄訳 創元推理文庫)もまた、タイムリミットを設定しているのですが、それが心理的なものであるのがミソになっています。
 都会生活に疲れた青年は、つい魔が差して、盗みを働いてしまいます。ふとしたことからダンサーの若い女性と知り合った青年は、偶然にも、彼女が同じ町のすぐ近くの出身であることを知り、惹かれ合います。
 女性に諭された青年は、金を返そうとするのですが、思いもかけない事に、その住人が殺されていることを知ります。朝までに犯人を見つけなければ、青年が容疑者として、捕らえられるのは目に見えている…。二人は朝までに、真犯人を捜そうと決意します。タイムリミットは、故郷に向かう始発のバスが出る6時まで。夜のニューヨークで、二人の必死の調査が開始されます…。
 本作品では、故郷のバスが出る時間まで、というのがタイムリミットに設定されています。あらすじからだと、このタイムリミット、あまり必然性がないように感じられます。けれど読んでいくうちに、必死で犯人を捜す男女の心理的な焦燥が、上手く伝わっきて、この心理的なタイムリミットが絶対的なものに感じられてくるのです。章ごとに、時計の針のマークでタイムリミットを示す趣向も、なかなか洒落ています。
 最初は全く手がかりのない状態で、殺された男の部屋の状態から推理を進めていく序盤の展開は、なかなか論理的なものがあり楽しめます。ただ、この作家の通例で、全体として謎解きは、あまり緻密なものではありません。
 しかしサスペンス風味は十分です。限られた制限時間から、二人はそれぞれ手分けして、調査を進めることになります。それぞれ手がかりを求めて調査する過程が章ごとに展開されるのですが、お約束どおり、二人とも何回か失敗します。
 そして最終章では、二人とも窮地に陥るのです。ここの展開はなかなか面白いです。二人が相対しているうち、殺人犯はどちらなのか?という疑問もさることながら、どちらも危険にさらされているので、パートナーを助けにいけない、という点で非常にサスペンスを高めています。
 厳密に考えると、要所要所で、かなり穴だらけの設定や、説得力に欠ける部分があるのですが、それを補ってあまりあるサスペンスと作品のムードは捨てがたいものがあります。静寂に満ちた夜の大都会、登場人物たちの望郷や悲哀の念、情緒的なものでは第一級の作品でしょう。
この記事に対するコメント

ウィリアム・アイリッシュ!!数年前にかなりハマって読みあさった時期がありました。といっても内容の詳細は覚えてなく、『暁の死線』もkazuouさんのこの記事をみて思い出したぐらい(笑)。
アイリッシュといえばカバーにある著者の写真(私が持ってる限りでは東京創元社にはなくハヤカワ文庫のみにあり)。いつも同じ写真で大正時代に撮ったような(確かにこの時代に生きた作家だけど)この写真がなぜか気になって(笑)。

アイリッシュの作品はよく映画化もされてますよね。まだ未読の本もあるので読んでみたいとは思ってるのですが、未読本は多分絶版のはず・・・。復刻版が出るのはいつのことやら。
【2006/12/20 01:26】 URL | TKAT #- [ 編集]

ムード満点
よく使われるセピア色のアイリッシュの写真からして、お洒落ですもんね。
アイリッシュ(ウールリッチ)の作品は、どの作品も大きなハズレがないので、安心して読めます。だいぶ読み込むと、ちょっと物足りなくなる面もありますが、好きになった人は、そのマンネリ部分も含めて、好きなんでしょうね。
基本的にアイリッシュは、短編作家なので、長編の場合も連作短編風になることが多いんですが、そこらへんも好みです。
『暁の死線』も品切れですか。創元の『アイリッシュ短編集』も品切れみたいだし。でも数年前に刊行された『コーネル・ウールリッチ傑作短編集1~6』が、たぶんまで現役本なので幸いです。ちなみに、このシリーズ、未訳、既訳ふくめて「ほんとうの傑作」を年代別に集成するというコンセプトで、どれもすばらしい短編集になっているので、オススメですよ。
【2006/12/20 06:51】 URL | kazuou #- [ 編集]


「幻の女」は、読んだんですがこちらも面白そう。
タイムリミット系はドキドキはらはらして
速いペースで読めてしまうのが好きです。

でも、ぜ絶版ですか~図書館で探してみます。
【2006/12/20 22:32】 URL | ユキノ #3346CNtI [ 編集]

職人肌
ハラハラドキドキ、という点では、やっぱり『幻の女』に一歩譲りますが、ムードに関しては、『暁の死線』の方が魅力的ですね。
アイリッシュの作品は、どれもムードがありますが、ちゃんとサスペンス風味を忘れないところは、職人肌ですね。『暁の死線』でも、部分部分にそれなりにストーリーの起伏が用意されていて楽しめます。
【2006/12/20 23:34】 URL | kazuou #- [ 編集]

まだ買えますよ
『暁の死線』はまだ書店で購入可能です。書店で在庫が無い場合は取り寄せになってしまうの
でしょうけれど。amazon、bk1・・・でも買えますが、送料を考えるとちょっともったいないかしら。

山口百恵と三浦友和主演でドラマ化されたようです。(未見)
【2006/12/21 20:17】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

そうですか
いちおうまだ購入可能なんですね。でも近所の書店では、見なくなって久しいなあ。
以前は創元のアイリッシュがずらっと並んでいた覚えがあるんですが、隔世の感があります。
山口百恵でドラマ化なんてのがあるんですか。アイリッシュ(ウールリッチ)は、けっこう翻案ものドラマがあると聞いてますが、見たいような見たくないような。
【2006/12/21 21:13】 URL | kazuou #- [ 編集]

アイリッシュ
アイリッシュは「黒いカーテン」を読んだことがあります。
サスペンスフルで面白かったですよ。
でも、よく考えると、「これでいいのかっ」というオチなんですが。
アイリッシュは短編でも、「おいコラっ」といいたくなる作品がありますよね。
とはいえ、読んでるあいだはたいして気にならない。
アベレージの高い作家さんです。
あと、タイトルがいつもカッコいいんですよね。
【2006/12/22 00:27】 URL | タナカ #- [ 編集]

そうそう
『黒いカーテン』は、たしかにちょっと凡庸な結末かも。量産型の作家だっただけに、凡作も意外とあるんですけど、それなりに読ませてしまうところはすごいと思います。
それに、タイトルの付け方は一流ですね。
【2006/12/22 06:56】 URL | kazuou #- [ 編集]


そうだね、ストーリーに穴はいっぱい、でも、でも、でも、、。
誰にも真似のできないロマンチックで、鳥肌がたつような孤独感。
ストーリーがハッピーエンドかアンハッピーエンドかわからない点、、。
とにかくこの人の作品は日本人に受けるようで、わび、さびといった感もあるように思います。
【2008/08/10 22:47】 URL | hitosi #mQop/nM. [ 編集]


本国では、アイリッシュはそれほど評価されていない、という話を聞いたことがありますが、それは多分に「情緒的」なところが原因なんでしょうね。また逆にそこが、日本で評価される理由でもあるようです。日本人のウェットな感性にはピッタリな作家なんでしょう。
【2008/08/11 20:41】 URL | kazuou #- [ 編集]

翻案ドラマ
私、たぶん 岸本加世子版のドラマをみたような気がするんです・・・・
気のせいかもしれませんが。

翻案ドラマを語ると、長くなるのでやめときます。
【2008/08/14 15:25】 URL | fontanka #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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