死ねない理由  ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』
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 大事故から、奇跡的な生還をとげた男。彼が助かった理由とは? そして、彼にたくされた使命とは? ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』(関口幸男訳 サンケイノベルス)は、魅力的な謎で、読者を引っ張る異色作です。
 ある秋の夜、ロンドン郊外にジャンボジェット機が墜落します。300人近い乗客は全員即死かと思われましたが、副操縦士のデビッド・ケラーだけが、奇跡的に、かすり傷も負わずに助かります。
 世間の冷たい目に加え、同乗していた恋人キャシー、恩師である機長ローガンを失ったケラーは、鬱々としていました。しかも飛行中の記憶が、彼にはまったくないのです。事故原因に不審の念を抱いたケラーは、友人でもある、事故の調査官テウスンに話を聞きます。テウスンによれば、原因は爆弾の可能性が高いというのです。
 しかし、ケラーには、フライトの前にローガン機長と激しい諍いをした記憶がありました。もしや事故の原因は自分にあるのでは? 悩み続ける彼の前に、突然、降霊術者を名乗るホッブスという男が現れます。事故の犠牲者の霊が接触してきたというホッブスの言葉を、ケラーは半信半疑で聞きますが、実際に降霊術の結果を見て、徐々にホッブスを信じはじめます。
 おりしも、飛行機が墜落した小さな街のあちこちで、奇怪な事件が頻発します。窓を突き破って墜死した夫婦、線路で自殺した少年、教会内で発狂する牧師。これらはみな事故と関係があるのだろうか…?
 死者数百名を数える大事故にもかかわらず、かすり傷ひとつ負わなかった男。冒頭から、読者を引き付ける題材で、物語は始まります。そして、そのあとは、事故の原因を探るケラーの調査と平行して、頻発する町の異変が描かれます。
 町で起こる異変のパートでは、悪霊や悪魔の仕業としか思えないような無気味な事件が続きますが、こちらはオカルティックな要素が非常に濃くなっています。とくに、教会に現れ、牧師を発狂させる悪霊の登場するシーンなどは、迫力満点。ただ、ほとんどが露骨に超自然的な事件なので、人間の仕業、という可能性はほとんど除外されてしまいます。
 そのため、奇跡的なケラーの生還の謎についても、超自然的な解決がなされるのだろうとは、予想できてしまうのです。謎自体は魅力的なのですが、読み進むにしたがって、合理的な解決は望めないだろうことが、読者にはわかってしまうのは、ちょっともったいないところですね。
 そのあとは単なるオカルトホラーになってしまうのかと思いきや、結末でもうひとひねりあるのには感心しました。ただ、意外な真相ではあるのですが、伏線もなく、とつぜん出されるので、唐突というか困惑してしまうところがあります。しかも解決の仕方も、ちょっといいかげんというか、脱力系のオチを使っているので、怒る読者もいるかも。
 いわゆる「トンデモ系」に属する作品だとは思うのですが、序盤のサスペンスや怪奇現象の描写などは、なかなかのものなので、一読の価値はある作品でしょう。
 ちなみに、この作品、M・ナイト・シャマラン監督の映画『アンブレイカブル』導入部の設定が、そっくりです。ネタ元のひとつなのでしょうか?

この記事に対するコメント
「ジャンボ・墜落 ザ・サバイバー」The Survivor
'81年にオーストラリアで映画化。日本では映画館上映はなかったもののTVで放映。
『墜落大空港』というよくわからないタイトルでしたが、評判は上々だったようで、2005年にDVDが発売になったようです。
ナイト・シャマラン監督の某有名作品の元ネタ(タイトルを書き込むとネタバレですよね)となった作品として有名。

ジェームズ・ハーバートは実はあんまり好きな作家じゃなくて、唯一OKだったのが『悪夢』(『月下の恋』)。
『魔界の家』もまあまあ許容範囲でしたので、初期作品がダメなのかもしれません。なんせ『鼠』・・・。
【2006/12/17 00:47】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

ハーバート
映画作品が存在することは知ってましたが、未見です。やっぱりネタ元なんですね。それにしても、この作品は、映像化すると相当馬鹿らしくなるような気がします。
ハーバートは、最初に読んだのがハヤカワ文庫の〈モダンホラー・セレクション〉で出ていた作品ですね。『魔界の家』とか『ダーク』とか。なんか安っぽいなあ、という感じで、それから手を出していなかったんですが、ふと古本で手に入れた『仔犬になった男』がすごくよかったので、サンケイから出ていた作品を集めてみました。
『霧』はまあまあだったし、この『ザ・サバイバル』もなかなかでした。ただ『鼠』については、ちょっと…。
『悪夢』は未読なのですが、わりと評判はいいみたいなので、いずれ読んでみようかと思います。
【2006/12/17 07:39】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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